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2月5日 笑顔の日 【SS】笑う門

【今日は何の日】- 笑顔の日

 語呂合わせの記念日である。ニコニコにちなんだ日とした記念日でいつも笑顔でいようという意味が込められている。笑顔は、人々に安らぎと安心、そして明るさを与えることができる。

 関連する記念日としては、笑の日として8月8日も定義されている。いずれにしても「笑い」とか「笑顔」は人類の特権ではないだろうか。


【SS】笑う門

 昔から「笑う門には福来る」と言われてきた。それだけ笑顔というのは人間らしく前向きに生きていくためには必要不可欠なようだ。

 広島の市街から結構離れた海辺に夫婦でお好み焼き屋さんを開いている小さなお店がある。この店の主人は、奥様である。愛する旦那様がちゃんとそばにいるのだが店の主人は奥様。どうやら、お好み焼き屋さんを開業するのは奥様の夢だった様で、いつでも明るく、笑顔でお客様を向かえたいという願いを夫婦で頑張って叶え、ご主人は一歩引いて奥様を立てた形での店をオープンしたのだった。もっとも、上手にお好み焼きを焼けるのは奥様の方だったので自然な流れと言えばそうかもしれない。

 お店を開く前までは、夫婦で資金を貯めるためにいろんな仕事をしてきたようだ。奥様の方はいつでも身を引けるように派遣登録をして仕事をしていた。十年以上派遣社員として仕事をしていたが、与えられた仕事を日々こなすだけでは多くの人に笑顔を届けることはできないといつも思っていたそうだ。そして、そのことを夫婦で話し合い、ならば以前から考えていた「お好み焼き屋」を開業しようかという話になったのだそうだ。そして仕事をこなしながら場所探しが始まり、夫婦お気に入りの場所が見つかった。

 かくして小さなお好み焼き焼き屋さん「ニコニコ」をオープンにこぎつけた。街の中心部からは離れている。実はこれも奥様の希望だった。観光客を相手にする店よりも地元に住んでいる人たちの憩いの場を作りたいといつも言っていたのである。そう、儲け主義に走らない店で夫婦が慎ましく食べていければそれがいちばんの幸せと感じていたのだった。

◇ ◇ ◇

「いらっしゃいませー。あいているお席にどうぞ〜」

 店内に甲高い奥様の声が笑顔とともに響き渡る。ご主人は慌てておしぼりと水を持っていく。いつもの動きだ。そして、大抵のお客の注文は「肉玉そば」である。トッピングの差はあれ、基本は肉玉そばである。広島のお好み焼きはヘルシーだ。というのも使う小麦粉が少ない。クレープの様に薄い皮でサンドイッチされたキャベツと中華そば、そして豚バラがいい感じだ。最後は目玉焼きが乗せられて仕上がりとなり、お好みで色々なトッピングも楽しむことができる。小麦の量が極めて少ないので、とても食べやすいしヘルシーなのだろう。

 お好み焼きを焼いている間、ここのオーナー、そう奥様ではあるが、実にいい笑顔でリズミカルに鉄板の上のお好み焼きを作っている。そして、それをじっと見つめているご主人の姿がなんとも言えない。仲睦まじい夫婦の屈託のない笑顔、それがこの店のいちばんの売りなのだろう。

 店に入ってくるお客様はみんなニコニコしながらドアを開けて入ってくる。そして、お好み焼き屋の夫婦の満面の笑みに出迎えられて、より一層にこやかな顔になる。店に入った人たちはみな、にこやかな顔になり、熱々の美味しいお好み焼きを食べて少なからず、その時だけはその日にあった嫌なことをすべて忘れて店を後にするのである。

 この店は、まさしく「笑う門」であり、お客様は皆「福」をもらって帰るような錯覚を覚えているかのようだった。それだけ美味しいものを食べて、女将の笑顔に満足してみんな帰っていくようだ。開店してわずかの時間で地元住民の心を掴み、常連客も増えていった。次第に、週末には家族連れの客も増え、地元住民に愛される店となるまでに多くの時間はいらなかった。ただ女将の屈託のないニコニコの笑顔とそれを見守るご主人のやさしい眼差しがあるだけで幸せな気分に浸れる店となっていったのだ。

 広島の市街地から離れた場所で夫婦で営むお好み焼き屋さん「ニコニコ」は、口コミだけで地元の人たちに愛されるお好み焼き屋さんになっていた。この海辺の小さなお好み屋さんはこの土地に空気のように溶け込んでいき、夫婦ともども地元に受け入れられ、お好み焼き屋さんは街の集会所代わりのように人々が集まる場所になっていった。

 一軒の小さなお好み焼き屋さんが開店したことで、この地域が活性化された。池に小石が池に投げ込まれると波紋が広がるように、この夫婦のお好み焼き屋さんの存在は大きなものとなり、今となってはなくてはならない場所となりつつある。

 屈託のない笑顔は人々に幸せと安心をもたらし、街の活性化にも貢献したようだ。それまで以上に地域住民のつながりは強くなり、住民はいつもニコニコして挨拶する街になっていった。やはり笑顔の力は人々の心を動かす力を持っているようだ。このお好み焼き屋さんの夫婦が済んでいる限り、この街から笑顔が消えることはないだろう。きょうもお客様を出迎える声が聞こえる。

「いらっしゃいませ~、あいてるお席にどうぞ〜」


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