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母の精神が崩壊⑨ 孤独

病院関係者の方との関わりを断固拒否する母。主治医の先生、看護師さんもお手上げ状態だった。

面会へ行った際、主治医の先生から呼び止められ、談話室へと招かれた。『お母様のことを教えていただけませんか?こんなに気になった患者さんはいません』と言われた。母は、頑なに食べること、話すことを拒否していた。

母の家族について。育った環境について。していた仕事について。色んなことを聞かれた。

母は、軍人の祖父のもと、かなり躾の厳しい家庭で育った。神社の祭りのとき、出店で物を買うことを禁止され、いとこや友だちが、買ってもらった食べ物を持って、楽しそうに通りすぎて行くのを見て、羨ましかったと言っていた。家の玄関に靴を出しておくことも許されず、祖父と話しをした記憶もないと言っていた。年の離れた兄が3人いたが、物心ついた頃には、成人しており、家にはいなかっと言っていた。

この環境こそが、母の心の根底を作り上げたように思えた。祖父と話しすることもなく、兄妹喧嘩もしなかった母が、素の自分を出せるのは、きっと祖母しかいなかったであろうと想像できた。

年月が流れると人は変わり、25年前に亡くなった祖母の死を境に、兄3人の喧嘩に巻き込まれ、唯一の肉親である兄とも絶縁状態となった。

主治医の先生と話しているうちに、母には、心の拠り所がないことに気がついた。

孤独だったのだ。

幻覚と幻聴に怯えながら、祖母を思い『お母さん、助けて…』と言いながら、泣いていた母の後ろ姿を思い出した。

心を押し殺して生きてきた母は、いつしか高齢となり、自分の感情を表現することが、わからなくなってしまっていたのではないか。そう思うと、入院当初、怒り狂いながら、感情を剥き出しにした母の姿が、なんだか人間くさく、愛おしく思えた。



































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