[日本ハムファイターズ観戦記] 今回のドラフトの評価と、各選手指名の狙いについて。年齢、ポジション別に考える。(追記あり)


 ドラフト会議から2日がたち、各メディアのドラフト採点が出揃ってきました。私は一昨日の記事で書いた通り、ほぼ補強ポイントに合致した手堅いドラフトで、おそらく球団としても獲りたい選手をとれた、採点すれば80点〜90点ぐらいはつけられる結果だった思っていますが、重要な補強ポイントがどこにあるか、見方によって評価も分かれるかもしれないとも思っています。球団が思った通りの選手を獲れたから高く評価ができるのか、それとも、そもそも、たとえ思った通りの選手を指名できたとしても、補強ポイントに本当に合致した指名だったのか、あるいは来年すぐにでも結果を出せるような指名にすべきか数年後を見据えてのものにすべきか、という評価もあります。

 指名各選手に関するファイターズ球団のコメントは以下の通り

 そして各メディアのドラフト採点です。

 「東京スポーツ」での元ロッテ・得津氏のハム採点は楽天、中日、DeNA、広島、阪神に次ぐB評価。

日本ハムは地元の大学生投手を単独で1位指名。ドラフト会議前から指名を公言しており、すんなり確保できました。足が武器の中大・五十幡を2位で指名したのには少し驚きましたが、独自路線をいくこの球団らしい指名といえば、そうかもしれません。いい捕手をどの球団がどうやって獲るのかが、毎年のドラフトの隠れた見どころにもなるのですが、3位で大学生捕手をきっちり押さえることができたのも良かった。飛び抜けて強調するところはありませんが、まずまずの内容ではないでしょうか。

「デイリー新潮」でのスポーツライター西尾氏の評価は、中日と並んで最上位。

日本ハムは大学生ナンバーワン右腕の伊藤大海(苫小牧駒沢大)を単独指名。総合的な実力と安定感では早川を上回るものがあり、またリリーフ適性も高いことから抑え不在のチームにはこれ以上ない選手と言える。いきなりクローザー定着ということも十分考えられる。また2位で、プロ野球史上最高のスピードを持つ選手となることが確実な俊足外野手の五十幡亮汰(中央大)、3位で強打が持ち味の大学ナンバーワン捕手の古川裕大(上武大)の獲得に成功した。さらに、4位以下の高校生二人も将来豊かで、6位の今川優馬(JFE東日本)は社会人を代表する強打の外野手とチームの補強ポイントに的確な選手を次々と指名できた印象だ。

「The DIGEST」に於けるARA氏もハムの指名結果はA+と最上位の評価。

 今年のドラフトで最も成功した球団の一つ。事前に指名を公言していた伊藤を見事一本釣りに成功。外野でも西川遥輝の後継者となり得る五十幡や、社会人屈指のスラッガー今川を指名することができた。加えて今ドラフトではトップクラスの攻撃型捕手・古川、俊足巧打の内野手・細川、高校生離れしたコントロールと球速をもつ根本と、いずれもこれ以上ない選択。さらに伊藤、根本、今川は地元北海道出身の選手で、新球場開場後を見据えたビジネス面での評価も高い。

 同じ「The DIGEST」でのスポーツライター氏原氏の評価も「95点」と楽天と並んで最上位。

 1位指名で大学屈指の右腕を一本釣り。先発・リリーフ両面で期待できる投手を獲得できたことは大いに評価できる。それもチーム初の道産子1位指名を実現させた。2位以降も補強ポイントをしっかり埋めた。中でも、西川遥輝、近藤健介に続く素材が出てこない外野陣の一角に、快足の五十幡を補強できたのは大きい。4位には西川の智辯和歌山の後輩にあたる細川を指名。また、高校生左腕と即戦力のスラッガーとバラエティに富んだ指名でケチのつけようがなかった。

スポーツナビはちょっと変わった評価をやっていて、ポジション別年齢層別に各球団の「穴」を可視化して、それがどれだけ埋められたかという独自の評価基準。筆者である三和氏は、「満点に近い」という高い評価でした。

 剛球右腕・伊藤大海(苫小牧駒澤大)の交渉権を無事に獲得し、さらにウェーバー順も生かして2位でスピードスターの外野手・五十幡亮汰(中央大)の指名に成功。この2人だけでも大満足と言えるが、さらに3位で強打の捕手・古川裕大(上武大)を確保し、4位で内外野可能なセンス抜群の細川凌平(智弁和歌山高)を指名。5位で高校生左腕の根本悠楓(苫小牧中央高)、6位で社会人の実力者・今川優馬(JFE東日本)を指名し、ポスト・西川遥輝を意識しながら的確にチームの穴を埋めた。
 できれば高校生捕手が欲しかったが、地元育ちの道産子を3名指名(伊藤、根本、今川)した点が好印象。地域密着を図りながら、実力的にも、チーム内の年齢分布的にも、満点に近いドラフトだったと言えるだろう。

 「THE PAGE」は、元ヤクルトのチーフスカウトだった片岡氏の評価。採点は「70点から80点」。ハムは「地元優先型ドラフト」として評価しています。

「栗山監督が“やっと北海道からこういう投手が出てきた“とコメントしていたが、同じくらいの力なら地元優先の方針を貫いている。大学ジャパンでクローザーを務めた伊藤を1位で押さえ、2位の五十幡亮汰(中央大)は、中学時代にサニブランに勝ったことで有名になった一芸の外野手。今の野球界の流れに沿った人選だ。

 そして私の目に入った範囲内で、もっともハムドラフトに対して低い評価を下していたのは「週刊ベースボールON LINE」。65点という採点です。無署名の記事なので、編集部の誰かが書いたんでしょうか。はっきり採点までするなら署名記事にすべきと思いますが、週刊ベースボール全体の総意として責任をもって評価する、ということでしょうか。

 相思相愛の伊藤大海(苫小牧駒大)を1位で単独指名に成功。3位の強肩強打に定評がある大型捕手・古川裕大(上武大)は1年目から正捕手争いに加わる力を持っている。ただ、西武と同様に投手陣の整備が急務の中、指名した即戦力の投手は伊藤のみ。懸案事項が解消されていないのが気がかりだ。

 つまりチームとしてどのポイントを重視して指名すべきかという意見の違いが評価の違いとなって表れている。週刊ベースボールは、ハムの最大の懸案事項が「投手陣の整備」だと見ており、その部分が不足していたからこのドラフトは評価できない、と言っているわけです。実はこの「即戦力投手の指名が少ない」というのは私も少し気になっており、一昨日の記事では「トレードで補うつもりでは」と書きましたが、ここ4年ばかりのハムのドラフト指名選手を、年齢別、ポジション別にチャートにしてみました。

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 小さくて見づらい時は以下からDLしてご覧ください。

 青バックが今年のドラフト指名選手、オレンジが2019年、グリーンが2018年、無地が2017年の指名選手、2016年以前の指名選手は右側にまとめています。縦軸が年齢(生まれ年)。「93-94」は1993年4月生まれから1994年3月生まれまでの選手という意味。括弧内は来年の満年齢です。そして横軸がポジション別、左右別の振り分け。手作業でやったので間違いがあった場合はご容赦を。

 これを見てわかることは、ドラフトは単年だけの結果を見て判断してはいけない、ということです。今年大卒社会人の即戦力投手の指名が少なかったことは確かですが、実は2019年ドラフト1位2位指名の河野と立野は、高卒3年目の社会人出身なので、年齢(学年)としては、今年の大学生ドラフト選手と同じ。今年の1位指名・伊藤は大学を入り直しているので同じ大卒でも一個上ですが、つまり2年単位でみれば3人以上のドラフト上位クラスの即戦力投手を補強したとも言えるわけで、この1年の河野と立野の成長を見越して、彼らが一軍戦力になると確信(あるいは期待)したからこそ、今年のドラフトで無理に即戦力投手の頭数を揃える必要がなかったのではないか。同じ学年には2016年1位指名(高卒)の堀瑞輝もいますね。さらにその一個下の世代では北浦、田中瑛斗、そのまた一個下には吉田輝星と、次世代の先発ローテ候補がブレイクの兆しを見せ始めている(田中は故障もあり、少し遅れそうですが)。このあたりがもくろみ通り一軍に定着してくれれば、一気に投手陣は若返り、若く力のある先発ローテが組めるようになる。有原のメジャー流出の穴も少しは埋められるかもしれない。その場合、今年の1位指名伊藤大海は懸案中の懸案である抑えに回すことができる。すでに一軍戦力になっている堀に加え、伊藤と同じ歳の鈴木健矢や望月、1個上の福田、さらに今年故障がちだった西村などが計算通り稼働してくれればブルペンも充実する。ハムの編成部はそう考えたのではないか。つまり数年単位で、その先を見越して選手を指名する。その年だけでドラフトは完結するのではない、ということです。

 もちろん、もくろみ通り彼らが成長して一軍戦力になってくれるかはわからない。しかしそれは新人を獲得した場合も同じ。ある意味ではギャンブルです。しかし手元においてじっくり育成しているからこそわかる成長の手応えもあるでしょう。さらに今年の5位指名の根本投手も高校生ながら完成度が高く、早い段階で出てくるのでは、と期待されているようです。


 ほかにこのチャートを見てわかるのは、22才以下の捕手の手薄さと、やはり22才以下の外野手の手薄さです。特に外野手は万波以外誰もいない。しかし今オフにも訪れるかもしれない西川の流出の穴を埋めるには、万波はもう少し時間がかかりそう。なので五十幡や今川を指名したわけですが、もう少し先を見越して若い外野手もほしい。だからこそこの記事で「身体能力の優れた将来性豊かな高校生外野手を1〜2人ほしいところ。ちょっと伸び悩んでいる万波の刺激になるような若手がほしい」と書いたわけですが、もしかしたら今年の4位指名の細川選手は、外野手転向まで見越しての指名だったのではないか(細川は遊撃に転向する前の2年秋までは外野を守っていたらしいです)。

 また一昨日の記事で、「チームの柱になるような大物感のある選手が少ない」と書きましたが、それは清宮や野村、吉田輝星などが担ってくれればいい、今年は脇で彼らを支えるような選手を獲りたい、と考えたのかも。それが五十幡や細川の指名というわけです。もちろん、その「太い柱」を期待する清宮や吉田が目論み通り成長してくれないと、チーム戦略は根本から崩れてしまうわけですが……

 ただ新球場が開場する2023年には、何がなんでも優勝を狙える戦力を整えなければいけない、ということで、ここ2年ぐらいは上位で育成に時間がかかる大物高校生選手を獲ってないことも確か。それがチームのスケールを小さくしてしまう危険性がある。そこは賭け、というか綱渡りですね。ドラフトの結果を最終的に評価できるのは5年後10年後ですが、ハムの場合2023年である程度結果を出さなければならない、ということです。

(追記)

「Aera.dot」は、なんと100点満点の評価。採点者は「デイリー新潮」と同じ、西尾典文氏です。

 総合力では一番人気となった早川隆久(早稲田大)を上回るとも評される伊藤大海(苫小牧駒沢大)の単独指名に成功。伊藤は先発としての能力も高いが、リリーフであれば本当の意味での即戦力となる可能性が高く、一年目からクローザー定着の期待もかかる。抑え不在のチームにとっては極めて大きいプラスだ。2位の五十幡亮汰(中央大)もプロ野球史上ナンバーワンとも言える脚力に加え、プロでも上位の肩の強さを持ち合わせており走塁と守備では一軍の戦力になれる実力者だ。
 3位の古川裕大(上武大)も強打の捕手で近い将来の正捕手候補。4位の細川凌平(智弁和歌山)、5位の根本悠楓(苫小牧中央)もこの順位で指名できたことがラッキーな将来性豊かな高校生だ。更に6位の今川優馬(JFE東日本)も社会人屈指の強打者で外野の底上げに成功した。チームの弱点を補いつつ、将来にも目の向いた指名で、ここ数年の中でも抜群の結果だったように見える。文句なしで満点をつけられるだろう。

(追記・2)

「NUMBER」は小関順二氏による分析。楽天に次ぐ「80点」という評価です。「将来性重視」から「即戦力重視」に切り替えたのか、とありますが、これは前述の通り、2023年の新球場開場に合わせての戦略だと思います。2023年には優勝を狙えるような戦力を絶対に揃えなければならない。あと2年半ほどしかないというタイムリミットを考えても、育成に時間がかかる高校生は、去年の佐々木朗希クラスでないと手を出しにくい、という事情ではないでしょうか。もっとも、もくろみ通りここ2年で上位指名した大学社会人選手が2023年までにモノになるかどうかはわかりませんが……

 ドラフト巧者の日本ハムが2年連続でBクラスに沈むのは2001~03年以来。5年先の将来を睨んだ指名をしている限り、2年以上Bクラスに沈むことはない、というのがこの球団のポリシーだ。
 それが昨年に続いて1、2位には即戦力が並んだ。「どうした?」と言いたいところだが、1位の伊藤大海は即戦力でありながら将来性にも富んだ本格派。リリーフ人材を欠いたチーム事情にもぴったり合っている。早川隆久(早稲田大→楽天)とレベルの高い新人王争いが期待できる逸材だろう。
 2位五十幡亮汰は「アマチュアナンバーワン」や「プロ野球ナンバーワン」という形容が物足りないほどの“超俊足”だ。あえて言えば「1934年発足のプロ野球史上、最も足の速い選手」と言っていいと思う。
 佐野日大高、中央大では俊足に頼った走り打ちが目立ったので、プロの舞台ではそこを早い段階で修正すべきだろう。

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