「私はテロリストでしょうか?」 産経新聞社に対する名誉毀損訴訟について 大袈裟太郎こと猪股東吾

先日の記者会見にもありましたように、本年10月7日、過去に掲載された私に対する産経新聞の報道に関しまして、株式会社産経新聞社を提訴したことをお知らせします。(代理人:神原元弁護士)


訴訟の内容

2017年11月10日の記事で産経新聞は私に対し以下のような内容を報じています。

①「高江を皮切りに辺野古でも暴力の限りを尽くし、その過激さから仲間割れを起こし、善良で穏健な仲間たちの離反を招いた」

②「相手が無抵抗だと罵声を吐いて挑発し揚げ足を取り、いざ検挙となると急に縮み上がって主張を引っ込める小心者。こんな輩が社会を荒らしている」

③「『朗報』に接した良識派の県民たちはネット上で『沖縄県警はいい仕事をした』『天誅(てんちゅう)が下った』『沖縄から追放、強制送還すべき』などと声を上げた」

訴状より抜粋

当然ながら上記のような暴力行為を行った事実はなく、悪質な虚偽をもとにした誹謗中傷と名誉毀損であると考え損害賠償請求を提訴しました。

記事による反響

事実と異なる問題の記事を皮切りに、私への誹謗中傷は堰を切ったように膨大なものとなりました。

産経新聞 ネット版 2017年11月10日付

記事掲載の当日、私は辺野古新基地建設に対する抗議活動の中で警察に逮捕されました。

しかし法的に「逮捕された」=「犯罪者である」ということではありません。事実、この件では逮捕されたものの翌日には釈放され不起訴処分となっています。(したがって前科にはあたりません。)
それにも関わらず「大袈裟太郎は犯罪者である」「前科者」「テロリスト」等、根拠のないレッテル貼りが行われるようになり、果ては「中国のスパイ」「児童を誘拐した」「動物を虐待した」といったデマが拡散されるまでの事態に発展しました。さらに、買い物をしている最中にも胸ぐらを掴まれ「殺すぞ」と脅されるなど、日常生活にも支障をきたすほどになりました。

このように、大手新聞社による名誉毀損は著しく個人の社会的評価を低下させ、人権や生活をも破壊しかねない非常に危険な事案だと考えております。

フェイクニュースとの闘い

私は2016年、沖縄北部、高江のヘリパッド建設反対運動の現場を訪れました。当初は10日の滞在予定でしたが、現場で起こっていることと報道されている現実との圧倒的乖離に衝撃を受け、現場からネットを使って発信することで、少しでもその乖離を埋めなくてはならないと感じ、発信を開始し、そのまま沖縄へ移住しました。

その年の秋のアメリカ大統領選でトランプ氏が勝利したことによって、ポスト真実、フェイクニュースという言葉にスポットが当たりました。
私が沖縄で闘っているものもまさにこれだ。と感じました。

米軍基地建設に賛成、反対はそれぞれの自由です。しかし、その判断材料に誰かの意図的な「フェイクニュース」が混入することで、個人の冷静な判断能力を阻害するという大きな社会問題に直面しました。これは社会や国家、共同体の根幹を破壊しかねない重大な問題であると私は考えています。

記事の背景にある沖縄ヘイト

そしてそれは沖縄に対して過剰に行われてきました。
沖縄の基地反対運動には「日当が出ている」「海外の勢力の工作員である」「極左の暴力集団である」また、故翁長沖縄県知事に対しても「中国から支援を受け、琉球王の称号が与えられる密約がある」など、フェイクニュースは枚挙にいとまがありません。


このように沖縄の市民運動に関わる人々は「一般市民ではない」特異な集団であるとの、権力者に都合の良い虚像が作り上げられてきました。 (沖縄の市民運動が非暴力の運動であることは大前提として共有しておきます。)

こうしたフェイクニュースに抗い、言論空間を少しでも正常化しようと発信していた私も、いつの間にかフェイクニュースの標的にされていきました。沖縄タイムスや琉球新報がそうであるように、権力に不都合な事実を発信する者はより激しく標的にされ、デマによってその発信の信憑性を落としめられることになるのです。

今回、訴訟に至った2017年の私に対する報道はその一端に過ぎません。
今年9月に賠償命令が下ったDHCテレビ「ニュース女子」による辛淑玉氏への名誉毀損や、産経新聞社を相手取った石嶺香織元宮古島市議による訴訟(現在係争中)さらには沖縄タイムス阿部記者の訴訟事案と同様に、個人を標的にすることで沖縄の基地反対運動や人権運動を貶めることを目的とした悪質な世論誘導、いわゆる「沖縄ヘイト」―――メディアを悪用した現代型の弾圧と言わざるをえません。


今回の訴訟は私個人のものである以上に、沖縄に対するメディアの在り方や言論空間の歪みを問う社会的意義を持つものであると考えています。

記者会見を終えて

記者会見を終え、多くの賛同の声が届き心強い想いです。孤独な闘いに一縷の光が差すような温かい感覚に包まれています。

しかしながらそれと同時に、SNSには更なる誹謗中傷の嵐が吹き荒れ、かねてから問題が指摘されているYahoo!ニュースのコメント欄には数百件に上る中傷が連なっています。この中には「テロリスト」などの名誉毀損に該当するものも存在し、声を上げることのリスクを改めて痛感する事態となっております。

Yahoo!ニュースのコメント欄及びTwitterより


ご支援の呼びかけ

この産経新聞社との法廷闘争は始まりに過ぎません。前述したように私に対する、いわれなき名誉毀損は後を絶たず、これらのひとつひとつについても法的に対処していく所存です。

そして、今回の産経新聞社に対する裁判及び今後の名誉毀損訴訟に対して、ここで支援を呼びかけたいと考えています。このような呼びかけをすることでまた心ない中傷を浴びることが想定されますが、そうしてでも乗り越えなければならないほど、現行の法制度は名誉毀損等の被害者にとって資金的にも労力的にも厳しいものであることを書いておかなければなりません。

例えば今回の産経に対するケースだけでも訴訟の準備が整うまでに4年がかかりました。個人の力では対応できないほど煩雑な作業にリソースを割かなければならず、この構造では泣き寝入りしてしまう被害者が多いのも無理もないと感じています。

また、今回は相手が新聞社のため直接的に裁判に着手することができましたが、相手が匿名の場合、発信者情報開示請求に大きなコストと労力がかかるという実状もわかってきました。
(発信者情報開示請求には、約数十万円もの費用がかかり、半年以上の時間を要するケースもあります。さらに、開示請求費用そのものに対する損害賠償は難しいというのが現状です。)
労力も時間も費用も、大きなマイナスを抱えながら、それでも名誉回復のために闘うという被害者にとって恐ろしく不均衡な実態が存在するわけです。

一連の裁判は私個人のものではありますが、現代の大きな社会問題である言論空間の歪み、さらにはその被害を訴えることの困難な現行の法制度について、広く世に問うものにしていこうと考えています。

ご支援のお願いに関して、以下の3つのお約束をさせていただきます。

①裁判の進捗報告
②ひとつの裁判が終わるごとに収支報告をすること
③これらの裁判を通じて得た経験を具体的にレポートとして共有していくこと

とくに③によって、同じような誹謗中傷の被害に苦しむ多くの人々が、諦めることなく、身を潰されるような苦悩から解放される助けになれればと考えています。
私自身、この裁判の着手まで4年がかかったのです。個人の力では折れてしまいそうな過酷な日々でした。これからの世代にこのような体験をさせないために私の得た知識や経験を共有し、少しでも多くの被害者を救うべく連帯していきます。

上記に賛同される方は、ぜひともご支援をお願いいたします。

【ご支援方法】

①口座振込
琉球銀行 404 (大宮支店)
普通口座 0672044 イノマタトウゴ
(裁判費用の専用口座となっております)

②当note記事へのサポート(最大1万円まで)

現在、療養のために活動を休止している中での突然のお知らせとなり恐縮ではありますが、最後までお読みくださり深く感謝いたします。
ぜひ、この一連の裁判に引き続きご注目いただければ幸いです。

大袈裟太郎こと猪股東吾

取材等お問い合わせはこちらまで
gotojudge@gmail.com


最後に、昨年発売されたBLMに関する子ども向けのZINEに寄稿した私の文章を転載します。フェイクニュースとの闘いは私の人生の命題だと決意を新たにしております。

読者の皆さんは伝言ゲームをしたことがありますか?
最初の人から最後の人にメッセージを伝えるのはとっても難しいですよね?
ゲームだったら間違っても爆笑して楽しいですが、これが人の暮らしや命に関わること、人権や差別に関わることだと、間違ったら大変なことになってしまいます。その間違いで悲しむ人や苦しむ人、死んでしまう人がいるかもしれません。
今、ネットの発達した世の中で、いろいろな情報に触れられるという良い面もありますが、どれが本当かよく分からなくなってしまうという悪い面もあります。そして、わざと人に嘘の情報を流して自分の得をしようという人たちもいます。それを「フェイクニュース」と言います。大人でも騙されてしまう人がいるので、これには子どものうちから騙されないように練習しておいてほしいです。
「フェイクニュース」に騙されないためにはまず、その情報を発信しているのが誰か?きちんと責任を持って世の中に出されたものなのか、信用できるものか、注意深くチェックすることです。
そして、信用できる情報でも、ひとつだけを鵜呑みにしないことです。いろんな情報を自分の中に入れて、そこから自分なりの考えを生み出してください。情報というのは答えではなく、ヒントなのです。最後に答えを出すのはいつも自分です。どうかそれを忘れないでほしいのです。

BLM PICNIC ーなぜ黒人の命は理不尽な扱いをうけ続けているのか?」より抜粋
ー発行 BLM
PICNIC制作委員


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