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キッチン

お買い得だった南瓜を買った。煮物も良いけれど冷たいポタージュも美味しい季節だと思い、久しぶりに台所の上の棚からミキサーを出した。自家製の野菜ジュースを作ろうと張り切って買ったものの殆ど使っていないと言う義母から、半ば押し付けられる形でうちにやって来たミキサー。そして私も当初自家製のスムージーを作ろうと意気込んでいたが、たちまち飽きて今に至る。

ミキサーを使う時、いつも昔観た映画『キッチン』を思い出す。両親に続いて同居していた祖母も亡くなり天涯孤独になった主人公みかげが、男友達の申し出で彼の実家に身を寄せることになるところから物語が始まる。彼もまた母を亡くしており、母を兼業すると決めた女装の父(橋爪功が凄く良かった)が買ってきたミキサーで、夜中に3人がジュースを作る台所のシーンがある。森田芳光監督の1989年公開の映画、原作は吉本ばななさん。

ミキサーのシーンそのものはその後の物語に於いてさほど重要ではなかったと思う。けれども深夜のキッチンで、この風変わりな3人家族が身を寄せ合ってオレンジジュースが出来ていく様を見つめるシーンがとても美しくて、今もその場面だけが忘れられない。

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私が台所や料理に関連する映画や小説が好きなのは、間違いなくこの作品がきっかけだと思う。

深夜食堂、南極料理人、あん、青いパパイヤの香り、かもめ食堂、リストランテの夜、シェフ三つ星フードトラック始めました、ショコラ、食堂かたつむり、ライオンのおやつ、つむじ風食堂の夜、孤独のグルメ…。物語の中や外出先の飲食店の厨房にワクワクする。

美味しいものは人を上機嫌にする。満腹は人から闘争心を奪う。食欲は生命力。冷蔵庫と電子レンジの明かりは寂しい夜のコンビニに似ている。

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娘と包んで焼く餃子、縁日の焼きそば、土曜の昼に父が作ってくれた袋ラーメン、回らない寿司、海の家のカレー、母の陽気な料理、義実家の繊細な味、私が作った南瓜煮のポタージュ。家族で食べる夕飯、同僚と食べる昼食、恋人と食べるイタリアン、夜更けに1人で食べるラーメン。

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今日と明日何を作るか、誰と何を食べるか。

何をどんな風に食べてきたかはその人がどう生きてきたか。どう食べたいかはどう生きたいか。と同義な気がする。

だからこの食い意地は私の今日と明日の生きる意欲。



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