ほわほわなKiss
俺は、ある女のぬいぐるみだ。
たまたま、女が寄り道したゲーセンのUFOキャッチャーでとられてから、ずっと布団の片隅に居座っている。
時折、俺を日の当たる場所に置いてくれることもある。
俺の女は、子どもじゃない。大人の女だ。
ひとり狭いアパートで、今日も、黙々と働いているんだろう。
帰ってきたら、いつも「疲れた」と、独り言。
実際に彼氏もいねぇみたいだ。
たまに、女は俺に香りの水をかける。
「アロマ」ってやつか・・・。
その日によって、石けん、薔薇、レモン、いろんな香りを俺に身に纏わせる。
それから、女は、眠る前にそっと、俺にキスをする。
チュッと。ほわほわなキッス。眠る前に歯を磨いた女とのキスは、ミント味。
今夜も俺は、女を抱いて眠る。
女の夢の中で、俺は、ミントのようにクールにしながらも、石けんのように甘く、薔薇のように大胆に、さらに、レモンみたいに爽やかに、女を抱いてキスをする。
女の唇が本物の男に奪われた時は、俺は、捨てられるだろう。
でも、その時までは、俺の女。
今夜はどんな香りを俺につけるのだろう。
言葉も話せない。動くことができない。そんな俺でも、唯一に女に贈れるプレゼント。
それがキス。
(続編):
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