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元彼と1年振りに会った時の話

インスタストーリーからの連絡があって、ご飯でも行こうという話になった。
気張らずに話したかったので、彼のオススメのラーメン屋さんへ連れて行ってもらった。

17:30の待ち合わせ。
私が少し遅れてしまって、先に並んでもらった。

店先に、3人の男性。彼を見分ける瞬発力は衰えたみたいだ。目が合って確信する。「久しぶり。」「お久しぶりです。」気まずくて顔が見れず、会話に詰まってお店の段差に足を押し付ける私に、自然に話しかける彼。
中の待合に入って座って、隣を見たら顔が近くて、ふとキスでもしてしまいそうだった。
ああ、そうだ、私はこの人と別れたんだ
とか、この一年の状況を思い出す。

下の名前にさん付けで呼ばれた。違和感を感じたけれど、前もたまにそうだったか。呼び捨てでいいのに、と思った気持ちを、なんでもないように心の中でさらりと受け流す。

始めこそなんの話をしていいのやらだったけれど、話始めると一年のブランクなんてウソみたいに。会わない間の出来事、思い浮かんでは全部口に出して、そうだ、こんなこと伝えたかったなと思い出す。
あの頃は、あなた以外と経験した楽しいも、面白いも、寂しいも、辛いも、全部全部話してきたから。LINEで、電話で、この一年間伝えられなくて燻っていた、渋滞してた思い出を、息をするように吐き出すと、あなたはそれを笑いながら、心地いい相槌を打ちながら聞いてくれたね。

隣を歩きながら、握らない手と手に、別れたことを思い出す。寒い日には握った手と手をあなたのジャンパーのポケットに入れて歩いた。あの頃。その感覚が忘れられず、右手がそこに飛び込もうとする感覚を一瞬だけ思い出して、やめた。この道、別れた日にも、一緒に歩いた川沿いの道。そういえばあの時ももう、手を繋げなかったな。

彼の顔は、前のようには見れなくなった。あの頃は、目を真っ直ぐに見つめては、愛しさを最大限に込めて笑顔を自然と向けることができたけれど、今は、見つめてしまうと反射的に何かを起こしてしまいそうで、今でもどこかに仕舞い込んだ愛しさが溢れてしまいそうで、見つめることが難しかった。
けれど、彼を見ると、変わらずにお猿さんみたいな、飾らない彼。もう少しかっこよかった気がしたのは、美化された過去だったかな。なんて心の中で毒づいてみたり。

彼のインスタストーリーの親しい友達には、7人しかいないらしい。私を含めて、7人。なんだか少しだけ、うれしかった。

カフェでお茶をしていて、突然渡された紙袋の中を覗くと、チョコレートとコーヒー豆が入っていた。不思議そうにもらったものを眺めていると、今日買ってきたのだと教えてくれる。どんな気持ちで買ってきてくれたんだろう。付き合う前の初めてのデートも、別れる時も、私にラショコラデュアッシュの、チョコレートをくれたよね。それぞれ、就活頑張れ、ホワイトデーのチョコレート。今回はなんのチョコレート?混乱しながら、でも、ありがとうと伝える。コーヒーには思い出の目黒川のスタンプ。私の大好きな、オランジェット。

帰ってから知ったけれど、このチョコレートは自由が丘で、金沢で、一緒にケーキを買って食べたモンサンクレールのチョコレートだった。どんな気持ちで…と一瞬考えただけで、心がギュッとした。

そしてふと思い出す。旅先でのこと。友達と、家族と、旅行に行くたびに、無意識に「これ好きそう」「これ一緒に食べたい」と考えてしまう。食べることも飲むことも、時の物を味わうことも、2人で楽しんできたから、なによりあなたが喜ぶのが嬉しくて、いつも張り切ってたお土産選び。今でもその癖が抜けなくて。そんな思考回路になってしまう度、自分の無意識に、別れた現実を突きつけられる。
あなたも、私が喜ぶ顔を想像して買ってくれたのだろうか?それとも、なんでもない日のプレゼントが嬉しいんだよって前に言っていたのを思い出してくれた?
カフェを出るときにもう一度ありがとうと伝えると、早めのバレンタインデーと言われた。逆チョコかっこいいねーと思ってない棒読み風に伝えると、笑う彼。そうそう、このやりとり。お返しは、返したほうがいい?なんて、野暮な質問をそっと仕舞い込む。

いっぱい話したけれど、無言の時間も苦にならない楽さがあって、一緒に過ごした時間の長さを改めて感じる。
でも、少年のような、大人になりきれないような、彼と、別れてよかった、とは言い切れないけれど、この選択は間違ってないかもしれないと、どこかで感じることはできた。
会えて、納得して、次に進めそう、と、前向きな感想を、友人向けに思いついだけれど、実際に伝えることを考えるとジャリっとした違和感を感じた。それとはまた、違うらしい。
心がざらっとした時にいつも聴きたくなる、聴き慣れたレミオロメンの音楽をウォークマンで聴く。彼と別れた日の帰り道にも、バスでずっと聴いて心を保ったっけ。切ないメロディに夜道を一人で歩きながらちょっとだけ涙が溢れた。

そういえば、途中まで送るよって言ったけど、あの道君の帰り道じゃん。普通に帰り道の分岐点まで一緒に帰ってきただけじゃん。そーゆーとこだよ、とツッコむ。心の中で。帰り道に送ってくれなくて拗ねたのも懐かしいな。次付き合う人は、夜道を危ないからと口だけじゃなく、気にしてくれる人であります様に。

今日はありがとう、バイバイ。と互いに告げる。
またね、とはお互い言わない関係みたいだ。

そんな、今日のわたしを見て、あなたはどう思っただろうか?
「なんか今日キラキラしてるね」と言ってくれたこは物理的にだったよね?お化粧のことだよね?
太ったなとか、ニキビが多いなとか、思われていたら嫌だな。相変わらずかわいいな、という感想だったらいいな、なんて。なんてね。思ってしまったりする自分もいてね。



この恋愛を終えて、人間として深みが増したよ。音で聴いてた音楽の、歌詞が響くようになったんだ。と伝えたら、いい歌詞書けそうだよね、と薦めてくれた友人に感謝をしつつ。いい詩、かけたかな。




当日はお礼の連絡を交わし、
そして2日後、もう一度彼から連絡が来た。
「季節が変わったら、またお茶などお誘いしてもよいですか?🙇‍♂️」
いいよ、って思った。誘ってよ、また会えるなら会いたいよ、と思った。本心。
けど、これはきっと優しさじゃないなと思った。君を振って、沢山傷つけて、それでもなお、彼の裾を引っ張り続けて前に進ませることができないように静かに束縛する私は、最低だ。と気づいた。

だから、もう戻るつもりはないこと、期待をしてくれるなら会うつもりはないこと、打ち込んで眺めた。
送信ボタンを押すのをためらったのは、後ろ向きな理由では初めてで、こんな"初めて"も君に経験させてもらったなんて、皮肉だ。

既読が付く。君はどんな気持ちでいるんだろうか。ごめんね。ごめんなさい。
謝ってもどうにもならないけれど。

夜も深いから、返信は返ってこないか、また明日かな。
なんて思っていたら、しばらくして通知が来ていた。

君がまだ好きで仕方なくて…

という言葉にほんの少しの嬉しさを感じた。

そして、伝えられた
私への感謝と幸せを祈る言葉

会った時も、さん付けだったな。
また下の名前で呼び捨てで呼んで欲しかったな。

文章の最後に、
ありがとうさようなら
とあった。


大丈夫なようで、大丈夫じゃないようで。


君の名前を呼んでみたくなった。
愛おしくならないように、さっぱりと、3回、君の名前を呟いた。

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