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マラソンのペース配分について考える【その1】―キプチョゲ選手の自在なペース配分―(前編)

みなさんこんにちは!
ゴールデンウィーク中に
日焼けで手が真っ黒になった
ONE TOKYOスタッフのまゆゆです(笑)

さて、今日のnoteは
『東京マラソン財団 理事長の部屋』です。
伊藤理事長がこのnoteで登場するのは2回目!
前回は東京マラソン2021の御礼のご挨拶を
アップさせていただきました(^^)

今回は約2か月ぶりに
伊藤理事長が「東京マラソン2021」についての
振り返りを綴りました🖋

前編・後編の2つに分けてアップしますので
ぜひ続けてご覧ください♪

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東京マラソン財団の理事長、
伊藤静夫です。
前職では日本体育協会(現在の日本スポーツ協会)
スポーツ科学研究室の室長を務め、
またランニング学会においても
ランニングに関わる科学研究に
長く携わってきました。
そのなかで、
いわゆる科学的エビデンスと
実際のランニングとの間で、
目から鱗と納得することも多く、
またその一方で
矛盾を感じることもあります。
東京マラソン財団という
現場に入ってみて、
その納得と矛盾とが織りなす様を
大変興味深く感じるようになりました。

この度、Noteという発表の場を
いただいたので、
そうした私の感想を
書き留めておきたくなりました。
あくまでも
科学的エビデンスをベースにしたものには
なりますが、
ランニング、とりわけマラソンについて
面白いと感じたテーマを
そこはかとなく綴ってみます。
ランニングに親しむ読者の
参考になれば幸いです。

東京マラソン2021が終わって
はや2ヶ月以上がたちました。
さまざまな話題のつきない
大変印象深い大会であったと思います。
なかでも、
エリートランナーたちの活躍に魅せられました。
今大会は、
男女の現世界記録保持者が揃って参加した
世界でも類例のないレースになりました。
それだけに終わらず、
男女二人の
世界記録保持者は期待にたがわぬ
素晴らしいレースをみせてくれました。
そこで、
はじめに男子世界記録保持者の
エリウド・キプチョゲ選手(ケニア)について、
とくにそのペース配分を取り上げてみます。

私自身、
日頃よりマラソンのペース配分について
興味を持っていました。
実は、このペース配分というテーマは、
昔から、そして現在も
スポーツ科学の重要な研究課題であり続けています。
さまざまな研究分野の学者が関心を抱き、
多角的に研究に取り組んでいます。
裏を返せば、未解決の研究課題でもあり、
さまざまな論争が
今なお続いている研究テーマでもあります。
前置きが長くなりましたが、
今回の東京マラソン2021大会で
キプチョゲ選手はどのようなペース配分で走ったか、
過去のレースと見比べながら振り返ってみます。

■キプチョゲ選手のペース配分

図1は、これまでにキプチョゲ選手が走った
2回の非公認世界記録、現在の世界記録
そして東京マラソン2021(2022年3月6日開催)
(グラフには”Tokyo’22”と表記)の4レースについて、
5kmごとのラップタイムの変化をグラフにしたものです。

図1 キプチョゲ選手の主なマラソンレースにおけるラップタイムの比較

非公認世界記録について説明しておきます。
2017年(図1緑線)、
マラソン2時間に挑戦するプロジェクト
”Breaking2” が編成され、
キプチョゲ選手を筆頭に厳選された3人のランナーが
起伏の少ないF1サーキットコース(イタリア・モンツァ)に
挑みました。
何より特徴的なのは、
ペースメーカーが5kmごとに交替しながら
マラソン2時間ペース(5キロ14分13秒)を堅持し、
ランナーを先導したことです。
このほか、
できるだけランナーに接近した先導車と
周りを囲んだペースメーカーによる
ドラフティング(風よけ)効果、
あるいは新たに開発された
ランニングシューズなども
ランナーのサポートに貢献したようです。
そして、この設定ペースについて行けたのは
キプチョゲ選手だけでしたが、
結局マラソン2時間の壁にはあと一歩およばず、
25秒オーバーとなりました。
もちろん、これらのサポートは
競技規則から外れるので公認記録とはなりません。
2019年(図1青線)、
同じモデルでの挑戦が
オーストリア・ウィーンで行われました。
このときはキプチョゲ選手だけの挑戦でしたが、
見事1時間59分40秒で走破し、
非公認記録ながら2時間の壁を破るという
歴史的快挙をとげました。
キプチョゲ選手が公式の世界記録を樹立したのは
2018年のベルリン・マラソンでした。(図1黒線)
従来の世界記録を1分以上短縮する2時間1分39秒で、
これもマラソンの世界記録が初めて
1分台に突入するという歴史的記録となりました。
今回の東京マラソンの記録は、
途中までこの世界記録を上回るラップタイムを刻みましたが、
最後は向かい風の影響もあって、
最終タイムは2時間2分40秒で
世界記録更新とはなりませんでした。
それでも、公認記録としては自己3番目の好記録でした。

図1にもどり、
改めてキプチョゲ選手の代表的な4レースを
ながめてみます。
その前提として、マラソンのペース配分の
類型化を考えておきます。
大きくは、次の三つのタイプに分けられます。
すなわち、
前半速く後半遅くなる前半型(ポジティブペースと呼びます)、
前半遅く後半速くなる後半型(ネガティブペース)、
そして限りなく一定ペースで走るイーブンペース型です。

注目しておきたいのは、
現在マラソン世界記録を更新し続けている
キプチョゲ選手のペース配分が
決して一様ではないという事実です。
すでに説明したとおり、
様々な人為的手段を講じて
一定ペースを設定しようとした
ウィーンでのトライアルにおいてすら、
最後は圧倒的なラストスパートによって
2時間切りを成し遂げています。
これは、結果的には
後半型のネガティブペースになっています。
一方、
同じ非公認記録のモンツァでのペース配分は、
30km以降走速度はわずかずつ低下し、
イーブンペースをねらったものの
前半型のポジティブペースになっています。
公認記録においても、
ベルリンの世界記録では
典型的なネガティブペースですが、
東京マラソンでは
最後のラストスパートでペースダウンした
ポジティブペースになっています。

この続きはまた次回、
ラストスパートのお話からしたいと思います。

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最後までご覧いただき
ありがとうございました!
いかがでしたか???
「スポーツ科学」的な目線での内容は
ちょっと難しくも面白いお話で
続きが気になりますね(^^)
私自身、
レース全体を振り返ることはありますが
なかなか一人の選手に着目してみることが
なかったので
驚きがたくさんでした!

この続編は来週6月1日(水)
投稿予定です!
(Global Running Dayですね!)

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また来週~!



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