見出し画像

ショートショート「怖いハナシ」/おせっかいな寓話

【記者コラム】暑気払い!?大人気の「怪談マッサージ店」に潜入    週刊雑話 2013年7月〇〇日号 

連日の真夏日に疲れ切った諸兄に、身も心もスズシーくなるようなサービスをご紹介しよう。市内のとあるビルで営業するマッサージ店。けっしてイカガワシい店ではないのだが、どことなーく人目をはばかるような佇まい。その理由は『一風変わったサービス』にあるのだ。

仮にこの店の名前を『Aマッサージ店』としよう。客が増えすぎでも困る、という店主のたっての願いでの匿名である。『Aマッサージ店』の特別サービスとはなんと、「怪談」。マッサージ中に寝るのが嫌だという客の要望に応えて店主が応対をしているうちに「そういえばこんなことがありました」と語りだした怪談が大ヒット。あれよあれよという間に口コミが広がり、「裏サービスの店」として急成長を遂げたのだった。

今回は記者が無理をお願いして、なんとか取材のための時間を都合していただいた。さて話題の「怪談マッサージ」とは・・・?

☆☆☆

店主は40代前半。自宅でもある、店の施術ルームは6畳ほどの広さだ。キャンプが趣味とのことで、部屋の隅には大型のクーラーボックスが3つほどが置かれている。促されるままに部屋の中央のベッドにうつぶせになったとたんに、肩に何やら憑いていそうですね、と先制パンチ。

「じゃ、最初なんで40分コースで」との言葉でマッサージがスタート。施術自体はごくごく一般的なものだが、訥々とした語り口調が記者を次第に幽玄の世界へと誘うのだった。

「わたし、10年前まで東京にいましてね。やっぱりマチが大きいとそれだけそこに住む人がしょい込むモノも大きくなっていくもんなんです。どんどんどんどんしょっちゃってね。それが体に悪さする。・・・押す強さ、いかがですか?あ、じゃあこんな感じで続けますね。

えーと、なんでしたっけ。そうそう、モノがね、見えちゃうもんですから。お客さん?お客さんにはね、2人憑いてますよ。甲冑を着た武士みたいな人と、優しい顔したおばあちゃん。いえ、おばあちゃんの方がね、守ってくれてますから心配することはない。

ただね、中には酷いのもいるんですよ。ついこないだです。私、一度店を閉めた後、忘れ物をして戻ってきたんです。扉の前まできたらね、電気もつけてないのに中に何かがいるのがわかったんですよ。

『誰だッ!』

って言って中に入ったら顔も何もない、真っ黒な奴が私につかみかかってきましてね。もう、揉み合いですよ。え?マッサージ師なんだから揉み合いなら負けないでしょうって?お客さん、上手いことを言うね。

わたしも必死なもんだから黒いヤツの首をグッとつかんでね、押さえつけたわけですよ。ちょうどお客さんのいるこのベッドにね。無我夢中でグーっとやってたら、ヤツめ、そのうちにぐったりして動かなくなりましてね。そのままスーッと消えていったんですよ。

あれはいったい何だったのかなーなんて思ってたらこの近くでね、飛び降り自殺をした会社員がいたらしいです。あー、っと思いましたね。その霊が浮かばれずにね、『視える人』のところで悪さしてやろうと、そういうことだったんじゃないかとね。私は図らずも、そういう霊を成仏させてやったんじゃないかとね。

ハイ、じゃあ仰向けになってもらいますね。・・・あれ、お客さん、あのときの黒いヤツに背格好が似てますね。こう首の感じとか・・・いや、こりゃ悪い冗談でしたね。失敬失敬。その後もね、なんだか気まぐれにその黒いヤツが出ることがあるんですよ。私もだいたいコツがわかってきたもんですからね、なんとか事なきを得ているんですがね。いつか『揉み合い』に負ける日が来るんじゃないかと内心ヒヤヒヤしてますよ、ええ。ハイ、仕上げです」

絶妙な間合いでくり出されるコワーい話に、冷や汗をかきながらのマッサージ。気になる方は、うらぶれたビルでひっそり営む『Aマッサージ店』を探してみてはいかがだろうか?


「自宅から8人の遺体 自称マッサージ師を逮捕」2016年8月〇〇日 西海新聞 社会面

今月〇日、県警は〇〇町△丁目の自称マッサージ師の男(49)を死体損壊・遺棄の疑いで逮捕した。今月初旬に周辺の住民が「男の部屋から異臭がする」と通報。警察官が男の自宅を訪ねたところ、挙動が不審だったため任意で家宅捜索を実施して、遺体を隠匿したクーラーボックスを発見。男は、自宅兼マッサージ店に年齢不詳の男女計8人の遺体を数年にわたって隠匿していたと見られる。調べに対し男は「悪さをする霊を祓っていた」などと供述しているという。警察は8人の死因についても男が事情を知っているとみて、殺人の疑いも視野に調べを進める。


<終>



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?