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母の精神が崩壊⑬ 偽物の自分

ある日、母に面会にいった。
病院のベッドに背中を丸め、
床を一点見つめ、座っている母。
最初は、変わりゆく母の現実の姿を
受け入れることが、できなかった。

なんでだろう。
なんで受け入れられないのだろう。
変わってしまった母のことを
受け入れられない自分は、
ダメ人間。
そう思うようになっていた。

心でずっとくすぶり続け、消えない
ダメ人間、というレッテル。
自分でつけたレッテルに、苦しんだ。

このままでは、前に進めない。

そう思い、自分の心と向き合うことにしたが、
自分が思った以上に母への思いに、
触れることに、恐怖を覚えた。

でてきた感情を
紙に書き出すことにした。
スッーと深呼吸をし、
ペンを握り、
紙に向かった。

人にばっかり、頼らないで!
自分でしないくせに、文句ばっかり言わないで!
人のせいにしないで!
人と比較しないで!
ほっといて!
認めてよ!

うるさいんだよ!!!

紙に書いていたはずなのに、
気がつけば、一人、泣きながら叫んでいた。

そのとき、始めて、母に対して
こんな感情だったんだと、思い知った。

母は、傷つきやすい人。
私は、ハッキリ口にするタイプで、
母に自分の思っていることを伝えると、
いつも、泣かれていた。
こっちが泣きたいよ、という時にも、
私より先に、悩み、泣く、母。

そんな姿を見て、
いつしか、本音で話すことを辞め、
偽物の自分で、母に接していた。
母が求めている、理想の娘で、
知らぬまに、接していた。

母は、私が求めていた
強い母では、なかったんだ。

そう、思うと、母親ではなく、
一人の弱い人間として、母を客観視できた。

不思議と、母親ではなく、
一人の人間として、母のことを思うと、
冷静に判断できる自分がいた。

ふと、病院で見知らぬ患者さんに、
指摘されたことを思い出した。

『可哀想やと思て、一回してやったら、毎日やってくれ言うてきやがって!あんたのお母さん、あんたが思うほど、弱ってないし、自分でちゃんと歩けるし、判断もできる!甘えとるだけや!』と。

そう。
その通り、と、心のなかで思った。

父や姉にこの話しをすると、
腹が立つ、と言っていたが、
私はというと、なんとなく嬉しかった。

母のことを、ちゃんとできる人間として、
見てくれている人がいると思うと。

『教えてくださって、ありがとうございます』
と、伝えると、黙って去っていった。

母は、こんなことを言われて、
どんな表情をしているんだろうか…
泣いているんだろうか…

母の顔を覗き込むと、
怒っている!

『そんなこと言われても、できんのにぃ』
小声でブツブツと言い返していたのだ。

『部屋へ帰ろう』

部屋へ戻っても、
まだ納得がいかないと
怒っている母。

そんな母をみて、純粋な子供の心のように思え、
愛おしくなった瞬間だった。
































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