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錯覚

明けて今日は盆が終わる。
都心部は人がいない時期だけれど東京大空襲の魂が還るのかもしれない。
なんていいながら霊魂なんて信じていないのだけれど。

送り火を毎年のように焚いていたけれど今年は出来ないかな。
おガラを焚くのも宗派や地域性があってやったことがない人も結構な数いるけれど、僕は子供の頃からなんだかんだやり続けている。
なんとなくお見送りできないなぁと考えてしまうよ。
いつもそばにいると言ったり、お盆に帰ってくると言ったり、都合が良いよなぁ。生きている人は欲が深いんだ。

台風七号は日本海に抜けたらしいけれど、いつもとは違ってぬけてからまた少し勢力が上がったらしい。日本海の海面温度が高いからだ。たしかに中心部の気圧がさらに下がっている。
あれだけの大きさだから台風一過はまだ先で、全国的に大気の状態は安定していないという。
その代わり今週末ぐらいからとんでもない高気圧の影響で暑くなるなんて噂も聞いたよ。
御用心。御用心。

ただただ生きることは中々に難しいことで。
生きていればどうしたって悩んだり落ち込んだりすることがある。
僕は子供の頃からお盆を繰り返してきて、いつの間にか何かを知ったのかな。
確かに死者が還るというだけでそれはもう哲学の入り口だったのかもしれない。
人はなんで生きているの?死んだらどこに行っちゃうの?宇宙はどこまで拡がっているの?僕たちはどこから来てどこに向かっているの?
そんな素朴な疑問がいつのまにか自分の悩みといっしょくたになっていく。
死者を想うことは、生きることを想うことの裏表の関係になっている。

節目節目で哲学の扉に出会ってきた。
詩人の残した言葉がゆっくりと身体に突き刺さってきたこともある。
僕を想って叱ってくれた言葉に身動きが取れなくなったこともあった。
物語の中の登場人物の選択に心が揺れた日もあった。
何か大事なことを掴んだような気がして、もう一度手の平の中を見つめても、何もわかっていなかったこともあった。
受け取り続けてきた僕は、いつの間にか発信する場所に立っている。

映画「演者」は誰かにとっての哲学の扉になれているのだろうか。
実際に映画館で聞いた言葉や、後から届いた感想を思い出す。
僕がいままで出会ってきた時と同じような言葉がそこにあった。
繰り返しの中で人は確実により自由な場所に進んでいるはずだ。
何か大事に大事に受け取っては、誰かに繋いでいるような錯覚。

ユーロスペースでまた新しい誰かに出会えるのかな。
それはどんな出会いだろう。
ニセモノだらけに囲まれて窒息しそうな誰かに届くといいな。
立ち昇る煙。ナスやキュウリの馬にまたがった今は亡き家族。
空の上なんて気ままでいいなと思うけど。
その空は大気が渦巻いている。
想像力はその台風のはるか上を越えていく。
ちょっと待ってくれよ。なぁ。
11月までここにいてくれてもいいじゃんか。

コロナ。戦争。
ここ数年、死は僕たちのすぐそばにあった。
死生観が変わるほどの出来事が立て続けに起きた。
余りにも簡単に命が消えていく。
生きていることがただの泡沫の夢のようにさえ思えるだろう?
刹那に生きていくことが正解のようにさえ思えるだろう?
答えなんかないけれど。

ほんの少し指先が何かほんとうのことに触れたような気がしているんだよ。


映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃

「嘘ばかりの世界」だ
  「ほんとう」はどこにある

【上映館】
・2023年11月18日(土)より
ユーロスペース(東京・渋谷)
http://www.eurospace.co.jp/

出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一

撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき

【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。

家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。

やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。

◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。