見出し画像

無意識の解放(短編小説26)

ーおれは占いとか、信じないー

街角で誕生日占いのセッションとやらを受けながら、直志は心の中で思っていた。でも、彼女がどうしてもそのセッションを受けたい、そして、自分らのカップルの相性を見たいと言うものだから、仕方なく隣に座って、ついでに占われていたのだった。

占い師によると、おれと彼女の相性はそんなに悪くないらしい。でも、相性なんて、いくらでも自分たち次第で築いていけるものだから、別れるカップルに足らないのは相性ではなくて、お互いをただ、みる。なんの先入観も持たずに、みる。そんなことのような気がしていた。

「直志さんは、とても怖がりなところがあるようです」

占い師はいった。

ーえ?おれが怖がり?やっぱり占いなんて、当たらないじゃん。ー

占い師は続ける。

「怖がりな人は、外側にあるものを無意識に本当だ、と思い込むところがあります。例えば、占いもそう。正しく使えばとても役立つものなのに、占いを、本当に当たるのか、当たらないのか、という目線でしか見れなかったり、そのくせ、心のどこかで“本当のこと“としてるから、逆に“信じられない“と言う逃げ道を自分に作らないといけなくなります。」

ーえ?おれ、占いを信じないこと、この人にいったっけ?ー

「占いが本当に当たるのかどうか、そんなことはどうでもいいことです。それよりも占いを通して、あなた自身がどう思うのか?のきっかけを受け取ること。それは占いであろうがテレビやネットの情報であろうが、みんな同じ。あなたは、最終決定権は自分にあることの責任を負えない、怖がりな人の気質があります」

直志は、ポカン、としたまま話を聞き続ける。

「安心してください。今のも、一つの例えでお話ししましたが、この話すらも、本当かどうか、ではなくて、あなたにとってどう有益な情報にするのかは、あなたが決められることです。占いセッションなんて当たらなかった、と言うことを受け取りたいのなら、あなたがあなたの決断を、占いに委ねてしまっているのです。それはつまり、皮肉にも、占いが当たる、と言うことを無意識に信じ、恐れていることになるのです」

「大切なのは、本当かどうか、ではないのです。外側の情報に対して、あなた自身が選択できる自由があると言うことを、あなたはあなたに許していいのですよ、そうすれば、おれは怖がりなんかじゃない、と抵抗を思う必要もないくらい、怖がりでも怖がりじゃなくてもどっちでもよくなるのです」

ーおれは、何を言われているんだろう?ー

直志はよくわからないけれど、なんとなくわかっていた。

ーそうだ、おれは占いを信じないと言いながら、占いにどこか力を持たせてしまっている。だから、“信じない“という反発心が沸いてしまっているのだー

「ありがとうございました」

直志はそういって、席を立つ。彼女にも礼を言う。

家に帰る頃には、直志は占いという外側の情報を“本当に当たるのかどうか“と言う視点ではなく、“どう有益に使えるか“と言う目線で見つめていた。

おしまい


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?