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わたしをストーカーにした本【はてしない物語】

先日参加した読書会で、わたしは、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』を紹介しました。この本は、この先一生手放すことがないであろう本です。

出会い

忘れもしない、小学6年生の1月。神戸三宮にある本屋でこの本に出会い、たしか母か祖父にねだって買ってもらいました。その3日後、阪神淡路大震災が発生し、つい先日行った三宮がウソみたいに悲惨な状態になりました。

その頃、三宮へ行くというのは、私にとって特別なお出かけでした。土地勘もなく、本屋さんがどこにあったのかもう覚えていません。大きな被害を受けたのは間違いないでしょう。

今でも記憶に残っているのは、

当時の身長よりも高い位置にあり、背伸びして取り出したこと。
灰色の箱の背にある『はてしない物語』というタイトルに心惹かれたこと。箱から取り出したとき、深紅の装丁がとても妖しく感じたこと。

この記憶が正しいかは不明です。というのも、本棚から本を取る自分の姿がイメージとして残っているからです。正しい記憶であれば、自分の目で見た景色がイメージとして残っていなければなりません。

何度もこの本を買った時のことを思い出して、自分で勝手にイメージを作り上げたのだと思います。『はてしない物語』の主人公が自分であるかのように。


本好きの小学生を虜にした設定

バスチアンという本好きの少年が、古本屋で一冊の本に出会います。その本の名前は『はてしない物語』。一瞬で虜になった少年は、思わずその本を盗み、学校の屋根裏で読み耽りました。

物語は、バスチアンサイドと『はてしない物語』サイドと交互に進みます。やがて、『はてしない物語』の主人公であるアトレーユの冒険を読むバスチアンと本の世界が接触し、バスチアンは本の中に入り込んでまう…というお話です。

『はてしない物語』を読んでいるわたしと、本の中で『はてしない物語』を読んでいるバスチアンと、バスチアンが読んでいる『はてしない物語』の世界の境界線を曖昧にしてしまう、たまらない仕掛けの本なのです。果てしない感じが漂いますよね。

バスチアンが本の世界に飛び込んでから、冒険の主人公はアトレーユからバスチアンへと交代します。バスチアンは本の世界で英雄となり、天狗になり、アトレーユという大切な友人を退け、心のままに振舞います。だんだん大切なものを失っているとは知らずに…。


想像力を働かせないと先へ進めない

好きな本は集中して一気に読んでしまう小学生でしたが、それでもこの本を読むのにはかなりの時間を要しました。

その一番の理由は、ファンタージェンという世界の独特の描写にあると思います。この世には存在しない生き物や植物たち。わたしたちの世界とは異なる秩序。それらを把握しイメージしながらでないと、先へ進めないのです。この本に挿絵がなかったら、想像することはもっと難しかっただろうなと思います。

ページを行きつ戻りつしながら、自分なりのファンタージェンを頭の中にイメージしていきました。


想像の世界が私の現実にハミ出した

『はてしない物語』を読み終えたわたしは、部屋に引きこもって、ティッシュを何枚も引っ張りだして泣いていました。私にとっては、人生で初めて心を揺さぶられたファンタジーです。

あまりに『はてしない物語』に心を奪われ過ぎて、想像の世界を自分の現実世界に持ち込んでしまいました。

『はてしない物語』の登場人物に宛てた手紙(日記)を書き始めたのです。書き出しは、いつも一緒です。

『幼ごころの君へ』

バスチアンが焦がれたお姫さま宛てです。

なんでこんなことを始めたのか…もうよく覚えていはいません。ハマりすぎたんですね、この本に。


想像力は妄想力へ

当時好きだった男の子について書いていました。今日こんな話をした、今日はおしゃべりできなった、今日はこんなことを言われた…。好きで好きで大好きになってしまったのです。そして、その好きな気持ちは、『はてしない物語』で鍛えた想像力を元に、暴走していきました。

・好きな男の子を何かにつけてコッソリ見る
・好きな男の子を待ち伏せする
・好きな男の子の家の近所をうろつく
・勢いあまってテストにその男の子の名前を書く(すぐ気づいた)
・勢いあまって結婚したらその男の子の苗字になるんだと妄想する
・勢いあまって下校時の下駄箱で告白する
・振られる
・念を送る(ヤバイ!)
・机におまじないを忍ばせる(まじでヤバイ!)

もうお分かりですね。私は想像が妄想になり、晴れてストーカーとなりました。当時はそんな言葉はありませんでしたが。男の子の側は、恐怖を感じるとまでは思わなかったようですが、巨大なインパクトだけは刻み付けられたそうです。

十数年を経て、その男の子は、今はわたしの夫となっています。中学卒業後は特に交流はなかったのですが…執念とは恐ろしいものです。

今はもう、人と適切な距離感を保つことを学びましたので、ご安心くださいませ。もしかしたら、今もうっかりとどなたかに執着を見せることがあるかもしれません。すいません。

ちなみに、手紙(日記)はたぶんまだ実家にあります。あれを捨てるには、家族にもバレないよう慎重に行わなければいけませんので、実家住まいの時には処分できなかったのでした。どこかに封印していると思います。なんとかしなければ…。


最後に

『はてしない物語』には、ストーカーを生む力があります。どうぞお気をつけて。


以上です。ありがとうございました。







15:12ー15:33

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