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ひとり旅をするおたく~伊豆大島一周編~プロローグ

※本作は以前コミティアにて発行した旅行エッセイの再録です。

平成最後の夏、何を思ったか私は「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」にドハマりしていた。
 周囲のオタクがアイドルだのラップだのに萌えを見いだしている中、私一人だけが路線バスの旅に「燃え」を見いだしていたのだ。滑稽きわまり無い。

 まったくテレビを見ない人の為に説明すると、「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」とは、俳優の太川陽介さんと漫画家の蝦子能収さんとそのゲストの女性タレント(通称マドンナ)が三泊四日かけて路線バスだけで目的地を目指すガチンコ旅をするというテレビ東京の人気番組である。(現在太川さん達は卒業して新キャストが引き継いでいる)
 路線バスだけで何十キロも旅なんてできやしない、どうせやらせだろうと普通思うだろうが、私の見立てだとこの番組は「ガチ」だ。バスがつながらずに炎天下や猛吹雪の中、県境の峠を歩かされたり、コンビニさえない農村の駅で三時間待ったり、疲労困憊で店も探せない為カラオケボックスで夕食を食べたり、マドンナがあまりの旅の過酷さに躁鬱になりかけたり…とテレビ映えとはほど遠い映像から「ガチ」な感じが伝わってくる。
 そんな瞬間、ついニヤニヤと笑みを浮かべてしまう。決して人が四苦八苦している様子が楽しんでいる訳ではない。私は予定調和でない旅が大好きなのだ。

 そんなこんなでこの旅本を出そうと思ったのはローカル路線バス乗り継ぎの旅ブームがきっかけのひとつなのだが、元々私は旅というものがとても好きな質だった。旅のエッセイ本を読むのも大好きだし、会社の昼休みには会社のパソコンで毎日のように人気旅ブログを読み漁っている。好きなテレビ番組はドラマやバラエティーよりもBSの旅番組。人に趣味を聞かれた時も、オタク趣味を言いづらい時には「旅行」と答えている。聞こえもいいし嘘はついていない。
 もし願いが叶うのなら、今すぐ五百万円ぐらい自分に降ってくるのなら、すぐさま仕事を辞めて家を引き払って世界一周旅行に出かけるだろう。決断に足りないのは金と度胸だ。それさえ揃えば、この夢はいつかちゃんと実行してやろうとタイミングを見計っている。
 友人と楽しむ旅行も勿論楽しいのだが、私は気ままなひとり旅が特に好きだった。これを言うと大体の人から「一人で寂しくないの?」「何が楽しいの?」などと言われたりする。近年世の中にも「女ひとり旅」が浸透してきているにせよ、やはり世間一般からはムーミン谷にふらりとやってくるスナフキンのような変な女に見えているのかもしれない。
 何故一人がいいのか。それは私自身人付き合いが下手な根暗だからという部分もあるが、一人きりの方がその土地に、背景に、どっぷりととけ込んでいける気がするからだと思う。誰かと一緒に居るとその相手とのいつもの空気感が必ず生まれてしまい、その空気に包まれて見知らぬ土地のいい意味での疎外感が削がれてしまう。異国の夕日を見ながらセンチメンタルにも浸れやしない。
 更にひとり旅での旅先では「私という人間」を知る人は一人も居ないのだ。これがまた心地良くてとてもいい。普段は人の顔色を伺ってビクビクしている私だが、旅の間はもう一人の僕ならぬ、もう一人の三村が現れる。もう一人の三村はいつもより二割増し大胆で、三割増しロマンチストだ。この大胆でロマンチストのもう一人の三村が、私は結構好きだったりする。
 …とまあ偉そうに色々書いたものの、要するに友達がいないという要因が一番大きい。いや居なくはないけれど、旅行するお金があって予定が合わせられる友達が少ないのだ。
 私これから書こうとしているのは、大陸横断の旅でもなく、放浪の旅でもなくて、スケールの小さなただの旅行記である。それも国内がほとんど。土日に有給をくっつければすぐ行けるような。しかしその小さなスケールの中には、色々な場所や人との思い出が詰まっている。美味しいものもあれば時には苦いものも。
 それらを誰の為でもなく自分の為に、記録としてこっそりと文章に記していこうと思う。幸い私は文章を書くのが好きだ。もし読んで下さる人がいるのなら、根暗で友達が少なくて時にロマンチストな人間の旅行記だと思って軽い気持ちで読んで欲しい。
 決して旅の参考にはならないかもしれないけれど、一緒に旅して楽しい気持ちになってくれれば嬉しいです。

旅の準備
旅の装備
新規ドキュメント 2018-11-12 00.13.32_4
伊豆大島全図

続く…


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