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ホースセラピーの驚くべき効果

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その穏やかな表情をながめるだけで優しい気持ちにさせられる馬。その馬を用いたホースセラピーをご存知でしょうか。これは、乗馬、馬との触れ合い、世話などを通じて精神機能や運動機能を向上させるもので、スポーツ/レクリエーション、医療、教育など、幅広い分野で用いられています。

馬を用いたセラピーの歴史は、なんと古代ギリシャにまでさかのぼるとのこと。負傷した兵士の身体機能回復に活用されていたそうです1)近年ではその効果について多くの研究が行われており、うつ病、不安、ADHD、行動障害、依存症(依存している状態)、トラウマ、摂食障害、健康障害、解離性障害、アルツハイマー病、認知症等に有効であることが明らかになっています。欧米からやってきたホースセラピーは、近年日本でも広がりつつあり、心身機能への効果が複数の研究で明らかになっています2)。

さて、このように多方面に渡るホースセラピーの効果ですが、今回はPsychology Todayの記事「Equine Assisted Therapy: A Unique and Effective Intervention(馬介在療法:ユニークで効果的な手法)3」を用いて、ホースセラピーに参加する十代までの子どもや若者のメンタルヘルスへの効果をご紹介します。

少し長い文章ですが、ホースセラピーには関心が無いと言う人も是非読んでみてください。特にお子さんを持つ方、教育者の人にはおすすめです。繊細な子どもたちを癒し、感受性豊かで可能性にあふれた子どもたちの生きる力を引き出すヒントがあふれています!

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まず、ホースセラピーの場を構成するのは、馬とクライアント、そして多くの場合セラピストや医療のスペシャリストですが、通常言葉が交わされることは多くありません。にもかかわらずクライアントはセラピーを通して自己認識を高め、不適応とみなされる行動やネガティブな感情を認識すると言われています。

クライアントにどのような変化がもたらされるのか、詳しく見ていきましょう。


1. 信頼関係の構築力の醸成

ホースセラピーの第一歩は、馬を信頼し、そして自分自信を信頼することです。馬と信頼関係を構築できた経験は、他者を信頼できなくなったクライアントの心を癒し、新たな関係と信頼の構築に力を与えます。

2. 不安の軽減

人間と動物の相互作用に関する研究では、馬との接触によって人の不安が低下することが明らかになっています。最初は馬を怖がる子どもたちも、専門家のサポートによって心を開いていきます。

3. 抑うつや孤立感の減少

抑うつは多くの場合、仲間からの拒絶や孤立に起因すると言われています。無条件に受け入れてくれる馬と触れ合うことで、他者とのポジティブな関わりに踏み出す気持ちが生まれ、結果的に抑うつや孤立感が改善されます。

4. マインドフルネスの実践

ホースセラピーにおいて、クライアントは「今、ここ」に存在し、心静かに、自分の内側に意識を向け、完全に没頭することを学びます。まさにマインドフルネスが体現された状態です。馬はとても敏感で、相手の感情を素早く感じ取り、それを鏡に映すように表現し相手に返します。このフィードバックループとマインドフルネスの実践によって、子供たちはポジティブな「在り方」を学び、認知や感情に変化が生まれます。そのことが、不安、トラウマ、強迫観念、衝動性、感情のコントロール、その他の精神的な問題の解決へと繋がっていくのです。

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5. 自尊心の向上

新しいスキルの習得やそのための努力は、子ども達の自信を高めます。自然の中で、競争的ではない、評価の伴わないプロジェクトに取り組むことで、自信や自尊心が向上し、新しいことにチャレンジする力が育まれます。

6. 衝動のコントロール

ホースセラピーは、衝動や感情のコントロールに悩む子どもにも多大な効果をもたらします。馬と落ち着いてコミュニケーションをとることで、感情認識、感情/衝動の調節、セルフコントロールのスキルが養われ、過敏性、焦燥感を軽減し、協調性を向上させます。

7. 自己効力感の向上

チャレンジングで目標が明確な活動における成功体験は、イニシアチブや課題解決力を養い、自己効力感を向上させます。「やった!」という気持ちが、無力感に取って代わり、子どもや思春期の若者に様々な物事に前向きに取り組む力を与えます。

8. ポジティブなアイデンティティの醸成

馬とセラピストが作り出す場で過ごすと、子どもは次第に「自分は受け入れられている」「好かれている」と実感するようになります。やがて馬との間に絆とも呼べる関係性が生まれ、子どもの自己認識やアイデンティティも肯定的なものへと変化していきます。

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9. コミュニケーション力の向上

大きな動物とうまくコミュニケーションをとる方法を学ぶことで、直感力、自分の心地の良い場所から一歩踏み出す力、そして忍耐力が養われます。感受性豊かで敏感な馬と関わることで、子どもたちは自分自身の感情や行動により意識的になり、対人関係における非言語コミュニケーションの重要な役割について、大きな気づきを得ます。

10. 自然と共に成長

ホースセラピーによって、子どもたちは新しい視点で自然を捉えるようになります。新たな方法での自然との関わりによって、自然の美しさを体感し、喜びやつながりの感覚を発見したり、取り戻したりします。屋外でのセラピーが自然で穏やかな形で実践されると、その効果は更に高まります。

11. 自己受容

多くの場合、馬と関わり始めたばかりの子どもたちは、何か恥ずかしい失敗をしてしまうのではないかという不安を抱きます。しかしすぐに、馬との関わり方は人それぞれだと学び、他者と自分を比較することをやめて自分の内側に生まれる心地よさに焦点を当てるようになります。このプロセスを経ていくと失敗への不安は軽減され、自己受容感が高まっていきます。またホースセラピーを経験する子どもたちは、何かができるようになることは旅のようなものだと理解し、旅の様々な場面で自分を受け入れることが、レジリエンスを養うために大切であることを学んでいくのです。

12. ソーシャルスキルの向上

ホースセラピーを通して、子どもたちは適切なコミュニケーション(非言語コミュニケーションも含む)、他者からのフィードバックの受け取り方(良いものもそうでないものも)、人間関係の互恵性、アサーティブネス(自他を尊重した自己表現)、イニシアチブ、他者との結びつきを学びます。これは、社会的に孤立状態にある子どもや引きこもりがちな子どもたちを、より開かれた適切な場所へ連れ出す大きな原動力になります。馬とポジティブな関係性を築くことが、他者と親しくなり、信頼関係を築き、互恵的な社会の一員として生きていくことに必要なソーシャルスキルを練習する機会を与えてくれるのです。

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13. アサーティブネス(自他を尊重した自己表現)の獲得

大きな動物と向き合うことは怖さを伴います。しかし、このことが子どもたちにしっかりとダイレクトに自分の思いを相手に伝える方法を学ぶ機会を与えます。明確なコミュニケーションが求められるチャレンジングな活動において、馬は(なんと!)、子どもたちがイニシアチブを取り、明確に思いを伝えるように促していくのです。子どもたちはそれらを通して、実際の人間関係で求められる、自分のニーズや感情をしっかり相手に伝える力を獲得していきます。

14. 安心できる領域の実感

馬との間に築かれる健康的で、安全で、尊重し合える関係が、支配や対立といったトラウマ的な対人関係を経験した子どもに癒しをもたらします。子ども達は、自分より大きな肉体と力を持つ馬が、自分の感情を繊細に感じ取り、安全で互いを思いやる領域内で自分と関わることを学びとり、安心できる領域を実感します。

15. 創造性と自発性の醸成

社会の中で生きづらさを感じている子どもは、感情的な抑圧、硬直、落ち込みに苦しみ、自発性を失っている場合があります。創造的で自発的で遊びの要素を持つホースセラピーは、子どもたちの自発性、創造性、遊びを楽しむ力を回復させます。

16. 新たな視点と与える喜びの獲得

特定の馬と思いやりの関係を築くことで、子どもは学校や家庭以外の場で愛着の持てる居場所を獲得します。馬の世話を通して、与えること、育てること、つながることを学び、葛藤や自虐的な考え、否定的な感情、繰り返し沸き起こる不安を脇に置いて、安全で思いやりのある関わり合いに注意を向けることができるようになるのです。

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いかがでしたか。馬の持つ力に驚かされた人も多いと思います。また馬と子どもたちが育む互恵的な関係性に惹きつけられた人もいるでしょう。

一方で、「クライアントの相手をしている馬はストレスを感じないのだろうか?」と考えた人もいるかもしれません。本当のことは馬に聞いてみなければ分かりませんが、退役軍人の乗馬セラピーに使用される馬を対象にした米国の研究では、馬はストレスを感じていないことが明らかになっています4)。

(寄稿:泉谷道子 - 心理学博士)

1) https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030811261.pdf

2) file:///Users/afn/Downloads/v12p129-139.pdf

3)https://www.psychologytoday.com/us/blog/helping-kids-cope/201903/equine-assisted-therapy-unique-and-effective-intervention

4) University of Missouri-Columbia. "Horses working in therapeutic riding programs do not experience additional stress." ScienceDaily. ScienceDaily, 18 September 2017. <www.sciencedaily.com/releases/2017/09/170918163406.htm>.



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