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緑スカート 青い尻

 マルが転がって緑のスカートを履いた二十代後半程にみえる女に当たって消えた。マルは白だったが当たった直後にオレンジ色になったように思えた。緑を履いた女はスマホを取り出してなにかを見ていた。表情からなにを見たのかはわからなかったが歩き方が軽くなっていた。

 今日は遠くまで晴れて奈紗荷山がくっきりと見えるから視界が開けていい気持ちなので奮発してコーヒーショップでアメリカンコーヒーをテイクアウトした。気取った足取りで少し歩いて一口飲み、空を見上げて一口飲んでいるとあっと言う間になくなったが紙コップは捨てずに持って歩いた。どこに行こうか頭の中は彷徨いながら何度も通ったことのある交通量の少ない道を無意識に選んで歩いている。自動販売機でカフェオレを買ってポケットに突っ込んで銀色に光る細い滑り台と雲梯しかない寂れた公園で紙コップに入れ替えた。甘いカフェオレを飲んでまだまだ歩ける気力を確かめて歩き始める。

 畑道を通っていると腰の曲がったじじいが二人話している。ちらりとこちらを向いたが気に留めず大きな声で「しっかしやたらに強い風だな」と言った。もう一人のじじいも「やったにな」と言った。風は吹いていない。草木は揺れていない。不思議に思い正面まで行ったらこの畦道を曲がる前に挨拶をしてふっかけてみようと思った。今日は良く晴れてますね。山が透き通ってますね。風がないから汗をかきますが気持ちがいいですねとか頭の中で考えながら、ちらちらじじい達を見て歩む。もう挨拶をしてもおかしくない距離にきたが中々目が合わない。目を合わせようとしていないのか話に夢中なのかわからないが頭をちょいと下げただけで過ぎてしまった。

 土手に上がると少し風が吹いたが強いとまで思えなかったから聞き間違えたのだろうと思った。橙色のおしゃれ自転車を止めて川に降りる階段に座っている二十代後半にみえるブルージーンズを履いた女にそれを話すと女の背中らへんから後ろに透明のマルが落ちて転がっていった。緑を履く女とこのブルージーンズの女は友達なのだ。雰囲気が似ているし二人で買い物行っている様子はイージーに想像ができた。驚かせてやろうとブルーを履く女に緑を履く女と友達だろうと言うとブルーを履いた女は考えてから首を傾げてわからないと言った。たしかに確かに。緑のスカートを履いた女がそこにいたというだけではね。髪の長さは肩までで前髪をくるんと巻いていて細身。160センチくらいで黒のリュックを腰で背負っていたと説明するとブルーを履いた女はまた少し考えてからわからないと言った。

 なるほど確かに難しいから諦めよう。コーヒーを一口飲んでため息の行く末を見え上げると深い青が広がった。少し考えてから女の尻だとわかった。黙って尻を眺めていると女はカゴに水色の水筒を入れてペダルを漕いで去っていくと川の生き物の生臭いものが広がっていくのを嫌い歩き始めた。空は高く遠くまで見えて隣の県へ渡る大きな橋はどっしりと構えていて権威があるさま。橋を渡る車が陽の光を反射させて昔の遊園地のようだった。

 すこしくたびれてきたから家路を行く。尻を包んだブルージーンズは深い空のように見えることを知り蒸れるしくさくなるからと避けていたが空を履けるならいいなと思ったり女の尻は骨張ってたなと思い出したりしていると展示会をやっている店の前を通りかかった。絵を展示しているようで中では着飾った数人が談笑している。どれも女で一人はテイシャツにジーンズという格好だった。飾ってある絵はどれも絵画教室で習った作品といった具合で上手だった。関係者以外は入りにくい様子だったから気になる絵を見つけることはできなかったけれどそろそろ腹も減ってきたから一目散に帰った。

 緑と青とテイシャツの絵を描いているうちに日が昇った。外で一服してやろうと玄関を出て思いついて昼間までこれを描いていた。

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揺れるき 揺れないき

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