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わたしをかたちづくるもの

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「私の形」をテーマに創作したものがたり #エッセイ #小説
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2018年3月の記事一覧

バクと布団

バクと布団

「自分の動物」を選ぶとしたら、私はバクを選ぶ。

バクは、その見た目の様子から好きというよりは、意味づけも含めて好きになっていった動物だった。

我が家では、それぞれのトレードマークとなる動物がなんとなく決まっている。
寅年の妹はトラ猫。未年の両親はヒツジ。夫は実家で飼っていた巨大な猫が元になって白猫。「○○ぞう」という名前だった叔父は、もはやダジャレみたいだけど、象がトレードマークだった(ぴった

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「ゆうたん」

「ゆうたん」

「たまにね『熊胆(ゆうたん)』について調べたくなるの」

そう彼はつぶやいた。

「なんで?」

「わかんない」

「見たら辛くならない?」

「つらい。でも気になるの」

「クマが?」
「うん、クマも熊胆も」

明日目が覚めたら、クマが怖くて痛い思いをしない世界になっていたらいいのに。

出張の夜に

どこか遠くへ一人で行く時、例えば出張の時。
必ず、何か生き物の形をしたものを連れていく。
最近のお供は、充電ケーブルを保護するシロクマとマレーバクのアクセサリ。

出張のご褒美は、普段なかなか手に入らない一人の時間にあると思う。
独り占めできる部屋。いつお風呂に入ろうが、どんな姿でいようが、気にする必要がない自由気ままな時間。

だけど少し心細い。
もう大人なのになぁと思いながら、ホテルの部屋に帰

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さんぽの時間

さんぽの時間

暗闇にゴトゴトと車輪を回す音が響いている。

最初こそ、小さなカゴの中から聞こえる思いがけない轟音に驚いたけれど、この子と暮らし始めて数週間、もうすっかり慣れて、音が響いているとかえって安心して眠れるようになった。

私が夜中に起きて、トイレに行こうとするとその気配を察知して音が止まる。
数秒の沈黙。続いてカサカサと移動する音。
その後は、こちらに視線が送られてくるのを感じる。

「ちょっと待って

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青色の空

19歳、黒い猫の運送屋さんでアルバイトを始めた。
深夜3時から朝の6時まで。

大きな扉が開け放たれた冬の寒い倉庫から見上げる空は、
吸い込まれるような深い濃紺なのにどこまでも透き通っていた。

太陽が昇る前のほんの少しの時間。

その空を見上げながら息を吸い込むと
肺の中まで真っ青になる気がして、自分が少しだけ綺麗になれた気がした。

朝ごはん

はじめて朝帰りをした高校3年生の春休み。

ぼんやりと痺れた頭であるく帰り道。
なんだかまだ帰りたくなくって。

誰もいない朝の動物園の門をくぐった。
おばあちゃん象のはま子はりんごを美味しそうに食べていた。

柵の前のベンチに座って、くしゃくしゃの袋に入ったチョコレートを取り出す。
はま子と一緒に私も朝ごはんを食べた。

「昨日ね、」
そっとはま子に語りかける。

キラキラした朝だった。

ラーメンが食べられるようになったこと

子供の頃から、ラーメンの香りが苦手だった。
ラーメン屋さんの前を通る時はウッと息を止めて走った。

高校の修学旅行は北海道。札幌ラーメンが食べられるか緊張した。
グループのみんなに気を使われたくなくて、美味しいふりをして食べたラーメンの味は記憶にない。ちゃんと先に苦手だって言えばよかった。

そんなわたしが、今はとんこつラーメンも食べられるようになった。
夜中に食べたくなって、ふらりと出かける。

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