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その後の下北沢、ボブマーリー、街の上で、

12/1 21:36
ユーザー宛にメッセージを送信しました
「このたびはご購入ありがとうございました。ご登録いただいた住所に発送しましたが、宛先不明とのことで返送されてきてしまいました。恐れ入りますが、購入者情報の送り先をご確認いただけますでしょうか」

12/1 23:54
ユーザーからメッセージが届いています
「宛先の不備、大変失礼しました。正しくは以下の通りです」

12/2 0:15
ユーザー宛にメッセージを送信しました
「ご連絡ありがとうございました。お知らせいただいた住所に再送します。
ところでマツオくん!このたびはどうもありがとう。購入者リストに名前を見つけてとても嬉しかったです。本当は普通に発送されたものを読んでもらって驚かせたかったんだけど、宛先不明で返送されてきたのは誤算でした。先に謝っておきますが、エッセイの中にあなたを勝手に登場させています。許可なくノーギャラで起用してしまったので今回の再送分の送料は私が負担します」

かねてから「いつか自分の書いたものをまとめた紙の本を作ってみたい」と思っていた私は、先日一冊のZINEを自費出版した。これまで実生活での知り合いには文章を書いていることを積極的に公表してこなかったが、今回はじめてInstagramやFacebookでも宣伝も兼ねてそのことを報告していた。
マツオくん(仮名)は数年前にInstagramでアカウントを見つけ、フォローし合っている古い知り合いだった。投稿を見て通販サイトから購入してくれたのだろう。リストに懐かしい名前を見つけてドキッとした。実は今回作ったZINEの中で彼のことも書いていたからだ。

12/2 22:52
ユーザーからメッセージが届いています
「送料の件、申し訳ありません。
ところですみません、僕はアイさんと面識があるってことですか?以前Instagramをフォローしてもらい、見ると共通の知り合いがいたことと、投稿の写真や文章がなんかいいなと思いフォローしましたが、面識のある人だとは思っていませんでした。だからこの本も、純粋に本になったものを読んでみたいと思い注文していました。びっくり。読んだら誰だか思い出すかな」

12/2 23:30 
ユーザー宛にメッセージを送信しました
「そうでしたか。私のアカウントは結婚して苗字も変わっているし自撮りをあげたりすることもないから、私を誰だか認識せずにフォローしてくれている可能性もありえると思っていました。だとしたら本を購入してくれたこと、あらためてありがとうございます。そして、知らない人だと思っていた人間から突然あなたのことも書きましたと言われ、二重に驚かせてしまいましたね。
私はほんの短い間でしたが、マツオくんと同じ会社にいたことがある者です。共通の知り合いはその時の先輩ですね。本の中に書いたのは本当に些細なエピソードなので、もしかしたら読んでもあなたは思い出せないかもしれない。でも私は再開発ですっかり様変わりした下北沢を歩くたびに、若い頃の色々な思い出と一緒にマツオくんのことを思い出すんだよね。だからそんなことを書きました。もうすぐ届くと思います。」

12/7 23:13
ユーザーからメッセージが届いています
「おーい届いたよ!思い出したよ、◯◯(旧姓)ちゃん!ベリーショートだったよね!
普段本を滅多に読まないんだけど一気に読んでしまった。印象に残った話とか、気に入った写真とか、あの時の心境とか…そういうのを語るのは野暮っしょ!
挿入される写真も含め、全体的にモノとしてのバランスもすごく良いと思った。インスタ、◯◯ちゃんだと知らずにフォローバックしただけあるな。下北沢の青年のその後も気になるし、続編に期待!」

12/8 06:33
ユーザー宛にメッセージを送信しました
「おー今度こそ無事お届け出来て良かった!
読んでくれてありがとう。書いたのが私だとわからず、本文に自分が登場していることももちろん知らなかったマツオ君の元に、この本が届いたことがとても嬉しいです。長く生きてるとこんなこともあるのね。どうもありがとう。」

ところで今どんな仕事してるの?結婚してるの?
え、会おうよ今度。
なんとなく彼とはそんな話をする必要はない気がして、おそらくそれは向こうもそうなんじゃないかと思った。観覧車のこちらと向こうでゆっくり廻りながら、角度によって時々お互いの姿が見えたらまた窓から手を振りあえるような、ずっとそういう感じがいい。

映画『街の上で』にその後の番外編があったとしたら、今泉監督ならどんなエンディングにするだろう。


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