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【SS】05.王様の散歩  ※クリエイターフェス

フェス5日目は、我が家のペットとの散歩から発想したショートショートです。我が家のペットもすでに15歳を超えました、もっと長生きしてほしいなぁ。でも長生きしすぎたらどうなるんだろうと思ってできたのがこの話です。お楽しみください。


王様の散歩

 我が家にはペットの犬がいる。名前は「キング」で今年で30歳になる。犬としてはあり得ない年齢だろう。それも全く老いを感じられない。飼い主の方がどんどん年寄りになっている気がする。それに、散歩の時の様子が段々と変わってきた。

 キングは、最初の十年間、確認するように「クンクン」してオシッコして満足していた。次の十年間は、すれ違う犬に対し尻尾を振って挨拶することも加わった。そして、最近の十年間は、寄ってくる犬に対し選別するような態度が追加されてきた。どうやら、犬の中での階級が出来上がり、我が家のキングが頂点に上り詰めたようだ。散歩の時にすれ違う犬は全て向こうから寄ってきて挨拶をしているように見える。

 そんなことを感じながらキングとの生活を楽しんでいたのだが、ある日夜中に我が家のキングがいなくなっていることに気がついた。住んでいるところは、田舎なのでろくに鍵も掛けないで寝ていることもあり、縁側の空いているガラス戸の隙間から脱走したようだった。しかし、朝になるとちゃんと隣で寝ている。不思議だと思いながらも問題にはしていなかった。

 そんなことが続いたある日のこと、遠くから数匹の犬が夜中に吠えているのが聞こえた。私は寝たふりをしていたが、我が家のキングはスックと起き上がり、吠えている犬たちの方へと駆け出していった。私は、もしかしたらと思い、キングの首輪にGPSを仕込んでおいたのだ。

 着替えてからGPSの後を静かに追った。すると数十匹もの犬に囲まれ、真ん中の少し高くなっているところに我が家のキングが天を仰いでいた。どうやら、仲間の一匹が天国に召されたらしい。我が家のキングは、犬たちに向かって何と日本語で話しかけていた。

「お前たち、今日亡くなったチビは無事に天国についたようだ。お前たちも飼い主に可愛がられていれば、死んだ後天国に行けるから安心して仲良く暮らしていくんだぞ。私の寿命は後50年くらいだと思うから、みんなの最後は看取ってやれると思うぞ。安心して日々の生活を送るがいい」

 周りにいた犬の一匹がそれに応えるように話した。
「王様、我々は飼い主より先に天国に行けますが、王様はどうなるのですか。とても心配です」
「はっはっは、私のことは心配しなくてもいいよ。私の飼い主には、子供がいる。ちゃんと引き継いでくれるはずだ」

 何ということだ。我が家のキングはこの辺りの犬の王様になっていたのかとびっくりした。その日は、驚きと共に家に帰り、まるで何も見なかったかのように布団の中に潜り込んだ。しばらくしてキングも何食わぬ顔をしてガラス戸の隙間から帰ってきてすやすやと寝息を立てて眠りについた。

 そして、20年の歳月が過ぎた。すでに私の連れ合いは天国に行っていた。私も病院のベッドのお世話になっていた。私は末期癌を患って一ヶ月経過していた。自分でももう長くないことを悟っていた。そんな時あの時のキングの言葉を思い出した。そうだ、息子に伝えておかなければと思い、Lineで少し離れたところに住んでいる息子を呼び出した。病室には二人きり。

「お父さん、キングのことは解っているよ。キングから聞いているから安心していいよ」

 私の目から一筋の涙がこぼれた。
 そして、私は安心してそのまま静かに永い眠りについた。



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