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医師が患者に処方するハピネスの実践10個

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コロナ禍の中で、1人の医師が健康と幸せのためにいくつかの習慣を処方し始めた。

コロナの恐怖と混乱の中で、我々の健康に関する考え方も変わってきた。外出制限や閉鎖の長期化が心理的にも身体的にもインパクトを持ち、健康な気持ちが単なる病気の不在だけにとどまらないということに気づき始めた。ポジティブな感情を経験するとき、穏やかさや平和を感じるとき、他の人たちとつながるとき、美に畏敬の念を抱くとき、我々は最も健康な気持ちでいられる。

我々の全員が正しいと認識しつつあるものを、我が国のヘルスケアシステムに、明確な処方箋として発行してもらうのは高望みだろうか?我々が何百万もの人たちにワクチンを届けようとしているように、臨床家たちは健康のパラダイムを劇的にシフトさせられるだろうか?患者としての私たちは、ヘルスケア供給者から医薬品以上のものを期待できるだろうか?

数名の同僚と私は、今これをやろうとしている。私は、科学的な治療法で病気の進行を画期的に変えられることに驚嘆しているが、同時に患者が健康は薬や手術がくれるものだとの考えのまま退院することを残念に思っている。(サンフランシスコ)ベイエリアのサッター・ヘルスに所属する私たち数名は、グレーター・グッド・サイエンス・センターの支援を受け、誰もが健康に良いと分かっており、納得できる科学的エビデンスもあることについて、一昔前のような紙ベースの処方箋を出すことを始めた。

処方箋に印刷されたチェック項目とその効用の理屈は以下のとおりである。

1. 深呼吸を数回する。

深呼吸がリラックスを助けることは誰もが知っている。だから、数十年のリサーチが、ゆっくりと深呼吸すれば副交感神経系を活性化し、体とマインドが静まることを示しても驚くには当たらない。これが起きると、ストレスマーカー、心拍数、血圧がすべて下降する。これが、1日を通して深呼吸を繰り返せば、より穏やかに、バランスよく過ごせる理由である。

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2. 友達に電話をかける。

ジュリアン・ホルト=ランスタッドの先駆的な研究により、社会的なつながりの死亡率に対するインパクトは、血圧、コレステロール、肥満度と同じ程度であることが示唆されている。この便益は、直後に向社会的な感情が活性化し、長期的に社会的サポートが得られることから来ると思われる。これは、私の患者のように、身体的健康の問題を抱える人たちに特に役立つかもしれない。

3. 誰かを抱きしめる。

抱擁によりオキシトシンが放出される。このホルモンは、社会的な結びつきを築き、ストレスホルモンのコルチゾンのレベルを下げる働きがある。また、エンドルフィンも放出されるが、これはウェルビーイングの感覚を生む。だが、わざわざ科学者に抱擁が良いと言ってもらう必要があるだろうか?

4. 困っている友人を助ける。

他の人に手を貸すことで、社会的関係を強化しながら主体感や有能感を伸ばすなどの重要な心理的ニーズを満たせる。よき友となり困っている人を助けるという価値観に則って行動すれば、目的意識が育まれ、それが意義ある人生の基盤となる。事実、ステファニー・ブラウンのリサーチでは、助けを差し伸べる人は、それを受け取る人よりも多くの便益を得られる可能性のあることが示唆されている。

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5. 感謝のカードを書く。

過去20年にわたって多くの研究が、感謝の気持ちを表す人たちはより幸せで抑うつも軽いことを示している。感謝のカードを1枚だけでは、長く続くポジティブな認知的変化につながるような感謝の実践にならないが、このカードが1日の恵みを書き連ねるという習慣の始まりになるとして、私も患者に勧めている。

6. シャワーを浴びながら…あるいはどこででも歌う。

音楽を奏でる(特に歌う)ことで、気分が上がる。これは複数のメカニズムを通って起きている。歌うとエンドルフィンが放出される。だから、歌うことで痛みが和らぐのは驚くに値しない。ストレスホルモンのレベルも低下し、免疫機能が高まる。歌詞を内に取り入れて意味を生み出す。私は、しばしば聖歌隊への入会も付け加える。他者の歌声に囲まれることで歌の効用が増大するからだ。

7. 好きな曲に合わせてダンスする。

体を動かすと健康に良いことは誰もが知っているが、音楽に合わせて動かすと効果が増す。ダンスによる気分の向上はエクササイズ単独よりもずっと効果が長く続く。ダンスには社会的な便益もある。ダンスがお年寄りの認知症の予防に役立つというデータもある。

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8. 美しい場所に散歩に出かける。

誰もが自然に包まれると気持ちが良くなるが、我々はこの癒しの力を過小評価している。残念ながら、私がケアを行っている人たちの多くは、それが体の動きの不自由や社会的状況によって非常に困難である。私は、それが出来る人たちには「感動散歩」を勧めている。また、自然がその癒し効果を発揮できる場所に行く方法を見つけるように患者や家族に話をしている。

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9. 誰かを許す。

許しは、我々が害を被ったことの否定ではなく、怒りや他の不健康な認知的プロセスを手放すということである。許しには、何らかのハードワークが必要だが、その便益は計り知れない。許しを会得した人は、より長生きできる。これは、ストレスや抑うつの低減、睡眠や関係性の向上により起きる。

10. より優しい声で自分に話しかける。

我々はしばしば自分自身の最悪な批評家で、健康が悪化すると、過剰な非難を自分に浴びせることがある。セルフ・コンパッション(自分への思いやり)は、自分を傷つけるのではなく癒すのに役立つ。より優しく自分に話しかけることが、この実践の鍵となる。

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私は、回診や退院準備の中で、「シャワーを浴びながら歌う」、「友人に電話する」、「美しい場所を散歩する」などの処方を行うことがある。ハピネス処方は、その本質が私の思う患者の価値観や情熱とぴったりと合うように組み合わせる。そして、私は常に「愛を広める」ことを処方箋に含める。患者には、最終的に愛に勝る医療はないと伝える。愛すれば愛するほど、より良く、長く生きられるのである。この考えと愛を心に持ち続けるように彼らに呼び掛けている。更に好奇心が旺盛な人たちには、慈愛の瞑想の実践を勧めている。リサーチは、私たちがもっと愛を感じるのにそれが役立つことを示唆している。

当然ながら、このような処方箋は驚きと、しばしば喜びをもって受け止められる。医者としての25年間で、薬の処方がこれだけ熱狂的に迎え入れられたことは記憶にない。私の処方したコレステロール値を下げる薬がインスタグラムに載ることはないが、ハピネス処方は大々的に投稿されている。

時には、処方箋を見て涙を流す人もいる。Sさんは、69歳の背が高く優雅な女性で、がんと闘ってきた。彼女は、最近に尿路感染と虚弱のために入院してきた。私の回診では、彼女の悲しみが部屋中に浸透していた。どうやら、抑うつが当座の最大の問題のようだった。

彼女は、信じる気持ちがぐらついていることを説明し、「ハース先生。もう前に進めません」、と言った。私は、「あなたの教会がズームで行っている聖書勉強会に参加しましょう」という処方箋を手渡した。

涙が目を浸し、彼女は口を開いた。「神様の恵みがありますように。確かに私が打ち勝つためには化学療法を超えるもの…まさにこの処方箋が必要です」。

コロナ禍の簒奪(さんだつ)は、多くの人にとって本当になりたい自分を見据える機会になった。ハピネス処方は、それを明確に描く助けとなる。しかも、私が当初より考えていた以上のアイデアを提供できるアクションプランとなっている。時には、既に知っていたが、苦痛の中で忘れてしまっていたものを思い起こさせてくれる。リサーチによれば、我々がプランに沿って意図的に行動を起こすとき、認知的構造が変容して体験をより濃密に感じられることが示唆されている。

コロナ禍は、この先も続く社会的変化を残すだろう。ヘルスケア供給者は、コロナからウェルビーイングや健康に関して人々が学んだことを強化できる。従って、恐らく新たなパラダイムが持続的なコロナ禍の便益の1つと言える。ハピネス処方は、このような健康促進アクティビティが、従来から処方されている薬と同じくらい我々の健康にとって価値があると明示している。

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著者について
レイフ・ハース医師(Leif Hass, M.D.)
オークランドにあるアルタ・ベイツ・サミット・メディカル・センターの家庭医兼病院総合医。また、サッター・ヘルスの「ジョイ・オブ・ワーク・チャンピオン(仕事の喜びのチャンピオン)」とカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の臨床指導教官も務める。

〈引用〉

Leif Hass, M.D (2021). "10 Happiness Practices a Doctor Prescribes to His Patients". Greater Good Magazine. 28 Dec. 2021

https://greatergood.berkeley.edu/article/item/10_happiness_practices_a_doctor_prescribes_to_his_patients

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