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創業430年以上。尾道造酢で受け継がれる、素材を活かしつくすお酢づくり

「さ(砂糖)、し(塩)、す(酢)、せ(醤油)、そ(味噌)」。

家庭科で習ったおぼろげな記憶があって、
家にたいてい揃っている、調味料のオールスター。

そのなかでも今回は、尾道で長い歴史のある「お酢」のお話です。 
(尾道市地域おこし協力隊の自己紹介記事instagram)

1. 創業430年以上のお酢工場へ

容赦ない雨が地面に打ち付ける、9月頭のある日。
傘をさして向かった先は、尾道の老舗企業、株式会社尾道造酢

創業430年超えという圧巻な歴史のある会社だ。ここでは尾道市民なら誰もが一度は食したことがあるであろう、ソウルフードならぬソウル調味料のお酢が製造されている。

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尾道のお酢づくりの歴史は古く、豊臣秀吉の時代まで遡る。

秀吉の天下統一後、朝鮮から日本に呼ばれたお酢職人が、温暖な気候と豊富な水資源のある尾道でお酢づくりをはじめたと言われている。その頃から続いているのが、尾道造酢なのだ(下の写真は北前船でお酢を運んでいた当時の壺など)。

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工場へはいちじく酢の取材以来の訪問だ。実を言うと、今回は尾道造酢で働く移住者さんのインタビューが目的で訪問していた。そこに無理を言って、工場見学も入れてもらったのだ。改めて今日伺いたい話を伝えると、

工場長:「まずは工場の説明からはじめましょうか。」

と笑顔で応じる工場長。会議室から、さっそく工場へ連れて行ってくれた。

2. お酢ができるまで

工場のなかでは、どこからか短い間隔をあけてシュー、シューと白い煙が立ち上っている。430年を超える工場の柱や天井は、木造建築のままだ。煙やお酢が染み込んでいるのか、木が全体的に深みのある色をしている。

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ー圧搾ー

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背丈以上もあるタンクがあちらこちらに置いてあり、そこからビニール製のホースや鉄のパイプが伸びている。それらが天井や床をはっている先を目でたどりながら、黄色いコンテナや木箱が両脇に積み上げられた通路を歩いていく。

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はじめにたどり着いた部屋では、大きな木の板が壁に立てかけられていた。すぐそばに、機械が取り付けられたこれまた大きな木箱が置いてある。

工場長:「どの果実酢も、まずはジュースをつくる工程があります。」

そう言って、大きな木箱のなかから布袋を一つ掴んで見せてくれた。

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工場長:「濾布袋(ろふぶくろ)と言って、粉砕した果物をこの袋に入れます。それを粗濾過槽(あらろかそう、通称「舟」と呼ばれる木箱)のなかに何袋も重ねて入れて、その上に木の板を置いて、上から圧力をかけて圧搾します。大手の会社だと、この作業は機械でしていますよ。」

つづいて「舟」の横にあるタンクを指差す。

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工場長:「搾った液はこの窯で80度の熱処理をして殺菌します。それから酢酸菌が働きやすい温度まで下げて、液に酢酸菌を植え付けます。」

ー発酵ー

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続いて向かったのは、何やら細長い箱が並べてある部屋。

工場長:「毎日お酢ができる独自の発酵方法をしている部屋です。赤酢をつくるときは酒粕、果実酢のときはアルコール分を含んだ果汁が蛇口を伝って箱にチョロチョロと入ります。隣り合う2つの箱はつながっているので、液が行って帰って来ます。帰ってくるまでに箱のなかにある酢酸菌が、酒粕や果汁をお酢に変えてくれます。」

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依頼されてつくったお酢以外の、尾道造酢でつくられているお酢はすべてこの方法で発酵させている。

工場長:「市場で流通しているお酢の大半は、機械で空気を入れながら撹拌(かくはん)して発酵させています。この方法では酸度が15%くらいのお酢をつくることができます。市販のお酢は酸度が5%弱なので、単純に酸度15%のお酢を水で3倍に薄めれば市販のお酢をつくることができます。」

尾道造酢のように自然に発酵させる方法だと、一度に大量生産はできない。けれども酸度が5%のお酢ができあがるため、後から水を混ぜる必要がない。薄めないぶん素材そのものが味わえて、鼻をつく嫌な酸味もない。

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工場長:「果実酢は、酢1リットルに対して果汁が300g、つまり3割以上入れる決まりがあります。でも、弊社のお酢は6~8割が果汁です。柿酢に至っては、酢酸菌を付けるときに柿自体が含むアルコール分を使うので、果汁100%です。」

依頼されてつくるお酢も、大きなタンクのなかで1~3ヶ月じっくり発酵させてつくるため、酸度が5%くらいのお酢ができあがる。

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個人的に今回の工場見学で一番印象に残ったのは、このとき聞いた酢酸菌の話だ。

工場長:「酢酸菌ってデリケートなんです。430年も続いているから大丈夫だろうと思っていたのですが、急に原因不明で元気がなくなることがあるんです。ただ、工場の至るところに酢酸菌がいるので、しばらくしたら復活するんですよ。今日も良くないですね...へそを曲げるんです。」

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まるで人間の話をしているかのように話す工場長。そう、菌も生き物なのだ。生き物が400年以上もせっせとお酢をつくってくれているのだと思うと、ちょっと感動というか、自然の神秘すら感じてしまう。

毎日酢酸の状態を見ては、元気な酢酸菌を網ですくって、元気のない場所に移植してあげているのだそうだ。

ー熟成ー

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お酢が生成されたら、粒子が細かい珪藻土(けいそうど、よくバスマットの素材で使われる)でろ過して、細かいゴミを取る。それから熟成タンクで約半年寝かせればお酢の完成だ。

こうして長い時間と手間をかけて、尾道造酢のお酢ができあがるのだ。

3. 老舗企業のサステナブルな挑戦

ひと通りのお酢づくりの工程を見させてもらってから、工場長がさまざまな種類のお酢をふるまってくれた。

お酢

まずは果実酢を水で割った、甘みと程よい酸味が絶妙なお酢ジュース。それから、ポリタンクに入った赤褐色のお酢も味見させてもらった。

工場長:「今年力を入れている、橙(だいだい)の皮を酵素で溶かしてつくるお酢です。お酢づくりの工程で毎年20トン近く橙の皮のゴミが出ていたのがもったいなかったので、試行錯誤して皮からもお酢をつくりました。」

一口飲んでみると、他のお酢ではまずない”苦味”が後を引く。ポン酢にするとほろ苦く、大人向けな味ができるそうだ。

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工場長:「ただ、お酢にしても皮が消費しきれないので、他の使い道も考えていて。微生物の生ごみ処理機だと虫が湧いてしまうし、時間がかかって処理が追いつかない。熱乾燥式の生ごみ処理機が手に入れば、農家さんが直まきの肥料として使えるようになるのではないかと考えています。」

4. まとめ

考えなくても成り立ってしまうところをあえて考えて、ちょっとずつアクションを取り続けるのは並大抵じゃない。430年以上も地元に根づいていてなお安住せずに、循環するものづくりの挑戦をしているのだ。

尾道造酢のお酢は、尾道市内のスーパーやインターネットで購入できる。ふるさと納税の返礼品としても人気だ。

実際に味わう前にも、キッチンの戸棚を開けたとき...スーパーで調味料売り場に行ったとき...ちょっと思い出してみて欲しい。その裏で、循環を考えたものづくりに静かに燃えるひとたちがいることを。

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