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パチンコ・ギャンブル依存症は新型コロナとどう向き合うべきか-精神保健福祉士 三宅隆之

▼三宅隆之 自己紹介と今の取り組み
1974年長野県生。一般財団法人ワンネスグループ共同代表。自身がギャンブル・アルコール依存に苦しんだ経験から、依存症(依存している状態)など様々な生きづらさからの回復・成長支援に取り組んでいます。市民向けや学校向けのセミナーを全国各地で開催。大阪府・市ギャンブル等依存症対策研究会専門委員。ワンネスグループでは、国連に準ずる政府間組織コロンボ・プラン内部のICCEやIGCCBなどの国際機関と連携しながら先進的なケアを行っています。支援拠点は、北海道/横浜/茅ヶ崎/名古屋/奈良/大阪/沖縄など全国。自身の可能性を信じることができなかったかつての自分の姿から、「可能性を閉じ込めず、可能性を信じ、自由に発揮できる世の中」をつくるため活動しています。

コロナ自粛の背景で、深刻化するといわれる依存症

今、自分の生活に関する足元の不安を抱える人がたくさんいらっしゃると思います。

このような経済・社会に対する不安は、以前のリーマンショックと同じものを感じさせます。大きく異なるのは、「STAY HOME」として、家にいることを前提とした自粛が呼びかけられていることです。

先行きが見通せないという不安がありながらも、外出やスポーツ、人によってはギャンブルをすることでストレスを発散させていました。しかし、自粛を求められ、はけ口がなくなったとき、その不安感は一気に高まり、いともかんたんに消せるものを求めるようになります。

不安を拭うために一番手軽な手段として、家でかんたんに飲めるお酒、つまり「アルコール依存」に陥る人が増える傾向にあります。

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また、元々依存傾向にある人がアルコール依存になったり、家族へのDV被害なども拡大していくのではないかという懸念があげられます。


メディアの報道と依存症、2つの視点で考えるジレンマ

自粛をしていない店舗に対して非難の声があげられることも増えてきました。

例えば、自粛期間中に営業しているパチンコ店があるとメディアが報道・非難したとき、依存症(依存している状態)の可能性のある本人からすれば、「その報道のおかげで開店しているパチンコ店が見つけられた」と店へ出向く原因になってしまいます。

SNSなどでの呼びかけも同様で、行きたくてたまらない人にとっての新たな情報網になってしまいます。

感染拡大を少しでも防ぐためにメディアが起点となって自粛を呼びかけることは必要ではありますが、依存症という文脈でみれば、全くの逆効果になってしまうといえます。

また、パチンコ店に行けなくなっても、インターネットで購入できるギャンブルに手を出し、ギャンブル依存が続いている例も多くあります。

感染拡大防止対策と、依存症への対策は分けて考える必要があります。

新型コロナという外圧で浮き彫りになった依存対策の遅れを国や関連事業者が主体となって取り戻すとともに、まずは正しく「依存症(依存している状態)」がどのようなものであるのかを発信し、社会全体で認知する必要があると感じています。

パチンコ・ギャンブル依存とは何か

一般的にギャンブル依存は「脳」が引き起こすとされています。

元々人間の脳にはドーパミンとよばれる神経伝達物質があるのですが、ギャンブル依存の人たちはギャンブルができる場所(パチンコ店や競馬場など)に行ったり、場合によってはその場所の匂いを嗅いだりするだけでドーパミンが多く分泌されます。

ドーパミンが分泌されると、脳はそれを「良いこと」として捉えるようになり、一定の幸福感を私たちに植え付けます。

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多くの人がレジャーとしてギャンブルを楽しむことができるのに対し、ギャンブル依存の人はその幸福感、良いものであるという認識を生活の中で多くの時間欲しがるようになり、だんだんと依存していってしまうメカニズムが起こるのです。

2017年に厚生労働省が行った調査によれば、成人男女のうちおよそ320万人が依存状態にあった可能性があるとされていて、これは他国(オランダやフランス、スイスなど)と比較し、日本人はギャンブル依存症(依存している状態)にかかっている可能性が高いといえます。

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ギャンブル依存症疑い320万人 厚労省推計、諸外国と比べ高く

ウェルビーイングから考える依存症

一般の人たちが娯楽や気分転換にできるギャンブル。なぜ依存症(依存している状態)の人たちはそれ以上に求めてしまうのでしょうか。

私たちは「ウェルビーイングが低いこと」が1つの答えだと考えています。

※ウェルビーイング(世界保健機関憲章前文)
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。

例えば依存症(依存している状態)に悩む人の多くが、幼少期からの虐待やDVを経験し、あるいは機能不全の家庭の中で育つなどするなかで、自己肯定感も低く、他者との深い繋がりを作っていくことを苦手とします。

ウェルビーイングが低く、自己肯定感や幸福感を日常生活の中で得る機会が少ない状態です。そんな中たまたま出会った「ギャンブルで当たりを経験する」という一時的な快楽。

ウェルビーイングが「持続的幸福」とも称されるのに対し、こうした「快楽」は一時的で、高い幸福感はその直後から大幅に減少していくとされています。急激に減少する幸福感を補うために次から次へとギャンブルをしていく。

これが依存行動になっていくわけです。

ギャンブル依存は脳が引き起こすものであると同時に、その回復や予防には「ウェルビーイング」に対するアプローチが欠かせないと言えるでしょう。

パチンコ・ギャンブル依存症は新型コロナとどう向き合うべきか

冒頭で、メディアの報道や世論による抑圧はギャンブル依存の人からすれば情報網となってしまうジレンマについて述べました。

同時に、これまで表立って議論されてこなかった依存症(依存している状態)に対して適切なアプローチをとれるようになるのではないか、とも考えています。

パチンコ・ギャンブル事業者自身による依存症対策

新型コロナの感染拡大防止とパチンコ・ギャンブル依存の対策はわけて考える必要があります。

どうしても今の状態、今の状況の中で行動を自制したとしても、依存の傾向がある人はそちらへ行ってしまう傾向があるため、「新型コロナウイルスの防止」という観点から、パチンコ・ギャンブル業界は結束し対応していくべきといえるでしょう。

また、依存症対策をすることが自分たちの顧客を減らしてしまうのではないかという懸念から、依存症対策を講じることにパチンコ・ギャンブル業界全体がアレルギーを持っている(傾向がある)ことも事実です。

業界が健全に持続していくためにも、依存症(依存している状態)という問題から目をそむけるのではなく、正しい知識と理解をもって対策をしていくことが必要です。

依存症教育の徹底

依存症教育というのは、ギャンブルをプレーする側も事前にギャンブルについての様々な情報を学んだり、問題を抱えた場合の相談先などの情報を知っておくなど自己を守るための手段を身につけることです。

ギャンブルの制限年齢以前(特に高校生)の教育も必要です。

従来の「見せない、触れさせない」というスタンスではなく、もし将来的にギャンブルに接した場合に自分自身の考え方をしっかり持つことが重要だからです。

アメリカやカナダでは現に高校で啓発教育を行っているところもあります。

依存症対策を国や事業者任せにするだけではなく、自分自身も責任あるギャンブルが出来るように学ぶことが必要です。


自身の幸福度を高める「依存症」に関する支援

依存症(依存している状態)に悩む人の多くは、幼い頃の暴力やDVから、自己肯定感が極めて低い傾向にあることは、先程の章でも説明した通りです。

ワンネスグループでは治療共同体(TC)と呼ぶ入所型施設を運営していますが、その共同生活の中でその人自身の物事や見方の捉え方を変えていくことを通して、自身の人生、命にオーナーシップをもって持続的な幸福度を得ていくことを、まず第一の目的として考え、主軸としています。

依存対象を取り上げたり、隔離をして切り離すという方法とは違い、依存対象に出会う前の自分(幸福度が低く、生きづらさを抱えている状態)から、たまたま出会ったギャンブルなど、自分の幸福度をちょっとあげてくれる依存対象(一種のまやかし)をどのように捉え、生き方として体感していくのかをICCEやIGCCBなどのプログラムを通して見つけ出します。

ICCE:国際アディクション専門職認定教育センター
先進国による最新の依存症に関する研究やプログラムを、世界で同じように共有することを目指す国際組織。

IGCCB:国際問題ギャンブルカウンセラー認定委員会
ギャンブル依存症に特化したカウンセリング技術を開発。カウンセラーを育成し、公衆衛生に寄与する。

これらのプログラムは、元々は欧米やアジア諸国において既にエビデンスを有しているもので、実際に我々が研修を受けるなどして団体の空気感ごと、ワンネスグループとして施設に落とし込んだものです。

この2つのプログラムを取り入れながら、依存症(依存している状態)に苦しむ人たちの人生の背景にはなにがあったのかを共に考え、ケアに取り組んでいます。

ポジティブ心理学に基づいた支援

持続的な幸福感を得ていくためのポジティブ心理学に基づいたプログラム提供も行っています。

自身の生き方に無力感を覚えるのではなく、幸せに生きていくための方向付けは自分ですることができるということを実践を通して身につけていくなかで、かつて自分や他人を傷つけるに至ったギャンブル等への囚われから解放されていく、という考え方です。

またその他にもオンラインによるプログラムの提供、入所施設へのプログラム提供や相談支援、市民向けのセミナーなどを行っています。

家族や身近な人達が依存症かなと思ったら

私自身の経験からもいえるのですが、依存症(依存している状態)に悩む人は自分で全ての責任を追いきれません。そのため、周りの人たち、(とくに身近な人たち)が巻き込まれてしまうこともあります。

では今、実際に身近な人に依存症(の傾向)が見られる場合はどのように対応していけばいいのでしょうか。

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周りの人が不安になったり、感情的になってしまうことにはあまり意味がありません。相手を怒って抑圧したり、強制的になにかを指示するのも効果がないでしょう。

私たちの推奨する声のかけ方としては、Iメッセージ(私はこう思うという自分主体の考え方)を使うことです。

「ギャンブルに行くことによってあなた自身の健康が脅かされてしまうことに対して、家族として不安に思う」

というように、私はこう感じているというメッセージを相手に伝えていくことで、相手のこころのシャッターを徐々にあげていき、行動変容の可能性を高くします。

それでも行動がすぐに変わらないこともあるでしょうし、長い目で見ていくことは必要になりますが、依存症が疑われる本人よりも先に、同居している家族が不安感をもつのは当たり前で当然のことです。

もちろん、不安感に押し流されてしまうとうまくいきません。

柔軟に対応したり、少しでも不安を減らすためにも、関わり方を変えていく方法を知ることや、心理的な支えを第三者から得ていくことが重要になります。

専門的な機関行政地域の精神保健福祉センターの窓口などを利用したり、オンラインの相談会などに参加してみるのも良いでしょう。

ワンネスグループでも、オンライン相談会や家族会(依存症当事者の家族での会・関わり方に関するアイディアなどを出し合ったり意見を聞いたりする)などを行っています。

オンラインでもオフラインでも、依存症(依存している状態)に悩む人の家族が相談できる場所をもつことや他者との関わりをひとつ、ふたつと増やしていくことを推奨しています。

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