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【SS】 射止めるのは誰だ #シロクマ文芸部

 舞うイチゴを多くの女性たちが見上げて、両手を高く青空に向けて差し出している。

 青空に向かってたくさんのイチゴが投げられた。まるでたくさんのかわいい子供たちがイチゴの洋服を着て踊っているようにも見える。真っ赤に熟したイチゴ、まだ白いところがあるイチゴ、大きなイチゴ、小さなイチゴが混ざった不揃いのたくさんのイチゴたちが、太陽の光を浴びて青空を背景にしたキャンバスで光り輝き、舞っている。その下で待ち受けている女性たちは、男性の目をよそに落ちてくるイチゴを必死に掴み取ろうとしている。

 ここは、イチゴ王国。収穫を記念して神様に感謝する日だ。一年で一度だけ開催される貴重なイチゴ祭りの日でもある。イチゴを傷つけないで最もたくさん手にした女性には、今回だけはベリー王子様とデートができる権利が与えられる。ただし、イチゴを掴むのは素手が条件だ。カゴなどを使ってしまうと権利は得られない。今年だけは王子様の結婚相手を探すためのイベントとして企画されたのだ。この国の女性は誰しもが優しくて容姿端麗なベリー王子様に憧れている。この日の女性はみんな目の色を変えて必死になっているようだ。

 サリーという女性もベリー王子に憧れてはいたが、身長もそれほど高くないので、イチゴを掴み取る自信はない。仕方ないと諦めようとしていたのが、このイチゴ祭りの二日前。サリーは夕食の支度のためにみんなが使う井戸に水を汲みに来ていた。するとどこかでヒソヒソ話をするのが聞こえてきたのだ。話をしていたのは街でも問題児の姉妹だった、サーラとシーラという姉妹は、二人でイチゴを掴んでその全てをサーラが掴んだことにして優勝しようと話し合っていたのだった。

「ズルイわ、あの二人。そんなことまでして王子様とデートしたいのかしら。私だって憧れてはいるけど、インチキしてまで勝ちたいとは思わないわ。あー、私が空を少しでも飛べる力があればよかったのになぁ。王子様は素敵な方だもの」

 こうして迎えたお祭りの日。案の定、サーラとシーラは背の高さを生かして両手でたくさんのイチゴを掴み取ろうとしていた。その時、大空に向かって、舞い上がる美しい女性が現れた。サリーだ。それはまるで天使のように軽やかに羽が生えているようにふわっと宙に浮いて舞っているかのようだ。サリーが舞い上がると同時に地上に落ちようとしている投げられたイチゴが、再び大空に向かって舞い上がった。サーラとシーラの伸ばした両手は空を切り、かろうじて数個のイチゴを掴んだだけだった。

 空中を舞ったサリーは、溢れんばかりの綺麗なイチゴを両手いっぱいに抱きしめて舞い降りてきた。取り囲んでいた人々からも大きな拍手が湧き起こった。少し高いところから見守っていたベリー王子もサリーの美しさに釘付けになってしまっていた。見事にデートの権利を得たサリーは、ベリー王子に正直に話した。

「王子様、私は私の力で空に舞い上がれたわけではありません。お祭りの二日前、イチゴの妖精が私の前に現れて一度だけふわっと空を飛べる力を授けてくれたんです。だから、そんなズルをした私には王子様とデートする資格はありません。この栄誉は辞退させてください。申し訳ありません」

「そうだね。君はズルをした。だから、君は僕とはデートはできないね」

「はい」

 それを聞いていたサーラは、ニヤリと笑い、サリーを一瞥しながらしゃしゃり出てきて、ベリー王子の前に現れた。

「王子様、私はサーラといいます。この子の次にたくさんイチゴを掴んだのは、私です。この子はズルいことをしましたから権利を剥奪して罰を与えてください。私は八個のイチゴを掴みましたわ、ほらご覧ください」

「サーラ、そうだね。君はシーラと協力して八個のイチゴを掴んだと申告した。僕が知らないとでも思っていたのかい。君は、サリーとは比べものにならないくらいずる賢い人だね」

「えっ、そ、それは何かの間違いです。私は一生懸命に手を伸ばして掴んだのです。王子様、どうか信じてください」

「サーラ、二日前の夜のことを覚えているかい。君は妹のシーラと話をしていただろう。僕はちゃんと知っているんだよ。何なら、重い罰を君たち姉妹に与えても良いのだけれど」

「ひぇー、申し訳ございませんでした。帰ります、帰ります。このまま帰りますのでお許しください」

 サリーは王子様がどうして二日前の二人の話を知っているのか不思議でならなかった。そのことを見透かしたように王子様はひざまづいているサリーの前に腰を落として話しかけた。

「サリー、君に飛ぶ力を与えたのは実は僕なんだ。だからズルをしたのは僕だったんだよ。ごめんね」

「あのう、王子様。仰っていることがよく分かりません」

「そうだね。説明しよう。僕の友達には妖精もいるんだ。だってここはイチゴ王国だからね。イチゴの妖精にはいつも助けられているんだよ。あの夜、偶然井戸のそばにいた妖精があの姉妹の話と君の言葉を聞いてしまったんだよ。それで、僕に連絡してくれて、サリー、君なら僕の結婚相手に相応しいと教えてくれたんだよ。だから、君に一瞬だけ力を授けるように妖精に頼んだんだ。あの後、妖精が君のところに行って話をして力を与えてくれただろう」

「ええ、確かに。私は妖精さんから力を授けてあげると言われ、最初は断ったのです。でも、これが一生に一度のチャンスで、勝ち取った後の行動はあなた次第と諭され、力を受け取りました。でも、本当に飛べるかどうかも分かりませんでした。そしてお祭りを迎えたんです。すると体が勝手にイチゴに反応してふわっと浮いたんです。不思議な感覚でした。それで思わず両手を広げ、舞うイチゴを両手で受け止めてしまいました」

「うん、でも君はそれを正直に僕に話ししてくれた。それに宙に舞っている君は天使のように輝いてとても美しかった。妖精が与えた力は心が綺麗な人だけが使える力だったんだよ。君こそ僕が探していた人だ。デートはできないけど僕と結婚してくれるかい」

「王子様、ありがとうございます。私でよければ喜んでお受けいたします」

 こうして、ベリー王子とサリーはめでたく結婚する運びとなった。このことは王様も聞いていて盛大に祝福してくれたそうだ。舞うイチゴが結んだ恋が実った瞬間だった。イチゴの妖精も遠くから王子とサリーを見て小さな拍手を送っていた。この王子様のプロポーズは、綺麗な心を持っていると幸せになれるという伝説となって、いつまでもいつまでもイチゴ王国の中で語り継がれていったそうだ。


お題 「舞うイチゴ」で始まる小説
以下の企画への応募です


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