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ファシリテーションに苦手意識のある人が心折れないための処方箋

みなさん、ファシリテーションは得意ですか?

私はとても苦手意識があります。どれくらい苦手かというと先日エンジニア組織にDesign Docを導入するプロジェクトのリーダーを担当したとき、とにかく逃げ出したい気持ちとずっと戦っていたくらいに苦手です。その当時のメモはこちらにまとめたので興味ある方は読んでみてください。現在はなんとかプロジェクトがひと段落しましたので自分の考えを整理してみます。

この記事では、苦手意識のある人がどうすれば心折れることなくファシリテーションできるか私なりに学んだことを書きます。ファシリテーションの苦手意識とうまく付き合える人を増やすための処方箋になれば嬉しいです。

上手なファシリテーションのやり方が知りたい人はどうか別の記事を参照してください。

ファシリテーションに苦手意識があると何が起きるか

まずは苦手意識から生じたことを整理していきます。結論から言うと計画崩れを起こしたときに軌道修正できなくなりました。具体的に起きたのは次の2つです:

起きたこと1. プロジェクトの性格を読み違えて状況判断を失敗する

今回のプロジェクトはプロダクト開発に関連する開発プロセスの整備でした。どちらかといえばプロジェクトマネジメントに近い領域だと思います。私の普段の仕事であるプロダクト開発であれば、経験が10年以上あるので仕事の進め方は肌感覚でわかっていたし、ある程度結果も予測できます。しかし今回は違いました。開発プロセス整備は初めてのことだらけで、ゴールもスケジュールも進め方も全て予測できませんでした。

未知のことを既知の知識で予測しても役に立たないのは考えてみれば当然で、再現性を獲得したスキルしか人間はうまくこなせないものです。今回の仕事は未知の仕事という認識ができてなかったんですね。普段の仕事の延長と考えたことが結果として状況判断を狂わせました。

起きたこと2. 場馴れしてないことから生じる理想とのギャップに苦しむ

なんとなく苦手意識からファシリテーションを避けてきた私は、場馴れしていないせいで逆に自分の中の理想が強くなっていました。こだわりが強すぎて作品が書けない小説家みたいなものです。その理想が崩れることに極端な苦手意識を感じ、少しでも予定を違えると自身が否定される気さえしていました。

プロジェクトのキックオフ前に綿密に計画を立てましたが、ミーティングの場が思ったより複雑になったことに緊張してしまい、予定が狂って何も言えなくなってしまいました。ちなみにミーティング前に考えてたアジェンダは次のような感じです:

  • この施策のゴール

  • スケジュール

  • どう進めるか

  • 成果物のイメージ

  • ネクストアクション

上記のアジェンダを崩さず進めようとしましたが、ミーティングの雰囲気をうまく制御できないせいで緊張感に襲われて何も言えなくなりました。ますます焦った私は、心が防御モードになって黙りこくってしまいました。

心が折れながらもプロジェクトはどう進んだか

キックオフミーティングで既にメンタルはズタボロでしたが、「アクションアイテムを決めないといけない!」ということだけを必死に自身に言い聞かせて、宿題と次回の議題と次回のミーティングの日時だけをなんとか決めることはできました。参加者の皆さんに感謝です。

その後のプロジェクトの流れとしては次のように進みました:

  1. キックオフミーティングで成果物のイメージが参加者同士で揃ってないことがわかったので共通認識を作ることにした。

  2. 合わせた認識をもとに成果物のテンプレートをつくってレビュー。

  3. テンプレートを基に成果物のたたき台をつくってレビュー。

  4. たたき台をレビューした結果をフィードバックとしてテンプレートをブラッシュアップ。

  5. たたき台を作った経験をもとに運用プラットフォームを何にするか議論して決定。

  6. 最後に運用ガイドを作って関係者に展開し終了。

現在は、実運用で得られた内容を随時フィードバックしながら運用ガイドを保守/運用するフェーズに移行してます。

ファシリテーターとして心が折れないためにこれから何ができるかを振り返る

プロジェクト終了後に1on1でファシリテーションの経験を話す機会があり、あらためて当時をふりかえることができました。ここからは1on1で得た学びを書いていきます。

学び1. ファシリテーター自身は正解を知らなくてOKだと考える

当時の私は率先垂範で参加者に手本を示すことがファシリテーターの役割だと思ってましたが、実は参加者の認識合わせを支援することのほうが大事な役割だと思うようになりました。前に出ようと思うと気が引けますが、自身が手本を示す立場じゃなくて良いと思えば気が楽になります。認識合わせをメインに据えると、キックオフミーティングのアジェンダはたとえばこんな感じになるでしょう:

  1. プロジェクト設立の背景と目的

  2. プロジェクトの概要

  3. スケジュール

  4. 検討項目の案(以下、たたき台となる案がいくつか続く感じ)

上記のアジェンダはミーティングの簡単な構成を考えるくらいで、ファシリテーター自身の意見をなるべく廃しています。参考までに当時に作ったアジェンダをもう一度見て比較してみましょう:

・この施策のゴール
・スケジュール
・どう進めるか
・成果物のイメージ
・ネクストアクション

プロジェクトの当初に私が作ったアジェンダを再掲

当時のアジェンダは、「やること」と「方法」をある程度固定しているように見えます。言い換えると結論ありきのアジェンダだと言えます。対して先ほどのアジェンダは「背景/目的/概要/スケジュール」といった、事実を単に列挙したような作りになってます。認識合わせが目的ならこれくらいがちょうど良いです。これ以上準備しすぎると参加者にとってはノイズとなり、結果として合意形成から遠ざかるからです。仮に準備しすぎた状態で進めると、合いの手もなくひたすら各自が好きな歌を歌うだけのカラオケ大会のように統一のない状態になるでしょう。

学び2. ファシリテーターは観察と翻訳に徹する

ファシリテーター自身は意見を押し付けず、参加者の言いたいことをひたすら観察して翻訳することに徹したほうが良いと学びました。当時の私の考えに比べて、ファシリテーターの思い描く通りに議論が進まなくても良いと気づけたので心理的に楽になれます。

プロダクト開発を自動車旅行に例えると、ファシリテーターは道路を作る役割だと考えると良いです。参加者がどのように自動車を運転するのか前もって知ることは難しいので観察に徹しないと道路が作れないからです。

ハンドル捌きやアクセルの踏み方などは参加者の個性が出ますし、運転が得意な人もいればナビゲーションが得意な人もいます。車酔いするので悪路はダメという人もいるでしょう。試行錯誤しながら参加者たち自身がしっくりくる方法を見つけ、いくつか進行方向の候補が見えてきます。そうして初めてファシリテーターはこれまでのやりとりからなんとなく進んでみたそうな方向を察して「あっちに進んでみますか?」と問いかけ、その場所に道路を作ります。具体的なアクションとしてはたとえば次の議題を決定することです。

1on1で気付きましたが、ミーティングの合意形成は参加者同士で暗黙的に行われることが多く、明確な介入が必要なことは意外と稀でした。なので基本的には参加者の意思に任せれば良いと思います。どれくらいスピードを出すか、新しい車に乗り換えるかなど、参加者が合意して目的地まで行ける方法ならOKです。ファシリテーターはシナリオライターでもコーチでもないので、参加者が進みたい方向に道を作れればそれで良いのです。

学び3. ファシリテーターは「進捗のパターン」を沢山ストックしておく

具体的な成果物が出ないとファシリテーターは焦りがちですが、ミーティングにおける進捗は意外とバリエーションがあることに気づけると気が楽になります。たとえば、次のようなことであっても立派にミーティングは進捗してると言えます:

  • ネクストアクションが決まったパターン

    • 次回の議題が決まる

    • 次回の宿題が決まる

  • ネクストアクションは決まらなかったけど合意が取れたパターン

    • 参加者同士の認識合わせができた

    • 次のミーティングの日程が認識合わせできた

もちろん成果物を伴う大きな進捗であれば達成感も大きいでしょうが、仕事の幸福度は進捗の大きさに関係なく、「前進している実感」があれば高まるのだそうです。要するに参加者が「このプロジェクトは進捗している」と実感を持てるならそれでOKなのです。たとえ1ミリの進捗でも仕事が立派に進んだと思えるように進捗のパターンをストックしておくと良いと気づきました。

「進捗の実感は成果物がなくても得られる」と知れたのは↓の本のお陰です。興味があれば読んでみてください。

1on1で教えてもらったことですが、ミーティングで認識の前提を合わせること自体にはどうしても時間がかかるのだそうです。ファシリテーターが進捗のパターンをストックしておくと、焦らずに合意形成するところまでミーティングを進められると思いました。

まとめ:ファシリテーターの役割は「参加者の合意を育み、その後の仕事をスムーズに進めること」だと意識することで心折れずにいられる

これまで、ファシリテーターが心折れないための学びを3つ紹介してきました。どの学びにも共通するのは、ファシリテーターとしての役割を正しく認識して、焦らず状況を観察することです。

ファシリテーターは事前に正解を知る必要はなく、前に出てリードすることもしなくて良く、俊敏にその場を仕切れなくても良いです。仕事を円滑にするために時間をかけて参加者の合意形成を育む役割を負っているのだと認識できると心が軽くなると思います。

もし同じようにファシリテーションに苦手意識を感じている人がいたら参考にできることがあるかもしれません。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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