小論:分散化する未来の社会と個人の「しあわせ」のかたち

先に予告します。私は毎度これでもかと長文ばかりを書いていますが、今回はとても短い文章になるでしょう。

今回のnoteは、昨日書き上げた「全てがVになる:VRが変える私たちの社会、2050年のその姿(中編)」についてのとあるコメントに、私がいたく感じいるものがあったがために、それを言葉にしたくて書いた「自分の著作に対するコメントへの感想文」だからです。

私はこのエッセイの中で、VRが浸透した未来社会の姿についてこのように書きました。
(元記事をごらんになっていない方はぜひどうぞ。◆社会のマルチレイヤー化の原動力:「私たちは近づきすぎた」の1章だけで十分です)

分散化していくTwitterの鏡写しのように、国や民族、趣味・政治・性向といったクラスタごとに「自分たちだけのワールド」が生み出され、コミュニティは細分化されていくでしょう。そして、こうして生まれた無数のコミュニティ、ワールドは、おそらく互いに深くは交わろうとはしないでしょう。私たちは「ひとつであること」に倦んでしまったからです。(中略)
独立したコミュニティの分散複合体。いうなれば島宇宙的な世界が、VR空間には生まれるでしょう。
(中略)
VR空間の、まさに宇宙のような無限の広さは、現実には不可能と思われた無限の分散を、完全な隔離を可能にするのです。
VR世界の中で私たちはもう「ひとつ」になろうとする必要なく、したがって争う必要もないのです。


正直に言えば、私はこの未来予想図について、良いか悪いか、好きか嫌いかという価値判断を決めかねていました
ただこれについて、Twitterでこの記事をRTした方の以下のような意見をお見受けして、強く心を動かされました

人間はどうやっても対立し合う。だから、無条件に、最大限に幸福になるためには「ひとり」になるまで分散するしかない。
現実のレイヤーにまつわる諸問題の解決にさえ目処がつけば、それすら成り立つ社会をVR世界は可能にするわけです。

確かにこれが人類社会の究極の進化の形の一つだということを、私は否定する言葉を持ちえませんでした。
さりとて、それに対して何かを明確に述べる思索もなく、ゆえにこうして「感想文」をしたためた次第です。


これについて思い出したのが、私の好きな小説の一冊、時雨沢恵一 著「キノの旅」の第一巻に登場した「人の痛みがわかる国」でした。

多分にSF的な要素を含む短編集が「キノの旅」ですが、この話もその一つです。この「国」では人の気持ちがわかるようになる薬が発明され、国民全員がそれを飲みました。
その結果、皆が他人の痛みは分かるようになったものの、他人の嫌な部分、見せたくない部分までをも見てしまうようになり、結果として人々はこの読心効果の及ばない距離で離れ離れになって暮らすようになりました。
そうして互いに分散化した人々の間には、心を持たぬ機械たちが介在し、それによって社会生活が成り立つ…そんな国が舞台の短編でした。

この小説を読んだのはもう20年近く昔の話でしたが、私が拙稿の中で述べたVR世界の未来とのあまりの一致に、言葉が出ませんでした。

私たちが異なる人格である限り、人と人の心の距離が近づき触れあえば、多かれ少なかれ互いに反発するのを止めることはできません。
それが薬によるものか、あるいは情報化によるものかという違いはあれど、我々の心の距離が近づきすぎた、その未来の結末は分散化しかないでしょう。

人類は社会を、集団を作ることで発展してきたが為に、その分散化による心の平穏を選択できませんでした。
しかし発展する機械技術、あるいはVR技術と情報技術がそれを現実に可能にしてしまうことで、やがて「人の痛みがわかる国」のような姿へと変化する可能性が、分散化しあえて人が孤独を選ぶ社会が現実味を帯びてきたのです。


それをどう感じるか、やはりそれは人それぞれなのでしょう。我々は互いに違うがゆえに。
そしてそれを幸福の形であると感じる人が確かにいることもまた、確かな事実なのです。

この未来予想図に、私は今少しの寂しさと安堵感を同時に感じています。もしこれが現実になった未来、私ははたして何を思うのでしょうか?
自らへの問いかけを最後に、今回はここで筆を置こうと思います。


この他にも、VRやVTuberに関する考察・分析記事を日々投稿しています。
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また次の記事でお会いしましょう。


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少し短いながら、今回もお付き合いいただきありがとうございました。
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