大手コンサル会社から転職、地元鳥取で就農した若手社長の挑戦―リトリファーム代表 河崎 真也―
鳥取県出身で、現在は県東部に位置する鳥取市でいちご農家を経営する河崎さん。大学卒業後、大手コンサルティング会社にて勤務してきた河崎さんは、コンサルタントとして培ったノウハウを地域貢献に生かすため、2018年にUターンを決意しました。
今回はそんな河崎さんに、大手コンサルティング会社を辞めて地元で新規就農をしようと思った理由、ファームとしての今後の目標や河崎さんが考える農業の未来などについてお話を伺いました。
「農業は儲からない」を覆したい
大手コンサル会社を辞めて鳥取県で新たに農家の道に進んだ河崎さん。夢に向かって歩む決断を促したのは、30歳という年齢の節目と身近な上司の影響が大きかったと語ります。
河崎:「大学卒業後は、船井総研(株式会社船井総合研究所)で6年間勤務していました。
船井総研では、複数の業種のコンサルティングを行っていましたが、メインは全国の中小企業向けの新規農業ビジネス参入のお手伝いです。具体的には、建設業や食品関連企業が多かったです。
そんな中鳥取県にUターンし農業を始めたのは、30歳という人生の節目を迎えたことと直属の上司が独立するという話が重なり、自分の人生を見つめ直したことがきっかけです。
もともと農業に興味があり船井総研も将来起農するための修行という気持ちで入社していたこともあり、この機会に”地元の鳥取で頑張って夢を実現しよう”という気持ちに火がついたんです。」
コンサル会社にて勤務している間も「農業は儲からない」と言われる原因を真剣に考え、様々な取り組みを行ってきたそうです。
河崎:「実家が農家だったことが、そもそも私が農業に興味を持ったことの発端です。実家は野菜や米を作っていましたが、農業以外にも収入源がある兼業農家でした。
両親からは『農業は儲からない』と常々言われて育っていたので、逆に『農業の問題点って何だろう、こうすれば良くなるのかも』と真剣に考えるきっかけにはなっていたと思います。
学生時代も農業を儲かる産業にするため、色々と仮説を立てていたんです。船井総研に入ってその仮説を仕事の中で実証できたことは、やりがいにもつながりましたね。
やり方によっては農業って儲かるし、生産の仕方や販売方法を変えるだけでしっかり食べていけるような仕組みを作れることを実感できたのは、本当に勉強になりました。」
地元の同業者からの助けに支えられた1年目
コンサル時代に培った経験を生かし、農業をはじめた河崎さん。生産する作物として”いちご”を選んだ理由についても教えていただきました。
河崎:「いちごを選んだ理由は3つあって、1つは販売価格が高いこと。販売価格が高いと売上も伸びるので安定した経営につながります。
2つ目は、観光農園にしやすいこと。観光農園の約7割~8割くらいは、いちごを作っていることが多いです。農家だけでなくいちご狩りという販売手法が取れることで、より収益が安定しやすいという点が観光農園の優れている点ですね。
3つ目は、いちごは女性に人気だからです。今の時代、女性の社会進出も進んできました。経済的に独立できる女性も多いと思います。
世の中のサービスの大部分がまだまだ男性目線で作られていると感じます。
ある社長から言われたことで印象に残っているのが『女性に魅力を感じてもらえば、男はついてくる』という言葉です。
消費の鍵を握るのは女性だと思います。男性をターゲットにした観光商材だと中々売上が伸びにくいという側面もあるので、女性にあたたかいサービスになるよう今後も取り組んでいきたいです。
令和は共同参画の時代になると思うので、それに合わせて農業やサービスもアップデートする必要があると個人的には考えてます。」
コンサル時代に得た農業に対する知識や仮説はあっても、実際の生産の段階で苦労も多かったと話す河崎さん。先輩農家からアドバイスをもらいながら技術を習得したと言います。
河崎:「新規就農で一番大変だったことは、ずばり農作物の生産です。当然ではありますが、教えてもらってやるのと自分でやるのは全然ちがいます。生産技術については1年目はすごく苦労しました。
自分で勉強したり、人に教えてもらったりしてなんとか乗り切りましたが、本当に助けられたのは、農家の先輩方からのアドバイスをいただけたことですね。
コンサル時代や学生時代に農業について学んでいたとはいえ、実際にやってみるとわからないことばかりだったので、大先輩からのアドバイスは本当にためになりました。
そういった意味では、たくさんの先輩方がいる地元の鳥取に帰ってきて良かったな、と感じる瞬間でもありましたね。」
お客様の笑顔のために、挑戦を続けていく
苦しかった局面を乗り越え、農業へのチャレンジに邁進する河崎さん。今後はハウスの規模を拡大し、さらにたくさんの品種を育て、お客様の期待にもっと応えたいと語ります。
河崎:「現在は4棟ビニールハウスがあって、1棟は苗を育てるビニールハウスとして使用しています。
1年目はビニールハウスが少なく、年度当初予想したよりも多くの方々にご来園いただいたにも関わらず、なかには体験したくてもできなかった方もいらっしゃいました。
2年目の今年(2020年)は1年目よりビニールハウスの数を増やし、より多くの方にご体験いただく予定でしたが、新型コロナウイルスの影響もあり、これからというタイミングでストップせざるを得ませんでした。
でも本当にありがたいことに、
『いちご狩りを体験できなかったので、直接買いに来ました』
『今年は新型コロナウイルスで体験できなかったですが来年もぜひやって下さい』
といった言葉をかけていただき、お客様のあたたかさに心から感謝をしています。
来年度からは現在の『あきひめ』という品種だけではなく、鳥取県の品種『とっておき』にも挑戦しようと思っているところです。
やはり品種を増やしていくことでお客様の満足度も高まるし、何より楽しいじゃないですか。お客様が『おいしい』と言ってくださる姿は本当に生産の励みになりますね。」
さらにいちごの生産規模の拡大だけではなく、今後はいちごジャムなどの加工品を使って新たな挑戦をしていきたいと続けます。
河崎:「来年は加工品づくりにチャレンジしていきたいと思っています。現在農業の6次化とも言われていますが、私たちリトリファームでもジャムを新商品として作っているんです。
ギフト需要という言葉もありますが、鳥取県産のいちごをつかった加工品がたくさん贈呈品として扱われ全国に出回れば、鳥取の認知度も高まるじゃないですか。
ギフトをきっかけに鳥取に興味をもってもらい、鳥取に新規就農してくれる僕たちみたいな若手世代がもっと増えるといいと思っています。」
都会で学んだノウハウで、若者に鳥取でチャレンジしてほしい
現在農業で問題となっている高齢化。若手として鳥取県で新規就農した河崎さんに、20代や30代の農家を増やす際の課題についても伺いました。
河崎:「農業従事者って、一般的には家業をついで農業をはじめた方々多いというイメージかもしれませんが、サラリーマンをした後に新規就農する方々もいます。
20代30代はサラリーマンとして過ごした後、40代50代から農家になるのには、理由があります。
なぜなら農業は施設や設備など初期投資が多額に必要なうえに、収穫が上手くいかず儲からない年でも耐えられるだけの資金の余力が必要な場合が多々あるからです。
そうなると、比較的自己資金を貯められている40代50代じゃないと新規就農がしにくいですよね。それが、若者の新規就農が少ない現在の状況を生み出していると思います。」
そうした課題点に対して、河崎さんは今後どんどん若者が農業に携われるような環境づくりに取り組みたいと話します。
河崎:「他県の事例ですが、新規就農がしやすい環境を作り出して、UターンやIターンなど移住定住につなげている例もあります。
そうした県と同じように、鳥取県にも県外在住者の方々がUターンやIターンする際の就職先の一つとして農業を選んでもらえる”何か決め手になるもの”はあるはずなんです。
例えば農業をはじめるエリアに不安がある人がいれば、実際に農業を始めたい場所で農業体験に行ってもらい、満足したらそのままそこで新規就農をサポートしてもらえる、といったプログラムなどもおもしろいかもしれません。
僕は、鳥取で若者がのびのびと農業ができる環境づくりにも、今後積極的に取り組んでいきたいと思います。
あとは最近、鳥取県で県外の若い人がよく活躍している気がします。
都会で学んだノウハウをどんどん生かして、一緒に地方の課題を解決できれば鳥取県民としては非常に嬉しいですね。」
農業の世界でチャレンジを続ける河崎さん。農業という厳しい世界に身をおきながらも、インタビューで話される様子が終始楽しそうだったことが印象的でした。
鳥取という環境が、やりがいの原動力になっている―河崎さんのような若手がのびのびとチャレンジできる環境である鳥取県の魅力を、私たちは今後も発信していきます。
リトリファーム 代表 河崎真也 大学卒業後に船井総合研究所に入社。農業法人の新規参入の支援、先進的な農業法人の視察事業など、農業を中心としたコンサルティングを業務として行う。30代という年齢を機に実家鳥取県に帰り、自身もいちご農家リトリファームをオープン。新型コロナウイルスの影響を受けた2年目は、新規品種、加工品の商品開発などコンサルティング時代のノウハウを生かし日々取り組んでいる。
リトリファーム:https://ritorifarm.com/
いちご狩り体験:https://tottori-tours.com/plan/strawberrypicking_airport
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