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真夜中、僕は五次元を降りていた

2020年10月9日に下書きを残していたのを発見し、未だに続いていたので投下する日記。

おかしな時計があるよ、というだけの話。

あるいはセンスオブワンダーの話。


唐突ですが、僕の家の間取りについて少し説明させてください。

僕の住まう家は家族四人の一軒家なのですが、家の中央部分が細長くぶち抜かれていて、そこに階段が横たわっているような構造をしています。

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こんなかんじ。

そして、その一階と二階を繋ぐ階段と反対の壁に時計が掛けてあるんです。階段を四、五段上がって振り返ったら、ちょうど顔と同じ高さにあるくらい。

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こんな感じ。

以前ここに掛かっていたのはなんだかお値打ちありそうな振り子時計だったのですが(両親の結婚祝いに従兄弟からもらったものだったらしい)、二十年以上ものあいだ左右に振られ続けた結果、数年前ついに大往生を迎えました。

なのでこいつは比較的新しいはずなのですが、なんだか挙動がおかしいのです。

正しく言えば、挙動がおかしくなる時があるのです。

それは夜中。

家族が皆寝静まり、僕が一人で作業をしているような。

ふと喉が渇いたり、ひと段落してシャワーでも浴びようと階段を降りた時。

ふいに、秒針が狂うのです。

物凄く早くなったり、逆に何度もその場で止まったり。

昼間には全くと言っていいほど見ないのに、夜中僕が階段を降りる時にはかなりの確率で狂うのです。

「あの壁掛け時計って、時々秒針がおかしくならない?」

 などという風に家族にそのことを聞いてみると、

「電波時計だから、秒針の調整をするために受信した電波で止まったり早くなるんじゃない? 朝方に一回止まってるの見たことあるよ」

との返答がありました。

「でも、夜中の適当な時間に降りるたび早くなったり止まったりするんだけど。それはなんで? 適当な時間に電波受信して秒針がくるくる回ったりするの?」

「それはわからない。お前の身体から電波でも出てるんじゃないの」

「はぁ」

そんな他愛もない会話で終わりました。

人の身体から電波が出ているのはそうなのですが、互いにそんなことが言いたいわけではありません。

要するに、僕以外の人間は時計が狂っている様をほとんど見たことがなく、そもそもそんな高頻度でおかしくなっているなど知りもしなかったのです。

それはまるで、僕が階段を降りているその瞬間だけ、家の中の時間の流れがおかしくなっているかのようでした。

家族は一時間に一回とか、一日に一回電波を受信してるのでは、と言っていましたが、僕が階段を降りるのは本当に適当な時間で、二時ちょっと過ぎとか、四時前だとか、そんな感じです。

『時計が電波を受信する時間はまちまちで、ちょうどその電波を受信するタイミングで僕が毎度階段を降りている可能性』もないわけではありませんが、まぁないでしょう。僕の身体が時計を狂わせる電波を放っている、と言われた方がまだ納得できます。(それはそれでよくわからんですが)

僕はこの不可思議な現象に、少しだけ心が踊りました。

第三者視点からこの日記に目を通している身からしてみれば、なんでもないようなことでしょうが、自分の身に起きていることだと思って考えてみてください。


真夜中。

人の息遣いはせず、開け放った窓から虫のさざめきや排気口の通空音、風鳴りなどで満ちた環境音に包まれながらPCと睨めっこしていたあなたは手元のコップに手を伸ばしますが、中身を飲み干していることを思い出しました。

小さなため息を吐きながら席を立ち、なんの代わり映えもしない家の階段を降りながら、意図して無視していた時間を壁にかけられた時計で再意識したその時、あなたは気づくのです。

壁掛け時計の秒針が、明らかに異常な速度で動いていることに――――。


こんな風に書くとまるでTRPGの出だしみたいですが、当たらずとも遠からず、僕はこの不可思議な現象に出会った時、まるで自分が物語に入り込んだような高揚感を覚えたのです。

なんだかある種の自己愛性パーソナリティ障害のようにも思えてきますが、別に中二病でも自尊心が過度にあるわけでもありません。

「ああ、こういうものが物語の出発点になったりするんだろうな」という気づきを得られたというだけです。

最初に言ったセンスオブワンダーの話だったりもします。

なおセンスオブワンダーとはなんぞや、という方のために簡単に説明すると、

『センス・オブ・ワンダー(英語: sense of wonder)とは、一定の対象(SF作品、自然等)に触れることで受ける、ある種の不思議な感動、または不思議な心理的感覚を表現する概念であり、それを言い表すための言葉である。』

――――以上、Wikipediaより。

要することも何もなく文字通り、ワンダー(不可思議)に対するセンスです。

センスと言うと高尚な眉唾ものに思えますが、才能でもなんでもなく『ある出来事や物事に対してあなたがどう感じたか』ということです。

それこそこの日記で僕が書いた、ただ調子のおかしいだけの時計に物語の始まりを感じたような。

無論、多くの人が見て面白いと思える感想を出せる人が『才能/センスがある』と言えるのでしょう。

こまめに日記を書く人(より僕の言い表したいように言えば人に読まれる日記を書く人)は、そのセンスオブワンダーが鋭いのかもしれません。

なんでもないことをとんでもないことのように感じる、もしくは想像できる能力。

創作には必要だったりするのかもな、と思いました。

ただ僕は日記を書くことに慣れていないので毎日こんな日記を書こうとすれば日記の方に労力が割かれて肝心の作業が出来なさそうなのでやりません。

あるいは逆で、無理やり日記を書き続けることによって日常に対するセンスオブワンダーが養われていくのかもしれませんが(というか多分そう)。

けどやっぱりめんどくさいのでこんな気づきを得られるようになって、自分なりに言葉にしてまとめられるようになったことを一つの成長として受け止めるまでに留めておこうと思います。

また何かあったら書こうとは思ってます。

遠雷、蝉の鳴き声、湿気、などなどこれまでと変わらないものに渦巻かれながら、祭典、病渦、責任など、これまでになかったものに取り巻かれつつ強く生きていきましょう。

それではまたいつか、お会いできたなら。

2021/08/09 作業用BGMー【FGO】Phantom Joke - UNISON SQUARE GARDEN/Covered by 獅子神レオナー

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