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手と腹で学ぶ自然学@ごちそうの森|大地の再生流・森の手入れから学んだこと

広島県尾道市には、「尾道自由大学」という市民活動団体がある。

おおもとは東京の「自由大学」の活動で、これからの生き方や働き方に合わせたさまざまな講座を、老若男女問わず地域のひとたちに提供している。

尾道自由大学はその姉妹校という位置づけで、「海と島学部」「街とメディア学部」「旅と文化学部」「仕事と未来学部」「暮らしと環境学部」の5つのカテゴリーに分けた講座や、特別講師によるゼミを開講している他、地域の魅力的なイベントなどの紹介もおこなっている。

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気になってはいたけれど、参加したことがなかった。

それなのに...さらに言うと、特段熱心な自然派でもないのに、尾道自由大学のHPで目に止まって参加したのが、森の手入れをするゼミだった(受けてから、ただ自然を整備する話ではないと気づくのだけれど、それは後ほど)。

そこで今回は「森の手入れ」をテーマに、ゼミで体験したことをご紹介します(尾道市地域おこし協力隊の自己紹介記事instagram)。

1. ごちそうの森で集合を

9月のある土曜日。
前日までの朝から雨の予報が、少しずれて曇天に。

念のため上下防水服という完全防備で原付に乗り、生口島(いくちじま)へ。この島でイノシシ猟などをしながら暮らす、”ししガール”こと長光祥子(ながみつ しょうこ)さんのゼミに参加しに行く。

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集合場所の「ごちそうの森」(上図のピンの位置)は、長光さんが事業準備をしている場所の名前だ。自然に触れあいながら"命の循環"を学ぶ場を全国につくることを目指して、10年ちょっと前に大阪から移住し、生口島のごちそうの森を開拓している。

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そんな長光さんが開講するゼミの名前は、野生に学ぶ「暮らし」ゼミ

自然の近くで暮らしたいひとを集めて、ごちそうの森のお手入れをいっしょにしながら、自然を整備する方法を身に着けようという内容だ。わたしは自然の手入れをする予定はなかったけれど、同じようにさまざまな理由を持った参加者が近隣の地域から集まっていた。

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講師は、「大地の再生 結の杜づくり 中国支部」のお二人。この団体は、造園技能士(庭についてさまざまな知識や技能をもつひと)をしていた創始者が、長年自然と関わるなかで見出した傷んだ自然を回復させる「環境再生」の手法を、研究・普及させる活動をしている。

円になって一人ひとりの自己紹介タイムを終えると、各々草刈り鎌やスコップを手に講師の周りへ集まった。いよいよゼミのはじまりだ。

2. 水と空気の流れを知る

ごちそうの森は、山の中腹あたりに広がる比較的平らな土地だ。

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もとは食用の牛を育てていた場所で、以前牛舎として使われていた平屋や、現在鶏とヤギを飼っている小屋の他にも、いくつか建物が点在している。脇には小川が流れ、建物の周囲は草木が密生し、世話をされなくなって久しい柑橘の木々にツルが絡まり合っている。

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ごちそうの森の環境を改善するためには、この山全体の環境改善が必要ということで、今回のゼミでは山の下部の手入れをおこなうことになった。

ー地形図から土地を知るー

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講師の上村さん(通称:乙女ちゃん)がタブレットを地面に置き、地形図アプリを開いて説明をはじめる。

乙女ちゃん:「大地の再生では、地形にあわせて水と空気の流れをつくります。そのために、まず地形図で土地の傾斜や土地利用を確認して、水や空気が滞りそうな場所を実際に見に行きます。周囲の環境も見ながら滞りをなくしてあげることで、荒れた土壌が回復します。」

そもそも地形図アプリがあるのも知らなかった。何かすごそう...。

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乙女ちゃん:「山が荒れる要因は、その土地の管理がされなくなること。たとえばみかん畑をつくってから使われなくなるとか。それから人工物。道路、建物、埋め立てなどが山の不具合を引き起こします。地形図では、そういう構造物の場所がある程度網羅されているんですよ。」

地形図で確認するのは、人間の土地利用に限らない。たとえば等高線(土地の傾斜を示す線)の幅が変わるところは、山の斜面が道路などの平面とぶつかる「斜面変換点」と言って、イノシシがよく穴を掘る場所であり、水と空気が滞りやすい場所でもあるのだとか。

傷んだ土地の改善は、そこが人間や動物にどのように使われてきたかを知ることからはじまるのだ。

3. 自然にあわせて手を入れる

ー獣道を倣(なら)うー

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地形図を確認後、トラックに乗り込み山を下る。ディズニーのアトラクションがかわいく思えるくらいワイルドな道を行く。

もう一人の講師の下村さんが、途中でトラックを降りるよう促した。

下村さん:「この穴は動物が通る獣道です。このように、自分の肩幅分だけ空気が通る穴を開けてあげると、自然は穴をふさいで元に戻そうとしないんです。」

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必要分だけ草を払うと自然が受け入れてくれる。「草」のところを他の言葉に言い換えても、なんだか通じる気がする。自然物に限らず何事も不自然に進めると、どこかに不具合が生じるのは同じなのかもしれない。

自然が家の近くにない私は関係がないゼミかも。なんて思っていたけれど、森の手入れの話って思いの外、普段の生活や仕事に通じているのかも...。

ー ふりふり草刈りー

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ふたたびトラックに乗りこんで下っていくと、お目当ての山の傾斜が平面(道路)とぶつかる地点「斜面変換点」に到着した。

乙女ちゃん:「こういう場所にはU字溝(道路脇の排水溝)があることが多いのですが、ここの水は停滞しがちです。だから溝に沿って軽く草を刈って空気が通るようにすると、水の動きも出て山に良い影響を与えます。」

溝の上や周辺に生えた草に草刈り鎌を振って当てていく。当たったところは切れるくらいで、根っこごと刈らないのがポイントなのだそう。

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乙女ちゃん:「草刈り鎌はギザギザの刃のものがいいです。草の伸びるスピードを抑えてくれる植物の成長ホルモンが、ギザギザの刃で切るほうが出てくることがわかっていて。考えてみれば、自然界は刃物でスパッと切られることってないですよね。虫が食べたり、風で引きちぎられたり。そんな風に自然に近い方法で切れるのがギザギザの刃なんです。」

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ノコギリ刃の草刈り鎌で、根っこごと刈らないことで、草が負けじと勢いを増して生えてくることを防ぐらしい。獣道にならって肩幅の空気穴をつくるときと同様に、自然に近い方法だと相手(草)も受け入れてくれるのだ。

―穴掘り―

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下村さん:「地面を見たときに、気持ちよさそうだな、寝転んでみたいな、と思えるかも大事です。それから、風通しが悪いときに出てくる腐葉土の臭いや、風が通る音も確認します。視覚・嗅覚・聴覚などの五感を使って、この場所がいい状態かを判断するんです。

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乙女ちゃん:「よくない状態だと判断したら、移植ゴテで穴を掘って空気を通します。なぜ移植ゴテかというと、男性の力でも掘りすぎないし、足りなかったらまた掘れるから。背を前にして握って掘ります(写真上)。」

下村さん:「今度来るときには、山野草(さんやそう:山に原生する植物)が生えていることもありますよ。昔あったけれど見なくなったようなものまで。」

ー昼休憩&終わりにー

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ひと通りの作業を終えると、お待ちかねの昼休憩。イノシシ汁と、たこめし、卵焼き、煮物。全部生口島や近隣の素材を使った、長光さんお手製の昼食。ごちそうの森で文字通りごちそうをいただく。

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近くに鶏小屋や森があるせいか、いただきますが相手に聞こえる気がした。

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午後は、午前中に習ったことを使ってごちそうの森のなかを整備して、今日1日のゼミが締めくくられた。

4. まとめ

ゼミを受けていたときは、とにかく話についていくことに必死。

この木は切る・切らない、枝は等高線と反対に置く...。わけも分からず手を動かす。それでも、落ち着いて聞いたことを振り返ってみると、だんだんと学んだことは「森の手入れ」以上の含蓄があると思うようになりました。

百聞は一見にしかず。気になる方はぜひ、生口島への旅行を兼ねて地域活動に参加してみてはいかがでしょうか。

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