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日曜19時のイングリッシュマフィン

恋が終わると部屋の掃除をしたくなる。もらったものや思い出すものをゴミ袋に入れていく中で見つけたのは、付き合う前にもらったお守りだった。

これは神社に返そう、と夕方に思い立って地下鉄に乗り、着いたら雨。
お守りを返す場所も閉まっていて、参拝だけをすませて神社を出る。

小雨の中、寒さも相まって、朝も昼もちゃんと食べていなかったことを思い出す。しかも焦っていつもと違う道をとおったせいで、現在地がイマイチ分からない。どうしようもなくお腹が空いてきて、おまけに喉も渇いてきたときに見つけたのが、某チェーンのカフェだった。

「ホットのソイラテのショートと、イングリッシュマフィンで」

期間限定メニューに惹かれつつも、大抵同じものを頼んでしまう。ドリンクはホットのソイラテ、食事系はイングリッシュマフィンかホットドック、甘いものが食べたいときはチョコのスコーン。どの店でも、同じもの、同じ味を食べられることにホッとする。

冷えた身体に、ソイラテの優しい甘みが沁み渡る。軽くトーストされたマフィンの香ばしい薫り。パンから覗く、溶けたチーズとトロトロ卵に絡むパティ。

あぁ、美味しい。
固まっていた身体が、少しずつゆるんでいくのが分かる。

夢中になって食べている間に、どんどん雨が強くなってきた。日曜の19時。

こんなとき、迎えにきてくれる人がいたら良かった、とふと思う。

濡れたって走って帰ればいいし、Googleマップで調べれば道もわかる。
帰ってすぐに暖かいシャワーを浴びることもできる。

だけど。
どうしようもなく、こういうときに「一人だ」と感じる。


ふいに襲われた寂しさを振り払うように、ソイラテとイングリッシュマフィンで温まった指先で帰り道を調べる。
すぐ近くにバス停がある。5分後出発。
バスに乗れば駅まで行ける。

あと5分。

走って店を出た。

走っていて思い出した。
この間別れた相手は、こういうときに来てくれる人だっただろうか。
休みも合わなかったし、仕事だからと来ることは難しかっただろう。
後から笑い話にできただろうか。
私は、彼に来てほしいと思っただろうか。

一人での孤独より、
二人でいるのに寂しい方が辛い。
だから別れを選んだのではなかったか。

一人で良かった。
今、一人で良かった。
この孤独は、私だけのものだ。

走っているうちに、いつのまにかバスを追い越して、地下鉄の駅への入り口がみえた。
走って5分の距離。
なんだ、こんなにすぐ近くだったんだ。
濡れた前髪を手で分けながら、改札を通りぬけた。

地下鉄を降りたら、雨は上がっているだろうか。

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