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「自発的な部下が欲しい」と嘆くリーダーが受動的かもしれない話

自発的な社員を増やしたいと言う時、ほとんどの場合その自発性は「自社にとって都合の良い」という前提が含まれています。実はすでに自発的な人は一定数います。ただ、自発性が個人に向くか組織に向くかはその後のコミュニケーションによって決まります。

部下が職分と関わりの薄い事の相談に来た時「まずはやるとこをやれ」とか「それはお前の仕事じゃない」「うちはそう言う文化」などと言われたというエピソードを聞いたことはありませんか。

このようなコミュニケーションがあるとき、部下は自発的に提案や相談をしに行っているのに、上司は「どうでもいいこと言ってないでもっと自発的に定められた仕事をしてほしい」と思っているのです。これはあくまで一例ですが、事程左様に言葉の意味、解釈というのは人によって違っています。

料理を例に考えてみます。あなたのパートナーは料理が好きで、毎度夕食を作ってくれるとしましょう。しかしあなたはその事に関心がないので、夕食の場で特に料理にコメントすることはありません。別に喧嘩しているわけではないので夕食の場でほかの話題で仲良く会話はします。しかし料理のことは蚊帳の外です。このようなことが何年も続いた場合、パートナーがいくら料理好きだとしてもあなたに対して料理を作る意義を感じることはどんどん薄れていくでしょう。献立も代り映えしなくなるかもしれません。しかしあなたが食べたいものをリクエストしたり、作ってもらった料理の工夫に気が付いたり、おいしいと感想を伝えたりするとどうでしょうか。

これはただ単に「料理してくれる相手に感謝しましょう」という、雑誌の相談コーナーによくあるアドバイスではありません(それはそれで大切なことですが)。パートナーが料理をするのはあくまで当人が料理好きだからです。それに対してあなたが主体的にコメントするということは、自分自身もその実践に関わっているということなのです。その自覚がなくてはなりません。相手のご機嫌取りではないのです。逆に、お仕着せの言葉で表面的に褒めたり感謝したところで、本気で実践に携わっている人には見透かされてしまいます。しかしあなたが一緒に買い物に行ったり、アイデアを出したり、時には一緒に料理をすることで、食卓に並ぶ料理は確実に変わります。そうやってお互いに関わりあって新しいものを生み出していく姿勢が重要なのです。

あなたも部下だった時に(あるいはあなたが部下であれば)このような経験はありませんか。一所懸命に上司からの指示された修正をして持っていったら、当の本人がそんな指示をしていたことを忘れていた…という経験です。今度はあなたがそうなっていませんか。自発的な提案や相談に対する対応の多くは、冒頭に示した通りもっと冷たいものになることもあります。このようなすれ違いが進むと、部下は自発的に会社を去ります。だからこそ、上司は部下の相談に対して真剣に応える必要があります。

ではどのように対応すればよいのでしょうか。上司の立場からすれば、ある日突然自分とかかわりの薄い相談を持ち掛けられても答えに困るというのも真実でしょう。ここで大切なのは、部下が何かを持ってくるまで待っていてはいけないということです。出てきた料理が食べられないものだったらどうしようもありませんが、とは言えそれを目の前でぞんざいに扱われたら作りてにとっては大変な侮辱です。ですから、部下が何か考えている、取り組んでいるということを察知したら、できるだけ早い段階でどういう成果物であれば部門や組織にとって価値あるものになるかを議論しておくということです。この時、活動内容によっては評価や報酬に関しても話しておく必要があるでしょう。また、段階が進んである程度形が見えてきたときには、その成果をどこかで実践するような場を設けるのも大変有効です。実践の主体はあくまで部下ですが、上司もそこに関わる(正確には部下の実践を適切に促す)ことで、共創的に成果を生み出していくのです。

このような議論をする過程で、部下は自身の問題意識が組織や部門の役立つことに気づき、一層の貢献を志向するようになります。同時に、組織側の意図や背景を理解することで業務の理解度も上がり、より積極的に職務を遂行するようにもなります。もともと部下の持っていた問題意識や欲求を適切に組織課題に促すことができれば、部下の自発性がこのように活かされるのです。これを一言のアドバイスにするならば、「上司が自発的に部下に関わると良い」ということになります。部下の自発性に期待して自分が何もしないというのは、なんとも受動的ではありませんか。そんな上司の下で、どうして自発的な部下が育つでしょうか。

ここに書いたようなことは一つの理想的な形ではありますが、私が調査したいくつかのケースで実際に起こったことでもあります。そのような部下たちが、子会社の社長になったり、海外現法に派遣されたり、重要タスクフォースのリーダーを務めたりと、立派に「本来の仕事」を全うしていきました。人間関係のことですからすべてが同じ形に収まるわけではありませんが、少なくとも部下との関わりについてご参考になるところがあれば、取り入れてみていただくと良いかもしれません。

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