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あかちゃんまんの立ち位置

 アンパンマンの仲間たちはそれぞれが神である。日本人はあらゆるものに神を見る。八百万の神である。それらを具現化したものがアンパンマンの仲間たちである。日本人の心に即して言えばそういうことになる。アンパンマンの仲間たちに食べ物のキャラクターが多いのは、それが自然の恵みだからである。
 さて、その中で唯一の人間のキャラクターが あかちゃんまん である(※ 注1)。なぜ人間である赤ちゃんが八百万の神の一人に位置づけられるのか(※ 注2)。それが今日のテーマである。

(※ 注1) ジャムおじさんとバタコさんも人間のキャラクターだが、この2人は イザナギ と イザナミ にあたる。2人はパン工場(=天上界)でアンパンマン(=アマテラス)をはじめとする天上界の神々を生む存在である。すなわち、2人は天上界の神々の父と母にあたる存在であるから、八百万の神とは位が違う。別格である。ちなみに バイキン城(=魔界)もまた特別な場所であり、バイキンマンとドキンちゃんもまた特別な神である。

(※ 注2) アンパンマン・ワールドのうち、パン工場とバイキン城を除いた場所が地上界にあたる。森やみんなの街やミミ先生の学校がそうである。その範囲はアンパンマンがパトロールする範囲と一致する。そして、そこが八百万の神々が住むエリアである。カバおくんにてんどんまん、そしてあかちゃんまん、仲良しのみるくぼうやもそこの住人である。

 ところで、日本の昔話に必ず登場するのは、おじいさんとおばあさんである。しばしば主役を張る。一方で、赤ちゃんの出番は少ない。桃太郎と かぐや姫 はすぐに成長して、赤ちゃんではなくなった。
 では、日本の神話ではどうだろうか。古事記を見てみよう。古事記の中で赤ちゃんと明示されている神はいない。けれども、赤ちゃんと受け取るべき神は2つある。天孫降臨でおなじみの ニニギノミコトと国譲りでおなじみの 大国主のミコト である。
 このうちニニギノミコトは、その名の通り「ニギニギ」のミコト、すなわち赤ちゃんがニギニギする仕草がそのまま名前になっているのだから、そのモチーフは赤ちゃんに違いない(※ 注3)。古事記にも、生まれたばかりの赤ん坊を地上に送ったという記述がある(※ 注4)。
 一方の大国主は若い頃、兄たちに何度も殺されて、その度に母親に助けられたり、天の神に乳を塗ってもらったりして生き返った。この様、すなわち母の庇護下にある様、乳で命を吹き返す様は、赤ちゃんさながらである。

(※ 注3) ニニギノミコトはアマテラスの孫であるが、地上の国を支配するためにアマテラスが孫のニニギノミコトを地上に送ったという古事記のエピソードは、古事記編纂時の女帝・持統天皇が孫を文武天皇として即位させたことと符合する。持統のその思いを物語仕立てに組み立てたものが古事記だと考えることができる。記事「古事記の成り立ち」に書いたとおりである。

(※ 注4) 古事記の記述によると、アマテラスは自分の子に天下るよう言ったのだが、ちょうどその頃にその子に子が生まれた。アマテラスの孫ニニギノミコトである。そこでアマテラスはニニギノミコトに天下りさせた、とある。このイベントが天孫降臨である。その点ではニニギノミコトは正真正銘の生まれたての赤ちゃんのはすだが、地上の国に降り立つ場面の記述では赤ちゃんらしいそぶりはない。

 古事記の神話世界の中で赤ちゃんとおぼしき神はこの2つである。他には見当たらない。さて、アンパンマン・ワールドの あかちゃんまん は、その2つのどちらに当たるのだろうか。

 話を元に戻そう。なぜ赤ちゃんが八百万の神の一人に位置づけられるのか。
 あかちゃんまんはお腹が空くと泣き出すが、ミルクを飲むと力持ちになる。バイキンマンの巨大ロボット、ダダンダンを投げ飛ばすほどの、物理法則を超越した力を発揮する。バイキンマンが作った魔法の薬、赤ちゃんスプレー(注5)に影響されない唯一のキャラクターでもある。

(・・・未完)

◇      ◇      ◇

アンパンマン・ワールドは八百万の神の国
▷ アンパンマンの不思議を神話で読み解く  
▷ バイキン城はどこにある?        
▷ スサノオ と ヤマタノオロチ と クシナダヒメ
▷ あかちゃんまんの立ち位置        
▷ 伊勢神宮の外宮に祀られているご飯の神様 

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