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【SS】昔からの素朴なラーメン

 名前を「へんちくりん」というへんちくりんなラーメン屋さんがある。なんとなく店構えもへんちくりんに見えるのは気のせいだろうか。店主はもう、何代目になるかは知らない。僕が知っているだけで3代代わっている。悠に50年以上は続いているラーメン屋である。家族で経営して代々引き継いできたお店だ。結婚するとお嫁さんはお手伝い。きっとそれが結婚の条件だったのだろうと思ってしまう。ラーメンの値段もほとんど値上げしていない。随分前の消費税増税に伴い、400円のラーメンが一度値上がりして450円になったままだ。僕が子供の頃の値段は流石に記憶がないが少なくともかなり長い間400円だったはずである。

 僕が小さい頃は、現在の店主はまだ生まれてもいない。今の店主のお父さんがまだ学生の頃によく食べにきていた記憶がある。要するに、今の店主のおじいちゃんが店主だった時代である。恰幅がよく愛想のいい店主だったかな。しかも、出前もしてくれたので、時々は自宅でも食べていた。とても懐かしい。今の建物は僕の記憶が間違っていなければ、場所を50メートルほど道沿いに移動したところに立て替えられている気がする。いつ移転したかは知る由もない。昔の店舗は流石に老朽化したのであろう。しかし、店内のレイアウトは昔の店舗を再現したかのような作りで昔を知っているものとしては何となく安心する。違うのは、全てが綺麗になっていることと駐車場が大幅に増加したこと。昔は駐車場がなかったのかもしれない。今は、店の前に3台、横の駐車場に10台くらいは止められると思う。店内は22席なので、駐車場が埋まっている時は満員と思っていいだろう。しかも、この街にはラーメン屋さんはここだけである。少し前に、違うラーメン屋さんができていたけど今は無い。

 ここのメニューは、ラーメンとおにぎりだけ。強いて言えば、ラーメンは、普通と大盛りがあるので、3つのメニューがある。壁に貼ってあるのみ。もちろん、お品書きとかメニュー本は置いていない。しかも福岡だと当たり前な替え玉もない。替え玉をすると早くにラーメンが終了してしまうからかもしれない。狭い店内だが入り口付近に漫画本と新聞は置いてある。どちらかといえば待ち客のためのものかもしれない。潔い。

 肝心のラーメンは、とってもあっさりした豚骨スープで麺はまっすぐでこれまた潔い。飽きの来ない味である。きっとスープを作るのは大変なんだろうなと思う。入っている具は、薄いチャーシュー2枚とのり1枚、ネギ少々のみである。入っている具も潔い。これ以上、何も足さない、何も引かない。どこかのコマーシャルのようなラーメンだ。備え付けの飾り気のない缶に入った何処にでもあるGABANのコショーをさっと振りかけて食べるのがうまい。

 こんな何の変哲もない小さな小さな田舎町のラーメン屋さんだが、実は人気店なのである。フラッと行っても満員で入れないこともザラ。小さい子供からお年寄りにまで人気がある。しかも、作ったその日の分のスープがなくなると閉店してしまうので、閉店時間の16時前に行ってもしまっていることもありえる。最も、通常の閉店時間が16時ということ自体が常識的に考えても早すぎる。しかし、それでこそこのへんちくりんの家族の時間が持てているのだろう。これが人口の少ない田舎町で長く続けこられた秘訣かもしれない。自分たちが食べていけるだけの収入があれば、それ以上は必要ないと考えているのかもしれない。今では、あちこちからここのラーメンを求めてお客さんがやってくるそうだ。食べログなどにも載っているくらい。行くのだったら、昼休みが終わる午後1時過ぎが狙い目かもしれない。

 へんちくりんでの僕の注文は、至って簡単。「並」と言うだけ。おにぎりは必要だったら自分で取りに行く。大食漢ではなくどちらかといえば小食の僕は並で十分だが、一般的に男性は大盛りで女性が並を注文することが多いように感じる。福岡のとんこつラーメンも美味しくて好きだけど、一年に一回くらいは、食べに行きたくなる懐かしい味である。福岡のラーメンは競争が激しいので洗練された味だが、へんちくりんのラーメンは昔から変わらない素朴であっさりとした味わいである。

 あぁ、また食べに行きたくなったなぁ。一杯450円の素朴なラーメン。
 車で行けば高速で片道一時間半、高速+燃料代で往復3000円弱。。。


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お店の現在の情報は、ほぼ正確に記事にしてあります。過去の情報は創作です。現在の関連するリンクも掲載しておきますので、我こそはと思う方は行ってみてください。旅行の途中で寄れるなら後悔はしないと思います。

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