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マラソンのペース配分について考える【その2】—コスゲイ選手のネガティブペース —(前編)

みなさんこんにちは!
ONE TOKYOスタッフのまゆゆです(^^)

今日のnoteは
『東京マラソン財団 理事長の部屋』です!
前回は、男子の部で優勝した
エリウド・キプチョゲ選手(ケニア)の
ペース配分について紹介させていただき、
「マニアックな分析でとても興味深い内容でした。
キプチョゲ選手が戦略的に目的を持って
ペース配分を構成しているのが分かりました。」
といったコメントもいただきました!
コメントありがとうございます(^^)

そして今回は、「その2」ということで
女子の部で優勝した
ブリジット・コスゲイ選手(ケニア)の
ペース配分について
伊藤理事長が綴りました📝

前回の記事と合わせて
ぜひご覧ください♪

********

東京マラソン財団の理事長、
伊藤静夫です。

東京マラソン2021では、
男女の現世界記録保持者が参加し、
ともに国内最高記録で優勝するという
期待通りの素晴らしいレースを
見せてくれました。
前回は、男子マラソンで優勝した
エリウド・キプチョゲ選手(ケニア)の
ペース配分について紹介しました。
今回は、女子マラソンで優勝した
ブリジット・コスゲイ選手(ケニア)の
ペース配分について考えてみます。

■女子マラソン世界記録もネガティブペースへ

今回優勝したコスゲイ選手は、
2019年10月13日シカゴマラソンにおいて、
16年ぶりに女子のマラソン世界記録を
塗り替える2時間14分4秒という
大記録を樹立しました。

従来の世界記録は、
2003年にイギリスのポーラ・ラドクリフ選手が
ロンドンマラソンで記録した
2時間15分25秒でした。
男子の2時間の壁の突破が先か、
女子のラドクリフ選手の記録の更新が先か、
と言われるほどに
この女子の世界記録は厚い壁でした。
おもしろいことに、
非公認ながらキプチョゲ選手が
2時間の壁を破った同年翌日に、
コスゲイ選手がこの偉大な
女子世界記録を1分21秒も更新したのでした。

図3 代表的な女子マラソンレースにおけるペース配分の比較

図3には、ラドクリフ選手の
前世界記録におけるペース配分、
コスゲイ選手の現世界記録と
今回の東京マラソン2021での
ペース配分を示しました。
また、ケニアのメアリー・ケイタニー選手が
2017年ロンドンマラソンにおいて記録し
女子単独レースでの世界記録樹立時の
ペース配分もあわせて示しました。

ここで、現在の女子マラソンの記録について
触れておきます。
世界陸連(World Athletics; WA)は
マラソンの世界記録を男女混合レースと
女子単独レースとに分けて公認し、
日本記録もこれに準じています。

図3に示した世界記録では、
ラドクリフ選手とコスゲイ選手は
いずれも男女混合レースで、
ケイタニー選手は
女子単独レースで樹立したものです。
なおこの記録区分については、
男子のペースメーカーあるいは
男子選手の併走が有利に働くから、
という議論が背景にあったようです。
(ペースメーカーの存在については、
また稿を改めて考えてみたいと思います)

さて、図3に示した4レースのペース配分を
比べてみます。
前回、ペース配分の類型についてふれました。
これにならえば、
ラドクリフ選手およびコスゲイ選手の
2レースは前半より後半が
速くなっていくネガティブペースと
分類できます。
一方、ケイタニー選手のものは前半が速く
次第にスピードが低下していく
ポジティブペースです。

マラソンのペース配分にとって
ポジティブがよいかネガティブがよいのかは、
一義的には結論づけられません。
コースの特性や
自然環境の変化なども
重要な要素になるでしょう。
そうした中にあって、
ペースメーカーの存在が
マラソンのペース配分を
決定づけるうえで
大きな役割を演じるようになりました。
一般に30kmまでペースメーカーがレースをリードし、
マラソンの勝負はそれ以降
というモデルが次第に定着してきました。
勢い、エリートランナーのペース配分は
後半がよりスピードアップする
ネガティブペースになるわけです。

ラドクリフ選手の出した
あの驚異的な世界記録も
ネガティブペースでした。
その世界記録を更新した
コスゲイ選手のペース配分も、
やはり典型的なネガティブペースです。
実際、近年のマラソン世界記録の推移をみると、
特に男子ではほとんどが
ネガティブペースによって記録を更新しています。

エネルギー源である筋グリコーゲンが
乏しくなっているマラソンの終盤において、
なおかつスピードアップできる能力、
つまり、ネガティブペースを発揮できる能力こそが、
エリートマラソンランナーに求められる
最も重要な資質ではないか。
前回、キプチョゲ選手のペース配分から
考えた結論でした。
ラドクリフ選手、コスゲイ選手の
世界記録のペース配分をみても、
この結論がよく当てはまります。

この続きはまた次回、
コスゲイ選手のラストスパートのお話から
したいと思います。

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最後までご覧いただき
ありがとうございました!
この続編は来週6月29日(水)
11時ごろ投稿予定です!

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また来週~!


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