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空を飛んだ日

私の会社では、階級ごとに社内研修が毎年開催されている。そこで2年目から5年目の研修で夢を語ることがあったらしい。その時、S君はスカイダイビングをしたいと言っていたらしい。

なぜらしいと言っているのかというと、私とS君は社内での階級が違うので同じ研修を受けていないからだ。

S君は、社内では少し不思議なキャラで通っている。
私はそれを、あえてそうしているのだとも思っている。

そんなS君が真面目に社内研修で仕事でこういうことをしたいとかいうわけもなく、何を狙ったのかスカイダイビングをするのが夢だと言った。

その研修から、1か月後にS君と映画のエキストラに参加した時に、その夢の話を聞いた。すぐに私はS君に「スカイダイビングに行きましょう」と言ったことを覚えている。
調べると関東や北海道、三重などでできることが分かった。
金額もそれなりにするが、それは社会人なので問題ではない。
あとは日程だけだったが、エキストラスタッフの「集まって下さい」という声にさえぎられ話が途中になってしまった。

よくあるその場の流れ(空気)で口約束した旅行が、本当に行きたいのかよくわからないという状況になってしまった。
こうなるとなかなか話は進まないし、もう一度計画を立てるのも億劫になってくる。

エキストラから一年後、S君を含めた4人でご飯を食べているときに、去年のエキストラの話になり「スカイダイビングの夢はまだ持っているの?」と聞いた。
S君は「もちろん、やりたい!」と即答した。今だ思い「それなら行きましょう」と私も即答した。

去年と同じサイトを見直し、金額と日程が合いそうな場所を調べた。
他の2人も参加してくれそうだったので、4人で日程と晴天率が高そうな日を見て9月中旬に行くことが決定した。すぐに予約をして、スマホのスケジュールにスカイダイビングと打ち込んだ。

予約した日が近づいてきた。
2週間の天気予報を毎日チェックし、雨だとテンションが下がり、晴に予報が変わるとテンションが上がっていた。

当日は、晴れ時々曇ということで前日に中止の連絡もなかったので朝早く出発した。
S君は、前日東京にいたので現地集合だ。

スカイダイビングは危険を伴うアクティビティなので同意書と緊急連絡先が必要になる。
そこで、向かっている途中で緊急連絡先は誰にしたとかスカイダイビングをするのを誰かに言ってきたかとか聞いてみると、前日かさっき家を出るときに言ってきたとかだった。
急に言われた家族は、驚いたみたい。
それは驚くだろう。

そんな無駄話をしていると集合場所の最寄り駅に着き、S君と合流した。
S君は、一番楽しみにしていたはずなのに怖いと車に乗り込んですぐに言った。

ダイビングポイントに着くと、前の組が降りてくるところだった。
降りてきた人たちは、安心したような楽しかったような表情をしていた。

インストラクターの講習を受け、ジャンピングスーツを着ていよいよ出発の時間がきた。

見上げると天気は最高で、青い夏空が広がっていた。

セスナ機に乗り込み、飛び立った。

ぐんぐんとセスナが上昇し、さっきまでいたポイントが小さくなっていく。
それと比例して恐怖心が大きくなっていく。
インストラクターは標高が分かる時計をしているので、その時計を見ると8000と表示されている。
降下するのは4000mくらいと聞いていたので、?で頭がいっぱいになった。
後から聞いたら、表示はフィートだった。
それはそうだ、そのくらい頭が働いていなかった。

飛び降りる順番は私が一番だった。
ついにセスナの後方についているシャッターが開き、飛び立つ時を待った。
しかし、なかなか飛び出さない。
真下が見えるその状況に、完全にビビっていた私は早く飛んで終らせたかったので、体を外に向けると「まだだ」とインストラクターに制止された。そのくだりを、三回くらいやった。まだなのかと思ったときに、「行くぞ」と言われ投げ出された。

投げ出された直後は、30分くらい前に習った滑降姿勢をとるのに必死だった。
少し経つと余裕がでてきて、周りを見ると、雲よりも高い場所を飛んでいる。
関東平野の地平線が見える。
落ちていく恐怖はもう消えていた。

もう少しすると、パラシュートが開きスピードが落ちた。
あっという間だった。

飛んでいる最中は、楽しかったけれど飛ぶまでの恐怖は大きかった。
もう一回やりたいかと言われると考えてしまう。

帰りは、スカイダイビングをやったという高揚感に浸りながら感じたことを話していた。

スカイダイビングを夢と言っていいかというといろんな意見があるけれど、やりたいことやってみたいことは全て夢でいいと思う。
そのほうがどんな小さいことでも達成感は大きくなる。
S君の夢が叶ったので次は誰の夢を叶えにいこうか。


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