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マリオカートを例にブラックホールの直接撮像を説明する

くだらない記事ばかり書いているので忘れがちだが、このnoteは初めは天文学のアウトリーチの一助とするために始めたのだった。

それにうってつけな研究成果が先日発表された。

2022年5月12日に、Event Horizon Telescopeが我々の住む天の川銀河の中心に潜む超巨大ブラックホールであるいて座A*(SgrA*)の輪郭(ブラックホールシャドウ)の撮影に成功したと発表した。

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国立天文台プレスリリースより引用(クレジット:EHT Collaboration)

オレンジ色のリングの中央の暗い穴に、太陽の約400万倍の質量を持つ超巨大ブラックホールSgrA*が潜む。
今日はこのオレンジ色のリングが作られる理由を説明しよう。
巷では、このリングについて「わかる人が読めばわかる」説明が多くある。しかし、ここではできるだけ科学的正確性を損なわず、伝わるような説明にチャレンジしてみる。

結論から言うと、このリングはSgrA*の近くを通過して、長い距離を経て地球に到達する光によって作られたものだ。
SgrA*の近くを通過する光でこのリングが作られる要因は、大きく分けて2つある。

その1:ブラックホールの近くでは光が曲がる

ブラックホールは、多く方がご存知の通り超強力な重力を持ち、時空の歪みを作り出す。

時空の歪みによって、普通であれば直進するはずの光が曲げられる。
車を運転する方は、道路に窪みや歪みがあると少しハンドルを取られて曲がってしまう経験があると思う。そんなようなイメージだ。

そして、ちょうど地球が太陽の周りを回るように、軌道が曲がることによって光がブラックホールの周りを回ることができる

その2:ブラックホールの周りを周回する光は、地球に届くまでに長い距離を経る

ブラックホールの周りを円のように周回する光は、そうでない光と比較して、地球に到達するまでに長い距離を経ることになる。
そして、短い距離で到達した光より、長い距離を経て到達した光は明るく観測されるのだ。なぜだろうか?

みなさんはマリオカートで遊んだことがあるだろうか?
マリオカートでは、コース上にダッシュ板(下図参照)というギミックが存在する。

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このダッシュ板に乗ると、カートが加速されるわけだ。

実際のマリオカートにそんなコースは当然ないが、コース上全てがこのダッシュ板で埋め尽くされているとしよう。
そして、爽快感を得るために(?)できるだけカートのスピードを上げたいとしよう。
当然、できるだけスピードを上げるためには、ダッシュ板に乗っている時間が長い方が良い。つまり、長い距離ダッシュ板に乗っていた方が良い

ブラックホールの周りを回る光の話に戻ろう。
長い距離を経て到達する光が明るいリングを作り出すのだった。
マリオカートのダッシュ板の例と同様、光も到達するまでに長い距離を経るほど、たくさんの光のエネルギーを稼ぐことができるのだ。


以上で説明した明るいリングができる理由をまとめるとこうだ。

ブラックホールの周りでは光が曲がる→地球と太陽のように、ブラックホールの周りを光が周回する→そういう光は地球に到達するまでに長い距離を経る→長い距離を経て到達した光は光のエネルギーをたくさん稼ぐ→明るいリング状の構造が観測される


光がブラックホールの周りを回る半径は、ブラックホールの質量や自転の速度に強く依存する。
したがって、この明るいリングを観測することで、質量や自転の速度といったブラックホールの個性を炙り出すことができるわけだ。


Event Horizon Telescopeによるブラックホールシャドウの観測は、実はこれが初めてではない。2019年にも、M87という異なるブラックホールシャドウの観測に成功したと発表している。

その当時、私は修士1年に進学して間もないときだった。
自分がこれから研究していく分野に関する大きな研究成果の発表と同時に自分の大学院生活が幕を開けた気がして、とても興奮したのを覚えている。

今後も、その時の興奮を忘れずに研究も他のことも取り組めたら良いなあと、思うわけです。

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