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安心してもらう技術


安心、してますか?


突然ですが、安心、してますか?  



あんしん? 安心? 安心してるかどうか…。はて……。いやそもそも安心ってなんだっけ……? 



改めて考えると安心ってよくわかんないですよね。なんでこんなことを聞いたかというと、プロコーチとしてコーチングを提供していく上でこの「安心」がとても大切だと思っているからです。


コーチングとは大雑把に説明すると、クライアント(コーチングを受ける人)に、どんな人生を送ってそのために何があると幸せになれるかを対話を通して発見してもらうもの。


そしてこの「どんな人生を送ると幸せになれるか」を発見してもらうには、対話の場に対して安心してもらう必要があります。コーチングとはクライントに安心してもらうプロセスである、と言っても過言がないぐらいです。


なのでコーチとしてどうすればクライアントに安心してもらえるか、つまり安心してもらう技術を常に探し求めては磨く日々を送っているわけなんですが、この技術はコーチングだけでなく、日々のコミュニケーションにおいても汎用性がありそうなので、ここで一旦まとめておきたいと思います。僕もまだまだ修行中ではありますが、読んだ方になにかしらの発見があると嬉しいです。それではどうぞ。


安心とは何か


本題に入る前にまずは安心とは何かについて考えていきます。【「利他」とは何か】という本にこう記されています。


安心は、相手が想定外の行動をとる可能性を意識していない状態です要するに、相手の行動が自分のコントロール下に置かれていると感じている。

「利他」とは何か

▲本はこちら


ここを読むと、あれ? 安心ってそんなに良いものじゃないのでは…? と思いませんか? 


「相手の行動が自分のコントロール下に置かれていると感じている」状態は、あまりいい状態ではないですよね。他者を支配してるみたいじゃないですか。


でも実はその通りで、安心ってのは不確実性を排除した状態を指します。人生は不確実性といかに折り合いをつけるのかが肝要なので、常に安心な状態でいるのもあまりよろしくない。


なので安心に止まるのではなく、そこを超えて信頼に至ることがとても大切なのですが、信頼に至るにはまず安心を経由する必要があるんですね。とにかくまずは安心から。この認識が大切です。


▲この辺の話はこちらに書いてあるので興味ありましたら是非


ちょっと話がずれてしまいました。とにかく安心とは、相手が想定外の行動をとる可能性を意識しなくてもいい状態。つまり、相手が自分の存在を否定してこない状態、とここでは定義しておきましょう。


安心した後に「つい」やってしまうことが才能

継続でコーチングを提供していくと、そのクライアントから「新しく〇〇をはじめてみました!」や「嫌になって中止してた創作活動をまた再開しました」といった報告を聞くことが多くあります。この理由について、クライアントが安心し才能が発芽したからだと考えています。


まもなく2歳になる息子の子育て中なのですが、一人で公園を走り回ってる時にチラチラこちらを振り返るんですよ。「ちゃんと見てるか〜親〜?」みたいな顔して。可愛い。


これってなにをしているのかというと、ちゃんと自分を見てくれている、という安心を得ようとしているんですね。安心が得られているからこそ独走ができる。そしてこれは大人でも一緒だと考えています。


人は安心したら何かをはじめたくなる。安心を感じると遊びたくなる。そこで行われることこそがその人の才能だと考えています。他者より優れているとか巧くできるとかではなく「つい」やってしまうことが才能。



逆に言うと、才能は安心なしに表出することが難しい。才能は表に出たがっているが、安心がないためにその機会を得られないままになっている。



僕は人が才能を発揮して楽しそうにしている姿を見るのが好きなので、コーチングにおいてクライアントの才能が発芽する瞬間を心待ちにしています。

「安心関係」と「馴れ馴れしい関係」の違い

安心してもらう技術について話す前にもう一点だけ。相手に安心してもらう「安心関係」と、友達のようにベタべタする「馴れ馴れしい関係」は別物です(ベン図で表すと重なる部分もありそうですが)。


相手に安心してもらうのと、フランクで仲良しな関係になるのは違う、ということですね。これはコーチング失敗あるあるなのですが、クライアントと親しくなったほうが本音を引き出せるだろうと、自分と相手に存在する境界線を無視して接近するパターンが多く見られます。



このやり方で接近すると、短期的には良い影響がありますが、長期的には悪い影響のほうが多くでてきます。存在している境界線を無視しているわけですからね。そもそも、コーチングはクライアントからお金をいただいてるので、完璧に対等な関係などありえないのですが。


相手と自分の間には越えられない境界線がある。その線の前で腰を下ろし、わかり合えない居心地の悪さを堪える姿勢が大切です。その上でどのように考え振る舞えば相手に安心してもらえるのか。ここに「安心してもらう技術」があると考えています。


安心してもらう技術


前置きが長くなってしまいました。ではここから現時点で僕が大切にしている「安心してもらう技術」の話をします。抽象的な話も含みますがよろしければお付き合いください。


旧友に会う気持ちで

敬愛する精神科医・中井久夫氏はクライアントと会う際、「よく来たね。久しぶりだね」と心の中で呟いていたそうです。そうすると顔がなつかしそうな顔になり、いい感じになるから、とのこと。


このことを知ってから、コーチングでクライアントに会う前に「よく来てくれましたね。お久しぶりです」と呟いています。僕は声に出したほうがしっくりくるので小声で呟いているんですが、これが効果があるんですね。


クライアントに会うことが嬉しくなるんですよ。心が少し上向く感じがあります。きっと表情や声も柔らかくなっていて、それはクライアントにも伝わっている(といいな)と思っています。


これは「内言」と呼ばれるもので、いきすぎるとオカルトっぽくなっちゃうのですが、バランスよく使えば日常生活でも効果があります。表情は他者の感情を生み出す作用があるので、こちらの安心が相手に伝わっていくイメージをもつといい感じになります。


腰を入れて話を聞く

ちゃんと話を聞くことが相手の安心につながります。当たり前ですが、意外と難しい。そこで「腰を入れる」という表現にすると適切に聞くことができるのでは、と考えています。


「腰を入れる」には身体的と心理的の2つの意味合いがあります。身体的には腰を据えてしっかり対象に向き合うという姿勢。相手の話を聞くときは携帯をいじりながらとかそっぽを向きながらとかではなく、体重をのせて相手に向き合うことが大切です。


心理的には、しっかりとした心構えで相手の話を聞くこと。他のことを考えながらとかはNGです。別のことを考えていると、それは相手に伝わります。安心とは逆の作用が働くので要注意です。


自分が忙しい時に誰かに相談にこられ、作業しながら聞く、ってのはやりがちですが、安心という観点で見るとかなりまずい行動です。そんなときは「今ちょっと忙しいから後でいい?」と断りをいれるのがいいと思います。その後で腰を入れて聞く。体と心を相手に向けて話を聞くことが安心を育みます。


思考の「長さ」と「深さ」を測る

ちゃんと話を聞く、という意味では、相手の話を最後まで聞ききることも重要です。


よくある失敗としては、相手が話したいことを全部話さない内にこちらが話しはじめてしまうパターン。「それって〇〇じゃない?わかるそれって…」「え?でもそれは〇〇だからじゃない?」みたいに自分の意見を挟み込んでしまう。


直感的にも理解できると思うのですが、これをやってしまうと相手は「この人には話したくないな」と思います。安心とは逆の方向にいくので要注意です。


もう一つのよくある失敗としては、相手が発言する前にこちらが話してしまって発言の機会を奪ってしまうパターン。沈黙が怖い人はこのパターンになりがちです。日常的な会話でもやってしまいがちですよね。


この状態にならないための物差しとして、思考の「長さ」と「深さ」があります。「思考の長さ」は、質問の答えを出すまでの速さのこと。それに対して「思考の深さ」は、質問に対してどれぐらい自分の考えを深めることができるか、を指します。


相手の「思考の長さ」と「思考の深さ」がわかると、どこで自分が話せばいいかのタイミングがわかります。つまり、相手の話を聞ききれるようになる。そのために必要なのが観察です。相手の表情や声色から自分のセンサーを駆使して仮説を立てて検証していく。安心は観察から生まれます。

▲この辺の話はこちらのnoteに書いています


色は緑

前述した精神科医・中井久夫氏は精神科病棟を作る際、緑色を効果的に使用したそうです。



赤・青・緑の三原色でいうと、赤は興奮作用がある。逆に青と緑は鎮静作用があります。同じ鎮静作用がある青と緑ですが、青は視線が安定しないそうです。つまり、われわれは青空を見てると一点を見ていることが難しい。視点がさまよってしまいます。


一方、緑は視点が安定します。空は無限の広がりがありますが、森は有限であることをイメージするとなんとなく理解できるのではないでしょうか。なので、緑には精神を安定させる作用がある。


このことを知ってから、Zoomの背景を緑に変えました(それまでは大好きなスプラトゥーンにしてたのですが)。緑は安心につながりやすい色である。すぐに使えるいいノウハウだと思っています。


コーチングは大体この背景でやってます。任天堂様ありがとうございます。


影響を受けやすい人間なので買う服も緑ばっかりになってしまっています…


自前の言葉で話す

相手が理解していない言葉を使用すると安心が育まれません。端的にいうと、専門用語を使用しないよう気をつけましょう。


言葉は自分と相手をつなぐ架け橋です。相手が理解していない言葉を使用することは、相手に見えない橋をかけること。「橋をかけたよ。渡っておいでよ」と声をかけても相手は渡れません。自分には見えるけど、相手からは見えてないからです。



伝わる言葉で話すこと。これが大切です。そのためには専門用語のように借りてきた言葉でなく、自前の言葉で話す必要があります。



また、相手が使ってる言葉を使うのも効果的です。言葉が伝わるだけでなく、「この人は自分の話を聞いてくれてるな」と思ってもらえるからです。


自前の言葉と相手の言葉で橋をかける。その往復が安心につながっていきます。


他者の安心は自己の安心から


「安心してもらう技術」について偉そうに綴ってきましたが、そもそも人に安心してもらうには、まずは自分が安心してないと達成できないと感じています。


なので、人の安心を考える前に、自分は安心できているか、と考えてもらえると嬉しいです。安心が足りてないなと思ったら「安心してもらう技術」を自然と行っていそうな周りの人を頼ってくださいね。まずは自分の安心を大切に。



最後に一つだけ話をさせてください。イギリスの児童精神医学者であるジョン・ボウルビィが提唱した「アタッチメント」という概念があります。


子どもが不安を感じたときに、養育者にくっつくことで安心感を回復するシステムのことであり、このシステムが発達することで、子どもが出会うたくさんの困難や苦痛に対して安心できるようになり、人生のよりどころとしてのイメージを持てるようになります。


ここで大切なのは、アタッチメントは「親から子どもに与えるもの」ではなく、「子どもの側が親に求めるもの」という視点です。つまり、安心とは誰かが授けるものではなく、人が能動的に求めるものなのです。


「安心させる技術」ではなく「安心してもらう技術」としたのはその意です。安心は与えるものではなく、他者の助けを借りて自分で育むもの。安心を育むための一助としてこのnoteが役に立てば嬉しいです。ではまた!

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