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かぐや姫の結婚の条件

 男は 眠れる森の美女 が好きなのだ。彼女はいばらの森の中でずっと眠っていたから、正真正銘の処女である。森に隠れ住む白雪姫や灰まみれのシンデレラもまた男を知らないはずで、その希少価値に加えてしかも美しいとくれば、男が惹かれないはずはないのである。
 一方、女は 白馬に乗った王子様 が好きなのだ。彼らは特に優しくもなくハンサムでもなくましてや働き者でもないが、女にとってそんなことはどうだっていいのだ。アホでもいいから、何の苦労もなく馬に乗って遊んでいられるような身分と経済力に女は惹かれるのだ。
 そしてそこには双方にとって譲れない生物学的事情がある。(数秒で子作りが終わる男と違って)女はまずお腹の中で10ヶ月ほど子供を育て、さらに乳を与えたりしながら数年間の子育てが続く。そしてその間にお金がかかる。だからお金はいくらあっても良い。
 一方で、男にとっては「その子が自分の子である」という確証が無い。女にとっては、自分のお腹から産まれた子供は(父親が誰であろうと)間違いなく自分の子供である。けれども男にとっては「その子が自分の子である」と、そう「思い込む」ことしかできない。だから、処女が良い。

 そう考えると、眠れる森の美女白馬に乗った王子様 のカップルはなるほど確かに理想のカップルと言えそうだ。実際、ヨーロッパの昔話ではこの手の話が満開である。
 ところが、どういうわけか、日本の昔話には「処女の美女と金持ちの男が結ばれてハッピーエンド」という話は皆無なのである。一見似ている話はある。かぐや姫である。が、その話は意外にも「かぐや姫が男たちのプロポーズを断った」のである。
 検証してみよう。まず、かぐや姫が処女だったかどうかというと、それははっきりしている。証拠もある。赤ん坊のかぐや姫が竹の中で発見されてから驚異的なスピードで成長したというエピソードがそれである。そのスピードがあまりにも速かったために、処女を失うチャンスがあるはずが無いのである。また、彼女が美しかったことは物語の記述からも、絵本の挿絵からも明らかである。すなわち、かぐや姫は確かに「処女の美女」だった。そこに男たちは惹かれたのだ。
 一方、男たちは確かに高貴で金持ちだった。ヤンゴトナキ男たちという記述もそれを示しているが、かぐや姫が要求した「この世にありえない宝物」を探しに行くほどの暇を持て余していることこそが決定的な証拠である。ここまではヨーロッパの昔話と同じである。
 ところが、かぐや姫は男らの身分・財力にまるで関心を示さなかった。どんな贈り物もかぐや姫の気を惹くことは無かった。では、なぜかぐや姫は、金持ちの男たちのプロポーズを断ったのか? それは分からない。彼女が宇宙人だったことと関係しているのかもしれないが、だとするとますます理由は分からない。

 ところで、男たちがかぐや姫と結婚する方法は本当に無かったのだろうか? 実は1つだけあったのだ。それは、かぐや姫を迎えに月からやってきた乗り物に 乗り込んでしまう 方法である。それを撃退しようなどと野暮なことをせずに、かぐや姫と一緒に乗り込んでしまえばよかったのだ。当時の日本には通い婚という形もあったから男たちにとっては抵抗は無いだろうし、月から地球にやってきたかぐや姫にとっては地球から月に行こうとする男に違和感は持つこともあるまい。贈り物で落とせなくても、おじいさん・おばあさんとの別れを惜しむほどには人情はあるのだから、「かぐや姫、あなたについていきます!」と言えば、かぐや姫が落ちた可能性は大なのである。
 女は生まれた子供を楽に育てられるだけの「経済力」とその経済力を先々も失わないことを保証してくれる「身分」を男に求め、男は元気な子供を生んでくれる健康な体であることの証である「美しさ」とその子が間違いなく自分の子供であることを確信するために「処女」であることを女に求める。
 かくして、男は 眠れる森の美女 が、女は 白馬に乗った王子様 が好きなのである。
 けれども、ありもしない「宝物を持ってこい」だなんて、かぐや姫はあまりにも性格が悪かった。月からやってきた御者をただ追い返そうとした男たちは揃いも揃ってアホだった。だから、成就しなかったのである。
 要するに、性格悪くてもいいから「眠りの森の美女」を望んだ男たちと、アホでもいいから「白馬に乗った王子様」を望んだ女の当然の帰結だったと言えるだろう。シャンシャン。

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