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商品・サービス革新の善循環

岡村 衡一郎

水に熱を加え熱湯に、やがて沸点を超え水蒸気に変わる。これらの地続きに見えながらも、水蒸気へ形態が変容するプロセスは、商品・サービスのイノベーションプロセスと似ている。商品のブラッシュアップをし続けた結果、ある境を超えたところで大きく変わる。

例えば、トヨタカローラの延長線上にプリウスへの飛躍があったようなイノベーションである。長持ちする。コンパクトで使いやすい。燃費がよい。少し引いてみれば、同様のコンセプトがカローラにもプリウスにも貫かれていることが分かる。

そして、初代プリウスの販売価格は 21世紀へ GO、だから 215万円、赤字覚悟で決定できるのは、トヨタ自動車が掲げる世の中への役割「もっといい車、いい社会をつくろう」を取っていこうとする意思の表れだ。

商品の背景に人がいる。
人の思いがある。

これらの前提が抜け落ちれば、商品・サービスは売り上げを取るための道具に変わる。

業績向上をしたかのようにみせる粉飾は最たる例だ。イノベーションが得意な企業ほど人の思いや理念と商品がつながっている。ハイブリッド車への革新は、技術者の熱がこもった仕事とトヨタで受け継がれてきた理念の産物である。

商品・サービスの革新には欠かせない。つくり手の命が、何らかの愛を生む。愛の結晶が商品となり、商品の使用価値への対価として得たお金が、つくり手の命の充足に使われる。

商品は、誰かが誰かに思いを馳せて形に仕上げたもの。使用する相手以上に相手を考える行為が革新につながる。命の充足と愛の深まりがあってできる実践である。資本の論理にだけに従っていれば、 循環が回らない。商品をお金に変える行為と自分の命や愛の深まりが分かれていく。

かつて苦戦を強いられていたレストランチェーンAもそうであった。規模が大きくなっていく過程で、シェフの愛情を料理で表現する試行錯誤を止め、セントラルキッチンの効率化に舵をきった代償が、大量閉店に表れた。レストランチェーン A は、現在、開業当初の活気とお客さま支持を取り戻しつつある。

改革の軸をシェフ全員と料理全品との関係の再構築においたからだ。ベテランも若手も関係なく、完成とされてきたレシピの改良にアイデアを出す取り組みを経営の中心にすえた。一工夫の継続的取り組みは、料理はもちろん、お客さまの欲求のとらえ方の見直しにもつながり、より多くのお客さまに応えられる自分たちの深化を促す。

商品・サービスの革新は、命、愛、商品、お金という好循環によって支えられる。命と愛だけなら道徳的でマーケットとは閉鎖される、商品とお金だけなら資本にのまれる結果になっていく。

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