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【シナリオ】あの世ワーク 5

最初:あの世ワーク 1
前話:あの世ワーク 4

○あの世センター・休憩室

   休憩室には厚子と受付がいる。
   担当、部屋に入って来る。

担当「ああ、仕事したくないなあ」

   受付、担当を冷めた目で見る。

受付「あなたはイヨさんのおかげで、楽をしているのでは?」

   担当、厚子の近くにやって来る。

担当「私、あの人、取っつきにくくて苦手なんです」

厚子「担当さんはいつもヘラヘラしてますもんね」

担当「嫌な言い方しますね……。それはそうと、どうでした? 一人でのお仕事は」

厚子「私、さっきの人には、お孫さんに見えたらしいです。そんなこともあるんですね」

担当「あはは。ありますねえ、それ。赤ちゃん言葉で話しかけられたときとか、こっちも思わず赤ちゃん言葉で返事しそうになりません?」

厚子「いや、それはないですけど」

   受付、小さく吹き出す。

厚子「おっ、受付さんにウケたみたいですよ」

担当「私、あの人が笑うの、初めて見ましたよ。イヨさんって凄いですね」

厚子「いやいや、今のは担当さんが笑われたんですよ。ねえ?」

   厚子、受付に話を振る。

受付「お二人は息が合っているな、と思いまして」

   厚子、担当に向き直る。

厚子「ですって。私たち、コンビでも組みます?」

担当「勘弁してくださいよ」

   厚子、受付に話しかける。

厚子「振られちゃいました」

受付「あの、さっきから何でイヨさんが間に入ってるんですか?」

厚子「お二人に仲良くしてもらおうかと」

担当「余計なことしなくていいですよ」

受付「別に仲が悪いわけではありませんよ」

厚子「私にはお二人が年齢の近い男女に見えているんで、つい」

   担当、ひらめいた顔をする。

担当「あっ、イヨさんって『お見合いおばさん』ってやつですね!」

   厚子、担当を睨み付ける。

厚子「今、何て言いました?」

   受付、吹き出す。


○猫の庭(夢)

厚子「猫さん? どこにいるんですか?」

   黒猫、ひょっこりと現れる。

黒猫「呼んだ?」

厚子「あなたのやり方は強引すぎます」

黒猫「見つかった?」

   厚子、ため息をつく。

厚子「分かりません」

黒猫「そう。じゃあねえ……」

厚子「今度はどこですか」

黒猫「どこだろうねえ……、どこだと思う?」

厚子「うーん、ここで探し物をするなら……」

   厚子、辺りを見回す。

厚子「木の上、とか?」

   厚子、木を指し示す。

黒猫「そんなところにあるかねえ」

厚子「猫さんなら登れるのでは?」

黒猫「私は登らないなあ」

厚子「そうなんですか。じゃあ……」

   黒猫、尻尾をパタパタと振る。

黒猫「いや、もしかするかもしれないぞ」

厚子「でも猫さんが普段行く場所ではないんでしょ?」

黒猫「念のため、迷子さんが登って見てきてよ」

   厚子、嫌そうな顔をする。

厚子「この年で木登りなんて、もうできないですよ」

黒猫「ハシゴがあったと思うから、それ使って」

厚子M「人使いの荒い猫だなあ……手伝うとは言ったものの……」

   厚子、用具入れにあったハシゴを木に立てかける。

黒猫「気をつけてね」

厚子「それ、フリじゃないですよね? やめてくださいよ、危ないことするのは」

   厚子、ゆっくりとハシゴを登る。
   やがて太い木の枝に乗り移る。
   周りの枝を観察するも、何も見当たらない。
   下にいる黒猫に声をかける。

厚子「何もないですよぉ」

   黒猫、ハシゴに飛びかかり、倒す。

厚子「ウッソでしょ!?」

   厚子、倒れたハシゴを呆然と見下ろす。

厚子「何してくれてるんですか! これどうやって降りればいいの!?」

黒猫「大丈夫、大丈夫。そこからピョンと飛べばいい」

厚子「そんな簡単に言わないでくださいよ。私は猫じゃないんだから」

黒猫「それ、頑張れ、頑張れ」

   厚子、下を見て息をのむ。

厚子「ううっ、怖いけど……ええいっ!」

   厚子、木の枝から飛び降りる。


○厚子の部屋(夜)(夢)

   厚子(24)、カバンを乱暴にソファに投げる。

厚子「つっかれた……」

   厚子、スマホを持ってソファに座り、電話をかける。

清春の声「あっちゃん? どうしたの、今お仕事終わったの?」

厚子「ハル、聞いてよ!」

清春の声「職場で嫌なことでもあった?」

厚子「そうなの!」


○会社・オフィス(回想)

   三浦(59)、周辺の人物と世間話をしている。

三浦「先週、娘が子供産んでさ。ついに俺もおじいちゃんだよ」

   三浦、時計を見る。

三浦「おっと、もうこんな時間だ」

   三浦、背後にいる厚子に声をかける。

三浦「厚子ちゃん、応接室にコーヒー持ってきてね。お客さんの分も」

   厚子、振り返る。

厚子「私ですか?」

三浦「だってほら、かわいい女の子がいれてくれたほうが、おいしく飲めるじゃない?」

   三浦、厚子に向かってウインクする。
   厚子、無表情で給湯室に向かう。

厚子M「女がいれたから何だってのよ。かわいいって言っておけば褒めたつもりになってるのもムカつくーっ! わざとマズくしてやろうかな! ていうか何だあのウインクは!」

   厚子、ムッとしていた顔をニヤけさせる。

厚子「ふふっ、うふふっ。ウインクって!」

   (回想終わり)


○厚子の部屋(夜)(夢)

   厚子、スマホに向かって喋っている。

厚子「……ってことがあったんだけど。これってセクハラだよねえ?」

清春の声「でも僕も、そういうのあるよ」

厚子「そういうのって?」

清春の声「男だから重いもの持って、とか。力仕事は全部僕たち男性陣に回されるんだ」

厚子「なるほど、確かにそういうのもセクハラか! 今ちょっと反省してる……」

清春の声「でもまあ、それくらいなら何も言わずにやるけどね。実際、力は男のほうがあるんだろうし、頼られるのも悪い気はしないし……」

   厚子、ニヤリとする。

厚子「へえ、ハルがねぇ。子供の頃は、あーんなに頼りなかったのに」

清春の声「……あっちゃん、いま僕には、誰にも負けないって思うもの、あるんだ」

厚子「ええっ? 何それ初耳。教えてよ」

   スマホから、スーハー、と深呼吸する音が聞こえる。

厚子「ハル?」

清春の声「……僕、あっちゃんのことを好きな気持ちは、この世で一番だと思う」

厚子「な、何、恥ずかしいこと言ってんの……」

清春の声「本当だよ」

   厚子、赤くなった顔を手で覆う。

厚子「そういうことは、直接、顔を見て言ってよ」

   (夢終わり)


○あの世センター・休憩室

担当の声「イヨさん、イヨさーん」

   厚子、ガバッと机から顔を上げる。

厚子「うわああっ、何これすごい恥ずかしい!」

担当「へえ、恥ずかしい記憶が蘇ったんですか?」

厚子「……あっ、担当さん、こんにちは」

担当「はい、こんにちは。で、どんな恥ずかしい記憶が?」

   厚子、苦々しい顔をする。

厚子「そこは聞かなかったフリしてくださいよ。そういうところじゃないですか? 受付さんに睨まれるの」

担当「ですから、それはもういいですってば」

   厚子、担当の顔を見る。

担当「何ですか?」

厚子「いえ……」

厚子M「担当さんの声って……」

   厚子、立ち去る担当の後姿を見つめる。

次話:あの世ワーク 6

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