【短編】心を結ぶ愛 (10)
この後、若者の家の両親の位牌の前で、簡単な結婚式を二人で執り行った。立会人もいない寂しい結婚式だが、二人は満足だった。自分たちの両親に報告できればそれでいいと思っていた。若者の家で結婚式を挙げた二人は、娘の実家に向かって出発した。一年近く離れたっきりだったので娘はどうなっているのかと心配だった。実家に到着して二人は裏庭にまわり、娘が弔った両親の墓前で結婚の報告をした。これで二人とも肩の荷が降りたような気になった。家の中も気になるので二人で入ってみることにしたが、入ってびっくりした。埃がしていないのである。もしかして近所の方が掃除をしてくれていたのかもしれない。きっとそうに違いないと思い、お礼に行こうとする妻を若者は止めた。そのご近所の方に迷惑をかけてしまうかもと思ったのだ。きっと、内緒で掃除をしていたのだろうから。
安心した二人は、その日は娘の実家に泊まって、翌朝早くに若者の家に帰っていった。周りの人に会わないようにと配慮したのだ。こうして、二人は無事夫婦となった。しかし、そのことを知っているのは二人のみだった。本当は村のみんなから祝福をしてもらいたいと言う思いは二人とも思っていたが口にはしなかった。
若者の家に戻ると、村人の着物を作るための反物を仕入れるために、それまで一生懸命働いて貯めていたお金を持って村の外に買いに行った。村の中では買い物はできないので、村の外の店まで出かけた。大体百人足らずの村人の着物の布が必要だった。二人で持って帰って来ないといけないので、毎月少しずつ買いに出かけることにした。そして、呉服屋さんに毎月買うからと言う条件で、少し安くもしてもらった。しかし、二人にはお金を残す意味はないので全ての蓄えのうち、一年間程度の生活費以外のお金を全て着物を作るためのお金として使った。二人とも、微塵も後悔することなく晴れやかな顔をして毎日農作業と着物作りに励んだ。
<続く>
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