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時代劇入門にオススメ〜宮部みゆき『震える岩 霊験お初捕物控』感想書評〜


このところ朝井リョウや辻村美月の「現代社会の生きづらさ」みたいなテーマの小説ばかり読んで疲れてきたので、疲れない題材を人に相談したところ「宮部みゆきの時代小説はいかが?」と言われたので読んだ。刊行は1993年と30年ほど前の作品である。

満たされる〜〜〜!!
現代社会が主題だとどうしても物語を自分に引き付けて実践的な教訓を得ようとしてしまうが、時代劇ならそうはならず、純粋に物語、お芝居として楽しめる。超能力を登場させる宮部みゆきの作劇もダイナミックで読みやすい。さらに江戸時代の風俗や政治システムなどを学ぶ面白さもあり、エンタメを享受している感覚があった。

オーソドックスな中年になろうとしているのか、時代劇についての興味は年々高まっている。かつて日本史は一番得意で好きな科目だった。スポンジのように吸い上げた知識も今や大分乾いてしまったが、数年前に徳弘正也『もっこり半兵衛』や映画『武士の献立』にハマってから、「江戸時代って実はメチャクチャ魅力的な舞台設定なんじゃねえの?」と思っている(『震える岩』は2作より半世紀〜一世紀近く後の世が舞台だが)。「中央集権的でありながら諸地方に支配者がいる軍事国家」「250年の太平で政治・文化・学問のトライアンドエラーと発展が繰り返す」「身分制度がありそれぞれの道徳と価値観が分かれている」というのは、作品創作の上で非常に魅力的に思う。異なる正義を信奉する人物たちのぶつかり合いと止揚が物語の醍醐味だ。現代社会はぶつかり合いそのものを抑制したり我慢したりする傾向にあるが、江戸時代はぶつかり合う契機も多く、故に物語を生みやすいのだろう。解決手段としての武力が現代より認められている分、スリリングさもある。

今回知ったことの一つが、治安維持組織の仕組みで、以下の縦構造だ。

奉行(行政・司法の官職)※根岸肥前守

与力(奉行補佐・デスク)※古沢家

同心(下級役人・現場職)

岡っ引(雇われた非公認の協力者)※六蔵

下っ引(岡っ引の協力者)

役職は身分と繋がる以上、生まれによって職業の幅は決まる。その意味では、職業を自由に選べる現代より不自由とも言えるし、選ぶ悩みは少ないとも言える。

読んでいて楽しいのは、生き生きとした登場人物たちの振る舞い方だ。お初や右京之介、六蔵や根岸肥前守たちが、それぞれの正義を思って事件に挑む。町民と武士の役割分担や価値観の違いの中で、礼儀や道義のようなものが人物同士を結んだり離したりするファクターになる。人情が捕物帳の魅力のひとつらしいが、情が生まれるきっかけとしてそれぞれの人物像や挙動がテンポ良く描かれているので感情移入も容易い。

続編があるということなので、そちらも読んでみたいと思った。

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