【ケーキの切れない非行少年たち】 反省以前の問題へのアプローチ
本書について
ケーキを切れない非行少年たち
宮口 幸治(著)
発売日:2019/7/12 新潮新書
【要旨】
筆者は、多くの非行少年たちと出会うことで、認知行動療法では対処できない「反省以前」の少年たちの存在が多いことが問題であると提案する。「ケーキを三等分に切る」ことすら出来ない非行少年の存在がリアルに描かれている。しかし、このような少年は特別でなく、「軽度知的障害」のくくりでは人口の20%弱が当てはまるとされている。本書は、この軽度知的障害に焦点を当てて、その存在の理解と、認知機能の向上に向けた教育トレーニングを提案している。
とてもインパクトのある表紙のため、手にとって読んでみると、最後まで一気に読んでしましました。もともと岡本茂樹(著)の「反省させると犯罪者になります」を読んでいたこともあり、犯罪の事例や矯正教育の問題点を、広義の教育と捉えて、自分の中に落とし込んでいこうと思っていたので、本書もとても興味深かったです。
本書は、「反省以前」の少年たちに焦点を当てています。表面的な犯罪という結果だけをみて善悪を判断することはとてもシンプルでわかりやすくはありますが、そこからは教訓を得ることはできません。失敗の科学にもあるように、フィードバックが重要です。特に人間が関わる問題は、複雑であり、単純に結論を出せることは多くありません。したがって、起こってしまった事象に対して再発を防止するために、徹底的に分析し、効果的なアプローチを模索することは非常に健全で重要な姿勢です。
本書は、そのような「反省以前」の少年たちを提示しつつ、認知機能向上のための効果的なトレーニング方法を提案しています。
簡単ではありますが、本書の内容の一部を紹介させていただきます。
本書のモチベーション
犯罪者を納税者にする
刑務所の受刑者1人の費用:約300万円 / 年
平均的労働者の納税額:約100万円 / 年
→1人の受刑者を納税者にすることで、約400万年 / 年の経済効果
*平成29年の収容人数:56000人 → 約2240億円 / 年の損失
犯罪者を減らすことが、日本の国力向上に繋がるとの考え方のもと、本書を展開している。
問題提起「認知行動療法の限界」
認知行動療法は、認知機能に問題がないことを前提に考えられた手法であり、認知機能に問題のある場合(発達障害や知的障害)の効果は証明されていない。
認知機能療法:思考の歪みを修正し、適切な行為・思考・感情を増やす療法
→対人関係スキルの改善を図る
例)AさんがBさんに「おはよう」と挨拶したら、Bさんから無視された
療法前:無視された!僕のことが嫌いなんだ!(怒り)
療法後:気づいていないだけ?次回は大きな声でしてみよう!
しかし、認知機能療法の効果なく、繰り返し犯罪を起こす少年も多数、、、
→知的ハンディにより、療法自体を理解できていない
本書は、認知行動療法「以前」の少年達への対策の提案の本である。
現状把握「反省以前の子供たち」
粗暴行為を繰り返す少年:世の中のことが全て歪んで見える可能性がある
→反省以前の問題である(反省という認知機能の欠如)
Rey複雑図形の模写(資格認知力を測るテスト)
ケーキを三等分に切るテスト
→表題にある通り、犯罪を起こした「中高生」の中には、複雑図形の模写以前に、二次元の円を三等分にできない少年も多くいる。
したがって、従来の認知行動療法による矯正教育では、非行の反省や被害者の気持ちの理解に焦点が当てられていたが、そもそも「反省する」能力があるのか?という疑問が浮かぶ。
→更生に必要な能力を養うことから始めるべきではないのか?
本書の姿勢
犯罪行為自体は許されるべきではない。しかし、本来は支援されなければならない障害を持った少年たちが犯罪に手を染める問題(教育の敗北)に立ち向かう必要がある。
解決策「知ることから始める」
認知能力の低い少年に共通の項目は、
・計画力の欠如:どうしてそんなことをやったのか?
・反省能力の欠如:被害者に対してどう思っているのか?
・感情統制の弱さ:怒りが冷静な思考の妨げに
・融通の利かなさ:思いつきの行動(時間の概念がない)
などがある。
これらサインの早期発見と支援が必要(サインは小学生低学年あたりから)
認知能力が低い人はどれくらいいるの?
軽度知的障害(思索深さの欠如:予測する力)
IQ70未満:人口の2%
IQ85未満:人口の16%
→IQ70〜85の軽度知的障害は、人口の14%
健常者との違いは、困ったことが起きた時の柔軟な思考が苦手かどうか
*受刑者の約50%は軽度知的障害である
アプローチの方法は?
◾️褒める教育は問題の先送りにしかならない
→問題の根本的な解決が必要である
◾️自尊心が低いことが問題でない
→自尊心をあげるアプローチでなく、自尊感情が実情と乖離していることが問題であり、自己理解をする必要がある
認知機能の向上へ
認知行動療法をベースとした「考えさせる」プログラムから、学習の土台である認知機能をターゲットにしたプログラムへ
→自己への気づき、自己評価の向上
→これを達成して初めて、被害者の気持ちの理解、本当の意味での反省へ
認知機能をターゲットにしたプログラムとして、筆者は「コグトレ」を推奨している。下記の書籍にて、認知機能を向上させるための、トレーニングが紹介されている。
認知機能の向上を達成してはじめて、本当の意味での反省が始まる。ここで、この「反省」の方法について、現状の更生プログラムを鋭く批判しているのが、下記の「反省させると犯罪者になります」である。合わせて読むことで、非行少年だけでなく、広義の教育の観点で得るものがたくさんあるので、おすすめである。
以上、教育関連の本は定期的に読んでいます。教育の知識は「教える」ために必須ではありますが、それ以外にも、対人関係の構築のために、非常に役に立つ視点を多く与えてくれます。
写真は、愛媛県新居浜市のスープカレー専門店「サランサラン」のレギュラースープカレーです。
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