自画像
はじめに
本記事は、私が演劇の学校に通っていた頃に、授業の課題で書いた一人芝居の脚本をリメイクしたものです。
テーマ:「自画像」
条件
①一人芝居であること
②必ず歌を入れること
実際の授業では舞台ではなく稽古場(机や椅子がない教室のようなかんじの部屋)で発表したのですが、せっかくなので舞台上で上演する気持ちで書き直してみました。
お芝居の世界を離れて久しいので不備があるかと思いますが、架空の舞台なので、何卒ご容赦ください。
※改行の関係で、PC以外だと見辛いと思います…良い方法が見つかり次第編集します。申し訳ありません。
__________________________________________________
幕が上がる。
舞台中央手前に、白いワンピースの女が木製のスツールに腰掛けている。
うな垂れていて、顔は見えない。
全体に薄暗い照明。
ラジオの音声が流れる。
ラジオ 今日の午前十一時頃、今は使われていない工場の煙突に女性が登る
騒ぎが起きました。女性は十五メートル程の煙突に登ったまま下り
てこなくなり現場は一時騒然としましたが、二時間後に無事救出さ
れたということです。女性は下りて来る際足に軽い怪我を負ってお
り、現在は病院で治療を・・・
音声が途中で途切れる。
女にピンスポット。
女 (ゆっくりと顔を上げて、少しの間)どうして煙突なのか。
あたしにもわかりません。
たまたまそこにあったのが煙突だっただけで、別に煙突じゃなくても
良かったんです。
少しの間。
女は、正面にいる誰かと会話をしているようである。
女 何で?・・・何で登ったのかというと、登りたかったから!
女、立ち上がる。突然意気揚々と、大げさな身振り手振りで語り始める。
女 綺麗な青い空が広がっていて、で、そこに太陽があって、それで煙突
がスーッと真っ直ぐに伸びているのが見えたんです。
そうしたら、もう、どうしても登りたくなっちゃって。
登っている時はもうわくわくしちゃって、楽しくて仕方なかったんで
すけど、でも、後から考えると怖いですよね。よく無事だったと思いま
す。あ、でもあちこち怪我はしました。全然覚えてないんですけどね。
間。
女の顔に笑みが広がっていく。
女 わからないでしょ?
あたしが煙突に登る気持ち。わからないでしょ?
女、笑顔のまま、スツールに座る。
女 想像以上に気持ちいいんですよ、煙突の上って。なんというか、自分だ
け空に浮いてる気分というか。空だけの空の中で、空に向かって歌っ
て、すごく幸せだったんです。
(呟くように)あーぁ、ずっとあそこに座ってたかったなぁ。
(正面に向き直り)あたし、よく普通じゃないって言われるんですよ。
だから、「変に思われないように」って頑張ってた時期もあったんで
す。でも、何か違うなって。だって、皆に変だって言われても、あたし
にとっては普通だったら、何かもう、どうしようもないじゃないです
か。そもそも、頑張って普通になるってなんかおかしいし。それであた
し、自分にとって普通なことをして生きていくことに決めたんです。
煙突に登ったのも、だから、後悔してません。
間。
女、立ち上がる。笑顔は消えている。
女 皆が私のことを異常とか、病気とか言うけど、私は私のことを正常だと
思ってます。誰かに判定してもらう必要なんてありません。そもそも、
自分が「正常」だってことを証明できる人なんていますか?
皆、それぞれに正常さと異常さを持ってて、それこそが正常だとあたし
は思います。そういうことを、よく考えたことがない人が、自分と違う
人のことを異常だって言ってるだけなんですよ、結局。
少し長い間。
女、立ったままだんだん俯いていく。
女 (何度か頷きながら)はい、済みません、それはわかってます。
たしかに、冷静とは言えませんでした。十五メートルも登ったってこと
も、後から知りました。・・・はい、ご迷惑をおかけしたのはわかって
います。
女、うな垂れて再び腰掛ける。
長い沈黙。
女 (はっとした顔で正面を向き)歌?・・・はい、歌いました。
(反復するように)なんの歌?・・・なぜ?
それは・・・。
女、立ち上がり、スツールの上に登る。
数秒正面を睨みつけた後、天を仰ぐ。
音楽。
「故郷の空」が流れ始める。
女、始めは小声で、徐々にのびのびと歌いだす。
夕空晴れて 秋風吹き
月影落ちて 鈴虫鳴く
思えば遠し 故郷の空
ららららららららら
ららららら
繰り返し歌い続ける女。
ピンスポット、照明、歌声は徐々にフェードアウト。
暗闇の中、音楽だけがだんだん大きくなっていく。
〈幕〉
__________________________________________________
おわりに
なんとかしようと加筆修正を試みたものの、ご覧の有様です。
ただ、過去の自分の、主に自意識の部分の供養としてこれで完成とさせて頂きます。
ここまでお付き合い頂いた方、ありがとうございました。
最後まで読んで頂きありがとうございました! スキ、コメント、シェア、とっても嬉しいです。 もちろんサポートも、たいへん励みになります。 また読みに来て下さるのをお待ちしてます^^