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性自認?水でできた彫刻に聞いてみてちょうだい。

「あれ?自分男か?女かおもたわ」
60代くらいの男性から嗄れ声で言われた一言。男性ですと笑顔で答えると相手も「ありがとう」と笑って買ったものをポケットに入れて出ていった。

「ねーちゃん、たばこ頂戴」
たくさん汚れた作業着で入り口からレジへ直行しながら一言。足跡もたくさん残して。いつもお疲れ様です。

「それお姉さんに渡して、ピーしてもらお」
若いお母さんがお子さんの手に持つお菓子をレジへ誘導する一言。未来が詰まった小さな指先が徐々に解けていく。私はそれをすぐにピーだけ済ませて急かす天使に戻す。

「すみません、あの、ドーナツが四つ入ったやつ......あ、男の子やったんやね。私女の子に見えとったわ、ごめんね」
笑いながら謝るおばあちゃんには悪気の一切を感じず、ただただ優しい笑顔に癒された。お孫さんへのおやつでしょうか?残念ながらその日はお求めのドーナツはなく、私だけ暖かいものをいただいてしまった。

マスクをしてるおかげもあるかもしれないけれど、声を出さなければ女性に間違われることがたまにある。現在は人生で一番髪が長いというのも理由のひとつでしょうけれどね。

私の性自認は波があり、女性性が強いこともあればその逆の時もあり、中間のどちらでもない時だってある。それでもいつだって女性に見られる、または間違われるというのは私にとって嬉しいことで、何も失礼なことじゃない。間違えた側は申し訳なさそうにしていることが多いけれども。

私が理想する頭の中の架空の人物というのはいつも女性像で、それは水でできている彫刻の像に近い。常に表面は小さな波をたてていて、心の動きに直結している。その架空の像は、時に胸が膨らみ、時に筋肉質になり、時に性器も変わる。それでも顔は常に女性的でお尻もしなやかな曲線を描いている。それはもう、ウェヌスと見間違えるほどに。


──あれ?自分男か?女かおもたわ。

「ええ、女ですよ。声が低いので間違えられやすいんですけどね」と微笑んで見せたらあの人はどう反応しただろうか。

「私、頭の中に天女がいますので」

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