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立ち止まりたかったのかもしれない

 社会人になり会社員となって、リタイヤするまでに40年以上。思えば走り続けていたような気がしています。立ち止まることなく、世の中の変化を受け入れたり、受け流したりしながら自分の進むべき道の幅を広げすぎないようにと注意して全速力で駆け抜けたような感覚でした。実際には当たり前ですが、プライベートの旅行もしっかりしていたし、子供のイベントにもしっかり参加していました。有給休暇を使ってプライベートは大切にしていた方だとは思いますが、それでも急な呼び出しや断れない緊急対応などもありましたね。

 私が飛び込んだ業界はIT業界だったので、たくさんのアウトプットもしてきましたが、そのアウトプットには全て消費期限がもれなく付いていました。お客さまが利用されるシステムも数多く構築しましたし、プログラムもたくさん書いてきましたが、プラットフォームや世の中の標準の入れ替わりにより、新しいシステムへの移行や新しいプログラムへ強制的に置き換えなければ、業務は継続して動かすことができません。新しいスキルを使ってシステムを移行したりプログラムを書き換える必要があったわけです。つまり身につけたスキルも消費期限があるようなものだといえます。しかもその期限は学んでいる時や作っている時にはわかりません。時が経って世の中の動向が反映され始めると津波のように突然に襲いかかってくるのです。その度に、SEという集団は新しい知識を吸収してなんとか凌いでいたわけです。もちろん挫折するSEも数多くいました。まるで自転車操業のような戦いです。論文や事例も数多く書きましたが、現在のテクノロジーを鑑みると技術的に役に立つものはほとんどありません。時間との戦いの中での論文だったのです。

 ただし、全てのスキルが使い物にならないわけではありませんでした。考え方、そう、論理的思考やデータベースのデザインで考えるべきこと、プロジェクトの管理の仕方など直接コンピュータの中に定義するコードではない部分は使い回しが可能でした。それ以上に、工夫することの大切さなどを学んだことができたのだと思います。年齢を重ねていくと徐々にプログラムを書くという作業から設計へ、そして設計から管理へと仕事の内容も変化していくものです。同時に役職も上がり、給与の上昇より責任範囲の広がりの方が遥かに早いスピードで襲いかかって来ていました。当然ですが、そのプレッシャーに耐えられない同僚も数名いて気づけば顔を見ることが無くなっていたこともありました。

 なんとかIT業界で最後まで走り抜けることができたわけですが、リタイヤした瞬間に自分が残せたものはなんだったんだろうと思う自分もいました。常にアウトプットを意識してはいましたが、現役の頃に書いた論文はほとんどが技術系の内容なので消費期限があります。もちろん、大半が消費期限切れです。そう思うと一抹の虚しさが心をよぎりました。といっても走り続けている間は懸命に前を向いて進んでいたので、満足した時間の連続を感じていたのだと思います。それが途切れた瞬間にふと思ったわけです。過去からの延長線上にだけ縛られなくてもいいんじゃないかと。

 今思い返せば、「少し立ち止まってみたい」と思ったのかもしれません。リタイアする前までは、仕事を継続する意思もあったので、何か探してみようと考えている自分もいました。しかし、探すとなると流石に同じ業種の中でということになりそうな気もしました。ふと我に帰って、今したいことはなんだろうと考えた時に「すこし、立ち止まってみたい」という心の呟きを感じたような気がしました。少し休んでもいいのではないだろうかと思ってみたのです。その心の中には、IT業界にどっぷりと浸かった自分ではないもう一人の引っ込み思案な幼い頃の自分がいたような気がします。流石に引っ込み思案はどこかにいってしまいましたが、少し立ち止まってみようかと思ったのです。

 そんな時、ふとしたことでnoteの存在に出会いました。その時は自分の経験をアウトプットして、ある意味安心したいと思う自分がいました。しかし、執筆を始めてみると、幼い頃に推理小説に夢中になっていた自分が目を覚ましたのです。もしかしたら、自分でも書けるのではないかと。それから無謀とも言える執筆活動を楽しむ世界に飛び込んでしまいました。ショートショートという存在もnoteの中で教えてもらい、楽しい世界を知ることができたように思います。

 すでにちょっと立ち止まるという時間は通り過ぎてしまったように思いますが、少なくともIT業界とは離れたところで活動を始められたかなと考えています。もっとも、今後書くであろう小説や記事の中では多く登場させる世界だとは思いますが。

 

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#思い #卒業 #心の葛藤 #本音

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