マーティン・セリグマン博士が語る パンデミック下におけるポジティブ心理学の活用と最新の研究(後編)
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マーティン・セリグマン博士が語る パンデミック下におけるポジティブ心理学の活用と最新の研究(後編)

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129年の歴史を持つ、アメリカ最古で最大の心理学者の団体である「American Psychological Association(APA)」が週に1度配信するポッドキャスト「Speaking of Psychology」に、「ポジティブ心理学の父」として知られるマーティン・セリグマン博士が登場し、コロナ禍におけるポジティブ心理学の役割について語っています。今回は後編です。

マーティン E. P. セリグマン(心理学 博士)プロフィール:
ペンシルバニア大学ポジティブ心理学センターディレクター。同大学心理学部ゼラーバッハファミリー財団教授。ポジティブ心理学、レジリエンス、学習性無力感、抑うつ、楽観性、悲観性の分野の第一人者。これまでに350以上の学術出版物と30冊の本を執筆。1998年にはAPAの会長を務め、その間、科学的研究の一分野としてポジティブ心理学を推進。新たな学問領域の確立に貢献。ワンネス財団、株式会社YeeY、GIVENESS INTERNATIONALの招聘で2018年、2019年に日本でのセミナーを実施。

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*聞きてキム・I・ミルズ(以下M)は、APA戦略的外部コミュニケーションおよび広報のシニア・ディレクター

M:では、セリグマン博士の初期の研究である学習性無力感についてお伺いします。博士は当時、犬や他の哺乳類を研究しこの現象を明らかにしましたが、その後学習性無力感について考えを変え、今は学習性の希望を提唱しています。まずは馴染みの無いリスナーのために学習性無力感について教えてください。この研究はどのように発展したのでしょうか。

セリグマン(以下S)学習性無力感は過去20年間で覆されました。50年前、スティーブ・メイヤー、ブルース・オーバーマンと私は、動物や人は、自分たちではどうしようもない悪い出来事を経験した場合、打ちのめされ、消極的で無気力になることを発見しました。私たちは、これを「学習性無力感」と呼びました。一方、全く同様の悪い出来事を経験した人や動物でも、その出来事に対処できた場合は無気力にならないことが明らかになりました。その後スティーブ・メイヤーは 神経科学者になり、彼は1990年から1995年にかけて、脳を観察できる優れたツールを使って研究を続けました。そのツールを用いてスティーブが明らかにしたかったのは、無気力になったラットの脳内では何が起きているのかということでした。その結果は驚くべきもので、これまでの定説をひっくり返すものでした。

スティーブが発見したのは、動物と人の鼻の上の方にある背側縫線核の働きです。これはラットでは5万個、ヒトでは15万個の細胞で構成されていて、この組織が無気力を生み出していたのです。そして、とても興味深いのは、内側前頭葉に回路の存在を突き止めたことです。この回路が背側縫線核の機能を無効にしていたのです。そしてこの回路働きがいつ作動するかというと、それは熟達(mastery-自分でなんとかできるという感覚)や希望を抱いた時でした。

まさに私たちが50年前に考えていたことが覆されたのです。50年間も研究していることの素晴らしさはここにあります。自分が間違っていたことが明らかになるのですから。
無力感は悪い出来事に対する哺乳類のデフォルト反応で、私たちは生まれつき無気力なのです。諦めることは標準的な反応なのです。しかし、私たちの中には回路が存在しています。私はそれを希望の回路と呼んでいますが、これが熟達や希望によって作動し、無力感を抑制します。つまり、無力感の実験で学習されたのは希望と熟達で、それらが保護要因だったのです。素晴らしいストーリーですよね。これについては、数年前に「Psych Review」に掲載された論文に詳細を記していますし、私の著書である「Hope Circuit」(希望の回路)でも伝えています。本のタイトルはこの研究に起因しています。

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M:セリグマン博士は、これまでの人生における考え方や研究の方向性を変えるきっかけとなった出来事について語っていますね。一つは当時5歳だったお嬢さんとの庭での出来事、そしてもう一つは夢の中のグッゲンハイム美術館での出来事ですが、それらについて、何が起きたのか、あなたの仕事や人生にどのような影響を与えたかについてお話しください。

S:はい。幸運なことに、私は過去に少なくとも2つの人生を変えるような悟りを得ました。まず一つ目は、神秘的な夢の中での出来事で、もう一つ目は、アメリカ心理学会の会長に選ばれた直後に我が家の庭で起こった出来事です。一つずつ説明しますね。

夢の出来事は、私がメンターであるアーロン・ベック(うつ病の認知療法の創始者として知られる精神科医)と、とても特別なランチの時間を過ごした2週間後に起こりました。実はティム(アーロン・ベック)は現在99歳を過ぎていますが、今も大変元気ですし、昔と変わらず優しさに溢れた人です。私たちは週に1回は一緒に過ごしています。そして50年前も私たちは週に1回ランチを共にしていたのですが、その当時私はペンシルバニア大学のテニュア(終身在職権を有した教員)で、動物実験に基づいた心理学を専門にしていました。そしてある日のランチでティムが私にこう言ったのです
「マーティー、今やっていることをこのまま続けたら、人生を無駄にしてしまうぞ」。

私はその言葉を受けてずっと考えていました。そして2週間後こんな夢を見たのです。私はグッゲンハイム美術館の階段を上っていました。そして右側の壁に沿っていくつものドアがあることに気がつきました。それらを一つ一つ開けていくと中では人々がトランプで遊んでいました。私はこの状況にとても困惑し、こうつぶやいたのです。「なぜみんなトランプで遊んでいるのだろう?」。するとグッゲンハイム美術館の天井が開き、神が覗き込んだのです。白い髭を生やした男性でした。

神はよく響き渡る声でこう言いました。「セリグマン、少なくとも君は正当な質問を始めている」。この出来事が私の人生を変えました。実験心理学者から臨床心理学者へ、実験的研究から縦断的研究へ、 動物から人間へと私を動かしました。

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それから30年後に話しは飛びます。私はAPAの会長に選ばれました。会長はイニシアチブを取って何かに取り組むべきだと言われたのですが、正直私は自分が何のイニシアチブを取るべきかよく分かっていませんでした。そんなある日、我が家の庭で娘のニッキーと草引きをしていました。当時5歳だった彼女は今では臨床心理士で、フォーダム大学で博士号を取得しインターンシップをしているのですが、これは彼女がポジティブ心理学を生み出した話です。

その日はニッキーが5歳の誕生日を迎えてから2週間あまり経った頃で、私たちは庭で一緒に草引きをしていました。私は黙々と草を引いていたのですが、ニッキーは歌い踊りながら草を中に放り投げて楽しんでいました。そんな彼女に私は「真面目にやれ。ニッキー、今は草引きの時間だぞ!」と怒鳴りつけたのです。するとニッキーは一旦立ち去り、しばらくすると戻って来てこう言いました。「おとうさん、ちょっと言ってもいい」と。「ああ、何だ?」と私が言うと彼女は続けました。「前は私めそめそしてたよね。でも5歳になってから一度もめそめそしてないって気づいた?」。「そうだね」と私が返すと彼女はこう言ったのです。「私は5歳の誕生日にもう泣き言を言わないって決めたの。これは今までで一番難しいことだった。私にこれができるんだったら、お父さんも不機嫌になることを止められるはずよ」。

これは図星でした。この出来事で私は3つのことに気づきました。まず、私は確かに不機嫌な人間でした。間違いや誤りを見抜く自分の能力を誇りに思っていました。そして初めて気づかされたのです。それは私のそれまでの成功は、悲観的で不機嫌で批判的であることによるものではなく、間違いでなく正しいものを見極めることができたことによるものではないかということです。そこで私は変わることを決心しました。そして実際に変わりました。ニッキーは正しかったのです。私は不機嫌で、その不機嫌さが、人生でやりたいことをやるということにおいて邪魔をしていたのかもしれません。

二つ目の気づきは、自分の子育て論が間違っていたということです。私の子育てと教育の理論は 矯正的なものでした。基本的に教師や親の役割は、子どもたちの誤った行動を見つけてそれを正すことだと考えていました。誤りを全て正せば模範的な子どもになると。ところが、それはナンセンスだと気づかされました。親や教師の仕事は、子どもの良い行いや強みを見つけることです。ニッキーの強みは、大人に対してしっかりと話ができることでした。私たちは子どもたちに対して、苦手なことを避けることに注力するのではなく、強みに着目して、得意なことを活かして生きるように促すべきなのです。これが二つ目の学びでした。


その後、私は子育てと教育方法を変えました。私の教育法は例えるなら赤ペンだらけの答案用紙でした。それが今では青で埋め尽くされています。「完璧な文章ですね!」「ぴったりの表現です」という、肯定的な言葉が並んでいます。

庭の出来事で得た3つ目の気づきは、心理学とAPAに関することです。その当時までの心理学は、病理、弱みなど、この世にある問題のみを扱うものでした。私も30年間、うつ病、統合失調症、薬物依存症(依存している状態)、自殺などについて研究してきましたが、それは重要なことの半分でしかありませんでした。残りの半分はうまくいっていることを認識し、それを発展させ、それらを中心に生きることです。その悟りの中で生まれてきたのがポジティブ心理学です。人生に不自由さをもたらす問題を認識し、それらに対処するだけでなく、生き甲斐をもたらすものに着目し、人生を生き甲斐に満ちたものにする方法を教えることを使命とする、ポジティブ心理学というムーブメントがあっても良いのではないかと思いついたのです。

M:そこからあなたはポジティブ心理学の研究を始め、PERMAモデルと呼ばれるものを生み出しましたね。それについて教えてください。

S:人生を不自由にするものではなく、人生を良いものにするウェルビーイングについて研究すると決めたら、必要になるのはDSM(精神障害の診断・統計マニュアル)とは真逆のものです。狂気の定義だけでなく、正気の定義が必要です。では、その要素は何でしょう。良い人生の柱となるものは何でしょうか。それを現すのがPERMAです。PERMAは良い人生を構成する5つの要素の頭文字です。最初の「P」は、ポジティブ感情です。幸福感、高揚感、主観的なウェルビーイングの高さです。2つ目の「E」はエンゲージメントで、音楽と一体になることや仕事に完全に没頭すること、好きな人との時間を満喫することなどがあるでしょう。私はいつも講義をしている時に、聴衆が「E」の状態であってくれたらと願っています。

「R」は良好な人間関係です。人は関係性を求めます。群れる生き物です。ハチやアリと同じです。何かの一部になりたいのです。それは人生の意味である次の要素「M」につながります。意義や目的、自分より大きな何かを信じることや、自分が属し、自分自身を捧げる何かを手に入れることです。そして最後の「A」は、達成、熟達、能力です。ですから、良い人生は、どれだけポジティブ感情を抱いているか、どれだけのエンゲージメントを体験できているか、人間関係はどれだけ良好か、人生にどれだけの意義があるか、どれだけのことを成し遂げてきたかで測られるものだと考えます。それらが、私にとってのポジティブ心理学の5つの要素です。

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M:過去1年あまり、このポッドキャストにおいて何人かの心理学者たちと、このパンデミックがいかに大規模な社会実験かという話をしました。このパンデミックによって、テレワーク、退屈、慣習に渡るまで、様々なテーマの研究が生まれています。ペンシルバニア大学ポジティブ心理学センターのサイトを見るとCOVID-19に関わる調査を行っていることに気づきましたが、この調査で何を明らかにしようとしていますか?


S:具体的にどの調査のことを指しているかわかりませんが、私たちは「Authentic Happiness」というサイトを運営していて、毎日約2,000人が訪れテストを受けています。これは、パンデミック下におけるウェルビーイングや強みの増加と減少、抑うつや不安の増加と減少についての調査を、自然発生的に行っていると言えるでしょう。最終的にこの結果を全てまとめて感染状況との相関についても調査します。これを行うことによって、どのような人が感染し、どのような人が早く回復するかの予測が可能になります。しかし、今の段階ではまだお話できるようなデータを得ていません。

M:そうですね。まだ私たちはパンデミックの最中にいますからね。

S:はい。しかしとても良いデータベースを獲得できています。

M:この調査はこれまでも行ってきたものですが、パンデミックを受けて新たな質問調査と分析を行うのですね。

S:はい。調査自体はずっと行ってきたものです。9/11以前から行っており、9/11後明らかになったことがあります。私たちは事件発生後の3か月間の人々の強みの変化を調べました。するとアメリカに居住する人たちの中で、希望、愛、信仰、許しなどの高まりが見られたのです。これは他の国に居住する人には確認できなかったことです。しかしそれらはその後3か月で通常の状態に戻っていました。ですからパンデミックにおいてはどうなるかわかりませんが、9/11のような出来事が希望や愛を高めることが明らかになりました。

M:しかしそれは長くは続かないのですね。では、少し話題を変えましょう。ポジティブ心理学は、過去数十年で学問分野として認められるようになりました。しかし批判も生まれています。私自身APAで働いていますが、幸せでポジティブな気分でいることを強制されているような気分は、ウェルビーイングに悪い影響があるのではないかという質問を受けます。これについてどう考えますか?

S誰かに何かを強制することはウェルビーイングにとって良くありません。ですから人にポジティブになることを強制することも毒になり得ます。よりポジティブになって、自分が思う最も悲観的な考えに反論するというということの結末を慎重に考えなければなりません。特に再雇用や回復、レジリエンスなどが求められるパンデミック下では容易なことではありません。楽観性を習得する必要のない、もともと陽気な人は本当に幸運です。私のように楽観的になることを学ばなければならない人にとっては、これは重荷であり困難で、危険です。これついては研究もあります。

ポジティブ心理学における信頼性のあるエクササイズに他者に対する親切行為があります。例えば、ある人が次の水曜日、人に親切にするというミッションを与えられたとします。するとその行為の後、抑うつ症状は改善し、人生への満足度は高まります。しかし、親切行為を毎日行うことを求められたとします。するとそれは逆効果になるのです。ですから、私たちは人の負担にならない方法を見出さなければなりません。これが私の見解です。しかし全体的には楽観性とPERMAを学ぶことの利点は、欠点を上まわると思います。ただこれは臨床的なスキルであり、適切な程度とタイミングで実施することが大切です。やり過ぎないことです。

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M:ポジティブ心理学に対するもう一つの批判は、ポジティブ心理学は人が幸せになることの責任を個人に押し付けすぎているというものです。人々が意義深い人生を送る能力を制限する人種差別や貧困といった社会的要因から注意を逸らすものだという指摘ですが、この批判は正当でしょうか?

S:ええ、これはとても大事な問いです。ただ、正当という言葉が正しいとは思いませんが、私はこう考えています。もしあなたが世界に興味を持っていてより良い世界を望むなら、個人の幸福度を高めることと、世界全体の幸せを築くことのバランスはどうなのでしょうか。この関係性は緊張状態にあります。この問題について、北欧の学生に対して講義を行ったばかりです。多くの学生達は政治家になって北欧の政府の基本的な部分を変えたいと述べていました。そして心理学者になって個々人に変化をもたらしたいと考える学生もいました。ところでアリストテレスは、最も高貴な職業として、教師と政治家を挙げています。

政治は誤った方向に向かっている機関を変えるものです。私はそれに賛成です。心理学は概して人の考え方や心を変えるものです。今では両方が可能になりました。それぞれの分野でその分野に長けた人が活躍しています。私は政治家ではありません。私は個人が幸福を見つけることを助けるのが得意です。政治は社会が幸福を見つけることを支援します。これら二つはよくマッチします。緊張関係ではありません。

私が今取り組んでいることを例に挙げましょう。私は、政府がGDPもしくは幸福度を測るべきかという問いに関心があります。経済学者の友人が説くように、良い政府が目指すべき目標はより多くの富でしょうか。それともより高い幸福度でしょうか。これは重要な政治的問いで、政治家たちも議論しています。これは、イギリス、ニュージーランド、そしてアラブ首長国連邦でも議論されている重要な問題です。

M:両方を研究すべきではないでしょうか。両者が手を取り合って。

S:そうです。政治家は「どちらを測るべきか」と考え、心理学者は「幸福度を測る良い尺度を開発しよう」と考えています。実際それは政治面を補完するものでもあるのです。ですから、個人の幸福を高める心理学と、社会をより良いものにする心理学の間に緊張感があるという考えは筋違いです。ところで、ポジティブ心理学が提唱している幸福感を生み出すエクササイズは他者を助けることであるというのは、重要なポイントです。

抑うつに一番効果のある簡単なエクササイズは、いますぐ外に出て誰かを見つけて手を差し伸べることです。これが最も効果的な方法です。ですから多くの場合、クリス・ピーターソン(ペンシルバニア大学のポジティブ心理学研究者)のテーマであり、ポジティブ心理学の核心である「other people matter (他者との関係が重要)」という考え方は、個人的な幸福の構築においても核心なのです。私たちは個人的な幸福と素晴らしい政府の両方を実現できますし、誤った方向に向かっている機関を正すこともできるのです。

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M:これまで長いあいだポジティブ心理学を研究してこられましたが、まだ研究できていないことはありますか?まだ答えを見つけられていない問いはありますか?

S:はい。大きな問いが残っています。私が今取り組んでいることです。手に負えないことを始めてしまいました。過去数年間私が書いていることをお話させてください。多分まだ数年間は続く研究です。私がライフワークとして取り組んでいるテーマは「エージェンシー(主体性)」で、これを構成するものは3つあると考えています。一つ目はバンデューラが提唱した自己効力感です。これは「私は目標を達成できる」という信念です。2つ目は楽観性と未来志向です。そして3つ目が想像力です。これは、良い目標がたくさんあり、未来に向かってたくさんのことを達成できるという信念です。

そこで私が掲げた問いは、「エージェンシーの歴史とはどのようなものか?」というものです。私の仮説は、社会、宗教、そしてその時代においてエージェンシーが特に高い場合、人々は効力感と楽観性と想像力を信じ、その時に進歩が生まれるというものです。ここでいう進歩とは、思考、科学技術、医療、芸術、文学、人の生活の質、人間の自由などにおける進歩です。では、このような進歩はいつ起こるのでしょう?私の仮説は、その時代の文化がエージェンシーを信じるものであった時に進歩が起こるというものです。文化や宗教がエージェンシーの欠如を信じると、停滞が起こるのです。ですから私は、狩猟の時代から西洋や中国の歴史を調べ、それぞれの文化のエージェンシーに対する信念や進歩を測ろうとしています。

例えば、最近ギリシャ・ローマ時代のエージェンシーに関する論文を発表しました。「イーリアス」を読むと、神が全てであり人間のエージェンシーは存在しません。オデッセイ(ホメロスの叙事詩)の頃になると人間がエージェンシーを持ち始めます。そしてギリシャ哲学の黄金期は、エージェンシーが高く、楽観性、効力感、想像力に富んでいます。それに対応するかのようにギリシャ・ローマ時代には莫大な進歩がありました。これは西暦80年頃まで続きます。ローマ帝国が分裂する頃、初期のキリスト教哲学者たちのエージェンシーは高かったのですが、アウグスティヌスが登場し「いや、全ては神の行いだ」と説いたのです。何か良い行いをしたとしても、良くないことを避けられたとしても、全ては神の恵みだと。そしてこれは私の見解ですが、アウグスティヌスのキリスト教に対する見解が、1,000年近くもの間カトリックの教義となり、中世の停滞を招いたのでしょう。

中国の研究仲間が、ギリシャ・ローマ時代の中国についても同様の分析をしており、同じようなことが起きていたことが明らかになりました。それを踏まえて今私が取り組んでいることであり、これはポジティブ心理学においても大きな問いなのですが、ポジティブになることが良いというのは、西洋特有の考え方なのでしょうか。それともこれは人類の歴史に見られるものなのでしょうか。私は歴史的なものであり、それこそがエージェンシーであると考えます。それが人類の進歩におけるエンジンなのです。

多くの分野で歴史の研究が行われています。最近の優れたものはジャレド・ダイアモンド(アメリカ合衆国の進化生物学者、生理学者、生物地理学者)のもので、彼は人類の進歩の核となるものは環境資源であると説いています。そして私は「いや、エージェンシーが人類の進化をもたらしたのだ」と言うために研究を続けています。ジャレド・ダイアモンド環境の分野で行ったことを心理学の分野でやりたいのです。しかし、彼の理論と私の理論の間には重要な違いがあります。もしあなたがダイアモンドの理論だけを信じているなら、子どもたちや未来のための介入はできないことになります。気候は変えられませんし、川の流れを変えることもできません。しかし、エージェンシーを信じる力なら変化させることができます。

M:それは驚くべきプロジェクトですね。それが明らかになることを楽しみにしています。セリグマン博士に敬意を表します。今日はありがとうございました。リスナーにたくさんの情報を提供してくださいました。みなさん生活の中に取り入れて実践するでしょう。

S:お招きいただきありがとうございました。

ワンネス財団HPhttps://oneness-g.com/

Speaking of Psychology: Positive psychology in a pandemic, with Martin Seligman, PhD Episode 125 — Positive psychology in a pandemic
https://www.apa.org/research/action/speaking-of-psychology/positive-psychology

(寄稿:泉谷道子 - 心理学博士)

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