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岬にて

あれは2021年5月のこと。
兵庫県に住みながら東京の広告会社にリモート勤務する僕が、社内で推進するとある洋菓子のプロモーション活動に協力するため、商品写真を撮影しに近所の岬に出かけたゴールデンウィーク中のお話。

洋菓子の写真って基本的に、おうちのテーブルでおしゃれに彩られた写真が多いじゃないですか。社内から集まった別の協力者たち(東京在住)も、おそらく各々そういう方向性で写真を撮るだろうと思い至るのは理の当然でした。

そこで、せっかく兵庫の田舎に住む僕が協力するのであれば、趣向をかえて「アウトドアに持ち出してたべよう」というコンセプトのもと、山に行ったり、お花畑に行ったりして写真を撮ったんですね。


山に行ったり
お花畑に行ったり


そして最後に、家から車で20分ほど走ったところにある岬でも写真を撮ろうと考え、いそいそと向かいました。その岬で起きた出来事の話をしたいと思います。出来事と呼ぶには生ぬるいかもしれません。事件です。今でも当時の光景が脳裏に焼き付いて、ふとした瞬間にフラッシュバックしてしまうほど衝撃的な事件でした。

岬は、海側から見ると三国志に登場することでも有名な中国の赤壁に似ている崖であることから「小赤壁」と呼ばれていて、高台広場からの眺めは瀬戸内海を一望できる地元ではそこそこ知られた絶景スポットでした。ゴールデンウィークかつ快晴ということもあって、その日はけっこうな賑わいを呈していました。

僕はこの小赤壁で、海原を背景に洋菓子の撮影を試みようとしたのです。


小赤壁にて


パシャリ、パシャリ、パシャリ。
ハワイアンカフェで生クリーム盛り盛りアゲアゲのパンケーキを撮るインスタグラマーよろしく、広場に設置された小高い展望台の丸太型の柵の天板に洋菓子を置いて、iPhoneで縦横無尽にシャッターを切っていました。

するとその時、一陣の浜風が吹き、アルミジップに入れた一切れの洋菓子が飛ばされてしまいました。広場の方へ飛んでいった洋菓子を追いかけるため、展望台の階段を駆け下りる僕。洋菓子が落ちたのは、とあるカップルの足元。カップルのもとへ駆け寄り、「すみませ~ん」と声をかけながら地面に落ちた洋菓子を拾い、何の気なしに二人の顔を一瞥します。

事件はここで起きました。年の頃なら二十代後半といったところでしょうか。ひいき目にも冴えているとは言いがたい、慎ましやかなカップルでした。ちょうどお昼の時間だったので、レジャーシートを広げお弁当を食べようとしていたのですが、なんと、二人揃って……







のり弁食べてるやん!!!!!







THE のり弁


ののののののり弁て。あんさんら、正気か。ここ岬でっせ? 岬でのり弁食うかね? せっかく見晴らしの良い場所で、揃いも揃ってほっともっとののり弁食うかね! 百歩譲ってすぐ近所にあるならまだしも、この周辺にほっともっとなんて無いじゃん。遠くの店舗でわざわざ買って来たんかいな。店員さんに「のり弁2つ」って指二本立てて注文したんかいな! 助手席に座った方が膝の上にのり弁2つ置いて「トシ君、はやくのり弁食べたいね」とかなんとか話しながら中古のワゴンRでユーミン聴きながら遥々やって来たんかいな!!!




こんなことってありますか。絶景スポットですよここは。もっとあるでしょ、ほかに。サンドイッチとか、おむすびとかさ。TPOってもんがあるじゃん。のり弁は場違いなのよ、さすがに。海とのりの親和性EE JUMPとか屁理屈はいいのよ。

ここでみなさんに勘違いしてほしくないのは、僕はのり弁をバカにしているのではありません。なんだったらのり弁は好物です。そうじゃないんです。ここであなたがのり弁を食べているのが淋しいのじゃなくて、ここであなたがのり弁を食べていると思うことが淋しいんです。

とにかく、世の中は多様性にあふれていて、マーケティングとかターゲティングとか、机上の空論では到底思いつかない行動をする人がたくさんいるということを伝えたい。デートでのり弁を食べる人もいるし、岬でのり弁を食べる人もいるし、岬デートでのり弁を食べる人もいるのです。すごく幸せな顔をして白身フライを頬張っているのです。茶化して書きましたが、別にいいですよね。好きな人と好きなもの食べてなにが悪いんですか。TPOとか関係ないんですよ。それに彼らの名誉のために書くと、もしかしたらのり弁じゃなくて特のりタル弁だったかも知れないのです。


のり弁より90円も高い


というわけで、みなさんの凝り固まった思考をほぐせたなら幸いです。嘘です。僕はただ、岬でのり弁食べてたカップルがいたよってことを教えたかっただけです。


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