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認知症とパーキンソン病で要介護4の父がハワイの海に入った話

最後の海外家族旅行としてのハワイ行き

私が17歳の時、父が44歳の若さで若年性の認知症とパーキンソン病を発症してから11年以上が経過。

私達家族3人が2年半振りの海外旅行へ行こうと決めたのは、2022年9月のことでした。

「ロード・オブ・ザ・リング」という映画の20年来の大ファンだった両親を連れて、ロケ地であったニュージーランドを訪れたのが2020年の1月。

直後にコロナが流行り海外にしばらく行けなくなるなんてことは全く想像していなかったものの、両親は長年の夢だったロケ地を訪れて涙を流してくれ、結果的に大正解だった旅行となりました。

父母念願のホビット村にて

父が身体の動くうちになるべく多くの思い出を作りたかったですが、コロナに足止めされるもどかしい2年半。
ようやく海外旅行への間口が開かれ始め、アメリカから日本への帰国時も抗原検査が要らなくなった2022年9月。11年の在宅介護を終えて11月半ばから父が施設に入所することになったため、これが本当に家族での最後の海外旅行になると考え、ハワイ行きを決めました。
(※この後色々あり、現在は要介護5で胃ろうとたんの吸引が必要ですが、自宅に戻り在宅介護をしています。)

ただ、もちろん認知症とパーキンソン病の発症後11年以上が経ち、食事・着替え・排泄など全てに介助が必要で車椅子の父を海外に連れて行くことは簡単ではありません。私たちの前には3つの大きな壁がありました。

立ちはだかる3つの壁

飛行機

1つ目は飛行機でした。
パーキンソン病の症状が進行している父は座った状態で直立の姿勢を保つことができないため、7時間ほどをエコノミークラスで行くのは不可能です。
使っているクレジットカードのポイントなどを駆使してマイルでビジネスクラスでの渡航を検討しましたが、翌年5月までマイル交換でのビジネスクラスは満席という状況でした。
エコノミーでは最大でも3時間が限界のため、グアムか沖縄にという案も考えていました。
ただ父の「ハワイに行きたい」という願いを諦めきれず、色々調べていた私は、ANAのカウチシートという存在を知りました。

それはエコノミー1席の値段にプラス往復10万円ほどで、3席ないしは4席を利用することができるため、横になって寝ることができるという席でした。

https://www.ana.co.jp/ja/jp/guide/inflight/service/international/couchii/

勿論多少プラスαの値段は掛かりますが、ビジネスほど高くはなく、大正解。
父はハワイに到着するまでの殆どの時間を横になって過ごすことが出来ました。

3席利用して横になる父

父の車椅子は本人の身体に合った特注でかなり大きなタイプですが、搭乗口直前までそれに乗ることができました。その後は丁寧に梱包していただき、車椅子も荷物として預けます。
いざ機内の中では、通路をぎりぎり通れる大きさのごくシンプルな車椅子をCAさん達が押してくれ、歩けない父でも安心して乗り込むことができました。

障がい者である父と共に旅行している私達をCAさん達はとても気を遣ってくれました。
カウチシート付きの飛行機の名前もフライング・ホヌといい、外観もとても可愛い。
優しいCAさん達と、カウチシートのおかげで大きなトラブルもなく7時間余りのフライトを快適に乗り切ることができました。

素敵なお土産までいただきました

ホテル

飛行機という大きな壁を乗り越えた私たちの次の課題は、ホテルでした。
母娘で数年間貯めていたクレジットカードのポイントを調べた結果、リッツカールトンに泊まれることが判明。
予めホテルの人に父の状態を伝えるとバリアフリールームを予約してくれました。(ちなみに私達が使っていたカードはAmex Mariott。年会費は¥50,000ほどかかりますが、使ったポイントで無料宿泊出来ることを考えるとかなりお得でした。旅行好きの方にはおすすめです。アフィリエイトのようで恐縮ですが興味のある方はこちらの紹介リンクから申し込んでみてください)
バリアフリールームは車椅子でも通れるように廊下などが広くなっており、キッチンや洗面台の高さも車椅子に合わせて低くなっていました。
先ほど書いたように父の車椅子は特注でかなり大きいのですが、このバリアフリールームのおかげで家具にぶつかる心配などせずにゆったりと過ごすことができました。

広々としたバリアフリールーム

また、リッツカールトンの良かったところは全部屋に大きなキッチンと洗濯機が揃っていること。元々コンドミニアムという長期滞在用のマンションとして作られており、その一部をホテルとして使用している「ホテルレジデンス」というタイプの建物のため、必要なものが部屋の中で完結します。トランプ元大統領も1部屋を所有しているとのことでした。
洗濯機があるホテルも多いとは思いますが、わざわざ外に出なくても洗濯ができ、父の失禁などにもすぐに対応できたことはすごく有難かったです。
また、父の体調的にも価格的にも(私達が旅行した時は最恐の1ドル150円にも近い円安時でした…)毎食レストランで食べるというのは現実的ではなかったので、キッチンと調理道具が完備されていたのは有難かったです。私達は日本からレトルト食品を持ち込んで、温めて食べるということも出来ました。


広々としたキッチン

観光場所

そして最後の課題は父をどこに連れて行くか。観光場所でした。
しかしホノルルの街は段差が殆ど無くバリアフリーが進んでおり、車椅子を押して歩きやすかったです。
普段父は車椅子に乗っても寝てしまうことも多いのですが、ハワイは刺激的だったようで一時も眠ることなく、常に周りをきょろきょろと見回していました。
レンタカーを借りてジュラシック・パークのロケ地にもなったクアロア・ランチへも行きましたが、更に素晴らしかったのが水陸両用の海にも入れる車椅子。
いくつかのビーチに置いてあり、なんと無料で利用することができました。
父もまさか要介護4で車椅子が必要な状態になってから海、それもハワイの綺麗な海に入れるとは想像もしていなかったようで、すごく嬉しそうな笑顔を見て私達も旅の苦労が吹き飛びました。(それ以上にお金も吹き飛びましたが…)


最初はおっかなびっくりだった父
車椅子のままがっつり海の中まで行けます、父も次第に慣れて楽しんでいました

残念ながら2023年1月、施設で誤嚥性肺炎を起こしたにも関わらず病院の受診が遅れて悪化してしまい、わずか1ヶ月で胃ろうが必要な状態になり現在も入院している父ですが(これはまた大変な話だったので別の機会に書きます)、病院でも看護師さんにハワイの話をしていると聞き思わず母娘で涙がこぼれました。

「老いや病気・障がいが怖くない社会を作る」

「要介護4の父がハワイで海に入った」
こう話をすると、父を介護していただいたヘルパーさんやケアマネさんはじめ、母や私の知人も皆さんすごく驚かれます。
ただ、ここまで読んでくださった皆様はそれが決して不可能ではないことを分かっていただいたと思います。

確かに介護はつらいです。綺麗事ばかりではありません。
私が17歳の時に父が44歳の若さで認知症とパーキンソン病を発症してからの12年、書ききれないほど色々な辛く苦しいことがありました。
ただそれでも、11年以上父を在宅で介護することができ、最後には家族3人でハワイで笑うことができた。
病気や介護、障がい=絶望ではありません。
老いや病気・障がいを支えるサービスや製品・制度などは実はたくさんあります。

目が悪くなったら眼鏡をかけますよね?
それと同じで耳が聴こえにくくなれば補聴器をつけるし歩きにくくなったら車椅子に乗る。
認知症になったら金銭管理がしやすいカード(https://kaeru-inc.co.jp/news/partnerapp)を使えば良いし、ご飯が食べにくくなったら介護食を簡単に作れる調理鍋(https://gifmo.co.jp/delisofter/)を使えば良い。
ただそれだけのことなんです。

ただ、そうしたサポートが知られていない、必要な人に届いていません。
だからこそ、私達は、そうした情報を網羅的にケアラーに届けるため、介護の状況を伺い、個々にカスタマイズした介護の手順書(ケアレシピ)を作成する、「ケアライフコンシェルジュ」というサービスを提供しています。

30分無料で介護相談を受け付けていますので、ぜひご利用ください。

「病気になってごめんね」より「病気になったとしても」

父が介護が必要になった後、父に「病気になってごめんね」と言われたことがあります。
確かに、父の病気のために色々な苦労をしてきました。
しかし、私たちは決して「ごめんね」と父に言って欲しかったわけではない。
病気になったとしても大好きな父に変わりはないし、父に少しでも人生を楽しんでほしい、そして私たちも父と一緒に過ごしたいからこそ、在宅で介護をしていたのです。

だからこそ、父には「ごめんね」ではなく、「病気になったけど、楽しく生きられているよ」と言って欲しかった。
それなのに、父を辛い立場に追い込んで、「ごめんね」と言わせてしまったことに途方もない罪悪感と徒労感を覚えました。

父の病気は原因はわかっていませんが、遺伝性の可能性も否定はできません。そのため、私も父のように40代で病気を発症する可能性もあります。
私だけではなく、誰しも皆、いつどんな病気になるかわかりません。
その時にあなたは、大切な人に「ごめんね」と言うのでしょうか。
大切な人に「ごめんね」と言わせるのでしょうか。
私は、言いたくないし、言わせたくない。
父のように病気を発症しても、自分らしく生きられる社会を作りたい。
だからこそ、このプロジェクトは、誰よりも私自身のためのプロジェクトです。

一緒に、「病気になってごめんね」と言わない、言わせない、老いや病気・障がいが怖くない社会を作りませんか?

これからも、株式会社想ひ人では「老いや病気・障がいが怖くない社会を作る」ためのサービスを作っていきます。
TwitterやInstagramでは、そうした不自由さをサポートする様々なケアプロダクトを紹介していきますので、良かったらフォローをよろしくお願いいたします。

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メールアドレス:moe.kaneko@omohibito.com

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