【短編】心を結ぶ愛 (11)
一年が経過した頃、全ての着物が出来上がった。二人はいよいよこの日が訪れたというようにお互いを見つめあった。そして、日が暮れてから二人で手分けして一軒ずつ着物を配って回った。もちろん、直接手渡すことはしなかった。お礼の手紙を忍ばせて、夜露に濡れないように軒下を選んでそっと置いて回った。まるでサンタクロースがプレゼントを配るように。夜明け前には全てを配り終え、二人は家に戻った。疲れを癒すためにお風呂を沸かし、最後の食事を妻が作り、ほんの少しだけお酒を口にした。そして、二人とも新しい着物に着替えて、徹夜にも関わらず、神様にお供えするための着物を携え、清々しい気持ちで家を出発した。
二人はそのまま、神の住む山を目指した。朝陽が正に顔を出そうとして空が赤らんだ時に門番杉のところについた。
「僕たちは夫婦になった。これからずっと一緒に過ごすために山に入りたい。できることなら、僕たちみたいな夫婦は僕たちで終わりにしたい。そのためにも神様にお願いしたいと思っている。僕たちの真心は村人一人一人に置いて来たので、村人たちもきっとわかってくれると信じている」
門番杉は一瞬考え込んだが、この二人の愛を貫くには他に道はないと解った。そして、村人に対する愛情も感じた。
「お前たちの固い決心は解った。山に入るが良い。ただし、一度入ったら戻ってくることはできぬぞ。それでもいいのだな」
「はい、それも承知の上です。僕たちはそうすることで永遠に結ばれるのです」
二人は手を取り合って山に入り、そのまま、神様の元に行った。そして、持ってきた着物を神様に差し出すと同時に思いを神様に伝え、二人は村人のために身を捧げると言うことを伝えたのだった。神様は、二人の深い愛情を感じ取った。そしてこの二人を村の守り神とすることを決心した。これほどの愛情を持った二人を神様は見たことがなかった。人をこよなく愛する心をこの二人が結んだのだ。二人の体は神々しい光と共に天に召されていった。その時の二人の顔には、安心すると同時にお互いを信じ、お互いを深く愛し、村人を愛した心が表れているかのように穏やかで美しかった。こうして二人は永遠の愛を手に入れたのだった。
<続く>
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