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人的資本と人材戦略~【解説】人的資本可視化指針(第3回)

人的資本可視化指針より

人的資本可視化の動きの中で、人材戦略を改めて見直しせざるを得ないというのが多くの企業の現状でしょう。なぜなら、人的資本に関連する情報を可視化するにしても、そのベースにある人材戦略の内容とその質が問われるからです。実際、「人事戦略」らしきものが存在していて、それをもとに人事が機能しているものの、それが公開に耐えられない、投資家から見て十分な「人事戦略」とは言えないことも多いと思われます(専門家としての厳しい言い方ですみません)。

過去の「人材戦略」のようなもの、延長みたいなものではなく、価値を生み出す、イノベーションの源泉である人に着目・徹底的に考察した「人材戦略」が求められているのです。その点を解説したいと思っています。人的資本可視化に参考になる「価値協創ガイダンス」を踏まえて見てみましょう。

3つの視点

「価値協創ガイダンス」によると、人的資本時代の「人材戦略」には3つの視点(Perspectives)が存在するようです。

①経営戦略と連動しているか
②目指すべきビジネスモデルや経営戦略と現時点での人材や人材戦略との間のギャップを把握できているか
③人材戦略が実行されるプロセスの中で、組織や個人の行動変容を促し、企業文化として定着しているか

価値協創ガイダンスより

この3つの視点は人事戦略上の必須の要件と言っても過言ではあありません。

一つずつ見ていきましょう。まず①経営戦略との連動こそ重要であるということです。大企業ですと、組織は官僚化したり、人事が権力を持ったり、人事が人事の最適化を図ると、経営と人事が連動しない、形状連動しているが機能しなくなってしまうケースが見受けられます。

人事はなんのためにあるのか。

人事マネジメントの最適化ではなく、企業経営・経営戦略に基づく収益向上に寄与することが目的であるということです。人事のための人事ではなく、「経営のための人事」にすること、つまり、経営戦略に寄与する役割、そして、役割を果たせるように制度と運用をうまくやっていくこと、連動させるように改善するということです。

経営戦略と人事戦略を近づけるために

そして、②目指すべき経営戦略と人材戦略との間のギャップ把握ですが、そもそもこの2つを対照させ、近接度を把握するということです。経営戦略を推進するための人事戦略になっているか、その項目・内容の近さ、論理的つながり、相互影響と作用、こういったことを把握し、考えていくことです。
経営戦略を実行するためには、人事・組織体制がそれなりに整っていて、円滑に機能していないといけません。求める人材要件、採用、昇進、報酬、人事評価制度、人事評価の運用、人事労務制度、各種ルールがあったとして、それが経営戦略を実行するのに適していないといけません。そして、経営層の戦略実行マネジメント、各組織でマネジメントがうまくいって、マネジメントサイクルがまわって、結果として経営上の目標が達成されないといけません。だからこそ、まず現状を見ましょうということです。現状を見て、可視化し、課題を整理していこうということです。

必要な行動変容

③人材戦略が実行されるプロセスの中で、組織や個人の行動変容を促し、企業文化の定着していくというのは、まさに「改革」です。行動変容を伴うものが本物の「人事戦略」というものだということです。社員がこれまでの言われたことだけやる、とか、前例どおりやる、とかではなく、価値を生み出す行動をとれるよう、行動変容が期待されていて、人事戦略はそれを促さないといけないというわす。
具体的には
・新事業・新製品の展開
・社員1人1人のチャレンジ姿勢・発想力の向上
という行動変容が期待されているということです。

人的資本可視化指針より

3つの視点の3つの意味

3つの視点には以下のような3つの意味があります。

①人事戦略はより鮮明に経営戦略の根幹であることが位置づけられたこと
②人事戦略や人事情報を可視化するだけでなく、経営戦略へのつながりも含めて可視化する必要性があること
③人事戦略は経営戦略に連動はもちろん、行動変容と組織文化の定着にまで射程にいれるべきと改めて確認されたこと

筆者作成

「人的資本」における人事戦略は、こうした意味があるのです。人的資本を可視化するだけでは不十分であり、人的資本を前提として人事戦略はこれを機に抜本的に変える、タイミングなのかもしれません。
そのために、収益を上げるために組織はどうあるべき?人材はどういった条件が必要か?という点をしっかり考え抜くことが大切なのでしょう。

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